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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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「じゃ、話は終わったわよね。そろそろ帰るわ」
「そうか。私も今日は暗くなる前に帰ろうかな」

 被害報告はまだ増えるかもしれないが、目処が立ったことでヨシュアさんの気持ちに余裕が生まれたらしい。

 そもそも家に帰れない時点でおかしいのだ。
 今日くらいはゆっくり休んで欲しい。

 リンダは商館を出ると馬車に乗り込んで帰っていった。
 僕は歩き……というか、地下水路を使って帰ることにした。

 この商館があるあたりは王都でも外れの方なので、あまり来たことがない。
 水路の接続を確認しておきたかったのだ。

「そう頻繁にくるとは思えないけど、ヨシュアさんがいるしな。覚えておいて損はないはず」

 王城までの方向と距離、ついでに商業区域への経路を確認するために、僕は地下水路に潜った。

 王都は広い。
 以前父さんから教えてもらった水路はその広い王都を進むのにとても役に立っている。

 ただし、水路は思った場所につながっていないので、どの水路がどこに出るのか、しっかり把握していないと大回りすることがある。

「……なるほど、ここに出るのか」

 地上に顔を出して周囲を確認する。これで何度目だろうか。
 街灯がない場所は真っ暗だ。夜も遅い。

 だいたい数キロメートル進むごとに地上を確認した。
 これでおおよその接続が理解できた。

 あらためて思う。
 王都は広い。とにかく広い。

「でもこれで、貴族街以外はほとんど踏破したんじゃないかな」

 だんだんと王都に詳しくなっている自分がいる。
 あと一年したら王都を離れるのにだ。

「…………ん?」

 暗闇だが、かすかに煙が見える。
 夜空に立ち上る真っ黒な煙だ。

「火事かな」
 方角からすると商業街だ。
『ふわふわブロワール』の事が気になったが、煙の場所からは離れている。

 僕が行ってもしょうがないので、地下水路に戻った。
 闇に潜ったまま進み、水路の分かれ道にでた。

 ここらでもう一度地上を確認する。
「…………あれ?」

 近くで火の手が上がっていた。
 ここは住宅街だ。さっき見た煙の火元かと思ったが、方角が違う。

 どういうことだ?
 一晩で二件の火事?

 偶然ということもあるが、ちょっと普通じゃない。
 僕は屋根にのぼり、火事が起きた家を見る。

 やや大きいが、普通の民家だ。
 気づいた人が集まりだした。
 火事の方は放っておいてもいいだろう。問題は原因だ。

 屋根の上を移動して、周囲を探る。
「……いた」

 走っている男たちを発見した。
 現場から走り去るなんて、怪しんでくださいと言わんばかりだ。

 屋根伝いに向かう。
 男たちは全部で四人。

 距離はあるが、人通りが少ない方向に向かっている。
 見失う心配はなさそうだ。

「二手に分かれたか」

 分かれ道で二人ずつになった。さて、どっちを追おうか。
 一瞬迷ったが、僕は暗がりに向かおうとする二人組を追った。

 男たちは立ち止まり、周囲を見回す。
 屋根の上からそっと覗くと、男たちがしゃがみ込んだ。

 腰元から入れ物を取り出し、木の壁になにかを振りまいている。
 倉庫の壁だ。撒いたのは油かなにかだろう。

「ここでも火の手をあげるつもりか」

 幸い今は夜。
 僕は『闇刀』で、一人の喉元に小剣を突き刺した。

 男の口から赤黒い液体がこぼれ出る。
 もう一人がそれに気づいた、もちろん遅い。

 今度は横薙ぎに首を半ば切断する。

 男はよろめいて、膝をつく。
 最後の力を振り絞って火を付けようとしたが、その前に止めを刺す。

「……さて、もう一組を追うか」

 計画的な火付けのようだ。
 王都を混乱に陥れる?

 目的は分からないが、阻止した方がいい。
 先ほど分かれた場所まで戻り、もう一組が逃げた方を追った。

 闇夜は僕の味方だ。
 だが町中に逃げ込んだ二人を見つけ出せるほど万能ではない。

 見当を付けて、細道へ入る。
 放火が目的ならば、人通りが多い場所は避ける。
 ついでに袋小路も。

 人影がなく、逃げやすい場所。
 思いつく場所は、込み入った小規模な家が多いあたりだ。

 屋根に上って方角を確かめる。
「この辺はまだ明るい。もっと先だな」

 街灯もない暗がりに向かって進むうちに煙が一条見えてきた。
 遅かったようだ。

 火元へ急いで向かう。
 こちらに逃げてくる二人組を見つけた。

 道に下りて、行く手を阻む。
 驚いた二人がたたらを踏む間に一人を小剣で突き刺す。
 捕まえて事情を聞き出したいが、煙の勢いが増し始めた。

 のんきに尋問する時間はなさそうだ。

「このっ!」

 男がナイフをちらつかせて襲いかかってきた。
 訓練を積んだ者の動きではない。

 夜陰に隠れて火付けをするくらい、だれでもできる。
 彼らも使い捨ての者たちだろう。

「一応気絶させておくか」
 ナイフを避けて、膝を蹴り抜く。

 呻いて膝を押さえた男の後頭部に小剣の柄を振り下ろした。
 ちょっと嫌な音がしたので、頭の骨が折れたかもしれない。

 うつ伏せに倒れたので、念の為、残りの膝も砕いておく。
「これでよし……っと、火をなんとかしないとな」

 煙が出ていた場所は、古い民家が密集した一角だった。
 外に出していた廃材が燃えている。

「このくらいならいけるかな」
 燃えている廃材ごと僕の影に沈める。

 腰の高さまでしか沈まないが、幸い燃えている箇所はそれほど多くない。
 しばらくすると火の気配が消えたので影から出した。

「さて……だれかな?」

 気配が近づいてくる。
 闇に潜って待ち構え……ていたら、〈右足〉のお姉さんだった。

「ちょうどいいところに来てくれた」
「きゃっ!?」

 お姉さんの背後に出現したら、ものすごく驚かれた。

「そこに転がっている方は生きているから。あと二人、別の場所で処理済み。そっちは火を付ける前だったので、大丈夫だと思う」

「いきなり現れるのは、できれば止めてほしいのだけど」
 まだ目を白黒させている。

「燃えている二カ所はしょうがないとして、他は?」
「えっ!? ああ……放火犯を処理してくれてありがとう。助かったわ。……状況はあまり良くないの」

「というと?」
「この事件、放火が目的じゃなくて、陽動の可能性が高いと上は判断したわ」

 お姉さんの言う上って、〈左手〉上層部かな? ヒフとか、その辺の。

「陽動ってことは狙いは……また王宮?」

 去年、学院性たちが狙われたとき、事前に情報が漏れていたけど、真の狙いは王宮だった。
 女王陛下の命を狙うため、魔国十三階梯がふたりもやってきたのだった。

「いいえ。……狙いは商館。この一連の放火は、商館を狙うための陽動として行われているのよ」

 そうお姉さんは断言した。

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