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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 昼間、地下水路のルートを覚えておいてよかった。
 闇に溶けた僕は、間違えることなく最短経路で竜の学院に到着した。

「シャラザード、起きてくれ」
『どうした、主よ』

「逃げた中型飛竜を追いかけたいんだ」
『ふむ、同族の追跡だな。構わんぞ。我ならばいくらでも追いかけることが可能だ』
「よし行こう」

 最低限の装備だけで、僕はシャラザードと一緒に大空へ飛び立った。
 できれば黒衣に着替えたいが、その時間も惜しい。

『それで、どこへ向かえばよい?』

「相手は商国を目指して海上を進んでいる。海に向かってくれ」
『あい分かった』

 昼間なら目立つシャラザードの巨体も、夜は周囲と同化して目立たない。
 ほとんどの人は、空を見上げてもシャラザードの姿を視認できないはずだ。

 しばらく進むと海に出た。
 スルヌフが海岸沿いを進めば分かるが、もっと海上に出てしまえば見つけることができない。

 商国に入られたらお終いだ。
 飛行ルートを予想して追いかけるか、先行して待ち伏せするかだが、正直どちらの方法を選択しても見つけられる自信がない。

「なあ、シャラザード。この広い海の上でたった一体の飛竜を見つけるにはどうしたらいいと思う?」

 スルヌフが海上を進んだのは、飛行航路を知られないためでもある。
 地上に下りて聞くことができない。

『我の力を使えば探せるぞ』
「本当か?」
 シャラザードにそんな能力があったのか。

『雷玉を放てば、当たったかどうかは分かる。それで判断できよう』
「なんだそれは?」

 シャラザードの属性技ぞくせいぎは、広範囲に被害をもたらすもので、使いどころがほとんどない。
 あれで捜索ができるのか?

『どの系統でもそうだが、我らが放った力であれば、相手に当たったかどうかは、ある程度把握できるわ』

「そんな特技があったのか」
 ということはソウラン操者の炎も、同じなのだろうか。女王陛下の氷も。

『やってみるか?』
「……そうだな」

 このまま飛んでいるだけで見つけられるとも思えない。
 ここはシャラザードの言葉に従ってみよう。

『よし、いくぞ!』

 シャラザードが帯電し、周囲にパチパチと火花がはじける。
 顔の前面に雷玉ができあがり、それが徐々に大きさを増していく。
 雷玉だ。これが放たれたときの被害は甚大なものだが、幸いここは海上。

「ほどほどに頼むぞ」
 前回を思い出して及び腰になる。

 近くに船がいた場合、大変なことになる。

 何の予備動作もなく、雷玉が上空に打ち上がった。
 帯電した空気もつられて上空に移動する。

「お、おい、ここで放って大丈夫なのか?」

 直後、僕らの頭上に巨大な光源が出現した。

 ――バババババババババン!

 数千、数万もの何かが破裂した音がした。
 嫌な予感がして耳を押さえていたが無駄だった。

 耳がキーンとしている。
 目の前がチカチカして、激しい頭痛にもおそわれた。

『……ふむ、この辺にはいないようだな』

 背中で突っ伏した僕を気にかけることなく、シャラザードは先に進んだ。

 シャラザードは移動しては雷玉を放ち、これを三度繰り返した。

 そして四度目。
 僕自身が雷と一体化したのではと思い始めた頃、シャラザードがぽつりと言った。

『左手上空に何かいるな』
「…………え?」

 耳がキンキンしているが、言っている内容がなぜか耳に入った。

『我の雷が何かに当たった。かなり先だが左手側だ。我らよりも上空だな』
「上空っていうと、雲の中? それとも上?」
『上だ』

 頭上に厚い雲があった。
 その上といえば、結構な高さだ。

「シャラザード、そっちへ行ってくれ」
『あい分かった、主よ』

 シャラザードが見当を付けたあたりに、確かにいた。
 中型の飛竜だ。

「近寄れるか?」
『余裕だ』

 シャラザードの予想通り、敵は雲の上にいた。
 僕らが雲の上に出た時点で発見されている。
 近づくときびすを返して逃げ出した。

 小型竜よりも速い。だがそれだけだ。
 シャラザードの速度ならば、追いつくことは難しくない。

「竜の真上にやってくれ。乗り移る」
『面白いことを考えるな。よし、やってやろう』

 シャラザードも乗り気だ。
 引き離そうと速度をあげる飛竜の真上に、シャラザードはピタリとつけた。
 こういう技は舌を巻くほどうまい。

 タイミングを見計らって、飛び移る。
 父さんならば楽々やれるだろうが、僕の場合、必死だ。

 僕が楽にやっているように見えるならば、それを表に出していないだけ。
 着地が成功した瞬間、冷や汗が流れた。

「おまえは『豪商』のスルヌフだな」
「なぜ黒竜使いがここに?」

「おまえを追ってきたに決まっているだろ! その後ろに縛り付けてある荷物は竜国商票か? 返してもらうぞ」

「何のことか分からんな。それより竜国は私になにをするつもりだ? 事によってはタダでは済まさんぞ!」

 交渉の余地なしか。分かっていたけど。
 竜の背に積まれた木箱の山を見た。
 どれにも竜国の刻印が押されている。

「素直に竜国商票を返せばよし。抵抗するなら処理する」
「これが何であるか知っているようだが、ただの竜操者が大きな口をたたく」
 スルヌフは笑った。

 スルヌフは五十代。老境にさしかかっているわりにはギラギラした目を持つ。

「交渉の余地はなしか」
「当たり前だ。しかしよくも王都から追ってきたものだ。まあいい。そこらの若者が行方不明になったところでだれも気にせん。……やれ」

 四人の男たちが身構える。
 全員呪国人だ。スルヌフの護衛か。

 他に一人だけスルヌフの後ろにいるのは……この飛竜の竜操者か。
 大金で家族ごと商国に下った男だ。

 足場の悪い飛竜の背という環境でも、呪国人たちの戦意は衰えていない。
 二人が前に進み出た。

 だが僕の小剣の間合いまでは近づいてこない。
 どうするのかと見ていたら、つぶてが飛んできた。

 小剣ではじくと、硬い鉄を打ったような音がした。

「飛び道具ね。たしかにこんな足場じゃ有効かもしれないけど……父さんはそれ以上の速度、それ以上の正確さで撃ってくるんだよね。しかも見えない」

 それを躱し続けた経験からすれば、ヌルい攻撃だ。
 お返しに指弾を打つ。

「――ギャッ!」

 一人の目に突き刺さった。
 よろけた拍子にバランスを崩し、あっという間に後方へ流されていった。

 飛翔する竜の背では、踏ん張らないとどこへ飛ばされるか分かったものじゃない。

「随分早い退場だけど……あと三人かな?」

「……ッ!?」

 一人が懐から長針を取り出した。
 それも投げつけるつもりなら、芸が無い。

 僕がにやりと笑うと、針を持った呪国人の顔が憤怒に染まった。



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