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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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「商館が狙われているって? なんで?」

 商館は重要施設であると思うけど、まだできたばかりだ。
 そんな場所を襲ったところで、意味は無いと思う。

「今回の襲撃は計算されたものね。少ない人数で大きな成果を狙っているの。でも詰めが甘い。だから本当の狙いを悟らせる結果になってしまったわ」

 城も狙われたようだ。
 王宮に忍び込もうとした敵の集団と〈左手〉が交戦。
 夜間ということで兵の到着が遅れたが、それでも間に合った。

「敵は時間稼ぎをしたあと撤退の準備に入ったの。でも包囲は完璧よ。それでいま籠城中。ここまで言えば分かるかしら」

「目を王宮に向けさせたいように思えるね」
 時間稼ぎして撤退とお姉さんが言うならば、本当にそうなんだろう。

 失敗して籠城というのも変だ。
 王宮の防御が堅いのは分かっているはず。
 目的を達しようとしないで逃げるあたり、本気で襲撃しているように見えない。

 他に目的があるとして、それが商館である根拠はなんだろう。
 今日、ヨシュアさんから聞いた話を思い出す。

「……もしかして竜国商票?」
 お金と同じに扱える竜国商票が商館にたくさん積まれている。

「その可能性が高いわね。竜国の信用失墜と同時に経済を混乱させられるから」
 あとは言わなくても分かる。
 竜国商票は、竜国商会のみで使えるものだ。

 その信用がなくなれば、竜国商会は瓦解するしかなくなる。
 大量の竜国商票を手に入れてばらまくだけでいい。
 そうすれば商国のひとり勝ちとなるだろう。

「学院や操竜場の守りは十分。王立学校もね。だからあなたは商館に行ってもらえるかしら」

「分かった」
 ヨシュアさんも本当に帰ったか気になるし、いまお姉さんの言ったことはあながち間違っているとも思えない。

 この時期だからこそ、商館が狙われたのかもしれない。
 まだ流通戦争の趨勢が決まっていないこの時期に。

 僕はすぐに闇に溶けた。
 都合よく、商館へのルートは覚えたばかりだ。すぐに着く。



 闇の中を進むと商館が見えた。
 川の中州にあるため、出入りは一カ所しかない。

「橋を守る兵がいない?」

 昼間は複数の兵が守っていた。だがどこにも見当たらない。
「これはひょっとするかも」

 襲われて川にでも落とされた可能性がある。
 急いだ方がよさそうだ。

 橋を渡って商館の敷地に入る。
 気配を探る。

 商館は大きく、建物の中の気配はよく分からない。だが……。
「血の匂いがする」

 良くない兆候だ。
 闇に溶けたまま中に入る。

 入り口付近に兵が倒れていた。
 三人、死んでいる。
 みな剣を抜いていた。
 襲撃はあったのだ。

 昼間行ったことのある共済保険の部署に行ってみた。
 だれもいない。
 ヨシュアさんは帰ったらしい。その他の従業員も。

「奥に行くか」
 いくつかの部署があるのは知っているが、どこに何があるのかはまったく分からない。

 血の臭いが強く立ちこめる方へ向かう。
 気配はない。廊下も部屋も静まりかえっている。

「……ここか」
 広い部屋に死体が複数転がっていた。
 商館で働いていた人だろう。

 散乱する本や書類を見る。
「ここが貸付部署みたいだな」

 従業員が残って働いていたところを襲われたのだろう。
 それにしても皆殺しとは、徹底的にやったものだ。

 部屋を出てさらに奥へ向かう。
 すると、二つ先の部屋から押し殺した息づかいを感じた。
 誰かいる。

 僕は闇に溶けてそこへ向かった。

 部屋の扉は閉まっていたが、下の隙間で闇がつながっている。
 難なく部屋の中に入り、気配を確認する。

 ひとり隠れている。
 室内は真っ暗で、ひとりだけ部屋の隅にいる。

 僕はその者の後ろに姿を現し、足を払う。
 床に半身を打ち付けたことを確認して、小剣を顔に当てた。

「おまえはだれだ?」

「やめて、こ、殺さないでっ!」
「ここで何をしている?」

「ここの……職員です。仮眠を取っていたら外が騒がしくなって、ひっ、人が死んで……」
「ずっとここにいたのか?」

「そうです。外の廊下を人が通って行って」
 貸付部署の事務員らしく、資料室の簡易ベッドで仮眠をしている最中に襲撃があったらしい。
 なんで資料室で寝るんだ?

 襲撃者はここにも来たらしいが、扉を開けても中は資料の棚ばかり。
 奥で寝ているこの男には気づかなかったようだ。

「襲撃者はだれだ?」
「分かりません。けど……廊下で話す声を聞きました。地下の保管庫へ向かったようです」

「そこには何がある?」
「契約書などの重要書類と竜国商票が保管されています」

 やはり狙いは竜国商票か。
 お姉さんの予想通りだが、喜んでもいられない。

「敵はまだいるかもしれん。おまえはここにいろ」
「は、はい。でも、扉には鍵をかけたのにどうして……?」

 真っ暗な室内で、男はうつぶせの状態。
 僕の姿は見えないため、どうやって入ってきたのか不思議なのだろう。
〈影〉の黒衣ではないので、姿を見せたくない。

「いいから目を瞑っていろ」
 説明する暇もないので、僕はそのまま闇に溶けた。

 襲撃者の目的は地下の保管庫。
 闇に溶けたまま向かうと、入り口にも職員がひとり倒れていた。

「ここまで案内されたのかな」

 保管庫の扉は開いていた。
 中は普通の部屋が四つ、五つ入るほど大きかった。

「竜国商票は……なさそうだな」

 書類が入った箱がいくつか残されているが、他はガランとしている。
 職員を案内させてここまできたのだろう。

 竜国商票を確認した後で、用なしとなった職員を殺す。
 襲撃者は竜国商票を持って逃走したか。

「馬車にでも積んだかな」
 担いで町中を走り回るわけにもいかないだろう。

 そして夜中の馬車は目立つ。
〈影〉の目に止まれば面倒なことになると踏んだのかもしれない。

 それどころでは無い状態を作るため、あちこちに火を付けた。
 火事ならば家財道具を積んで逃げる人も出る。

 物音ひとつしない深夜に馬車を走らせるよりも目立たないはずだ。
「商館の襲撃をこっそり行って、注意を火事に向けたか」

 とすると敵はどこへ逃げたのだ?
 すぐ王都を出発したとしても、遅くとも翌朝には事件が発覚する。

 そこから竜で大捜索をかければ、次の町に着いたあたりで発見されるだろう。

 ならば、燃やすとか?
 いや、それも意味は無い。燃やされたら、新しいのを刷ればいいのだから。

 とにかくもう、敵は脱出した後だ。
 捜索しなければ。



 そして僕が商館の外に出たとき、頭上を中型の飛竜が飛び去っていくのが見えた。


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