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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 女王陛下との謁見は、とにかく心臓に悪い。

 謁見の翌日。
 授業が終わるとすぐに、僕はリンダを伴ってヨシュアさんの仕事場を訪れた。

 いまヨシュアさんは商館に軟禁されている。
 べつだん悪いことをして閉じ込められているわけではない。

 とにかく仕事が終わらなくて帰れないのだとか。

「……ここが商館?」

 川の中州に建てられた巨大な要塞があった。
 間違っても商売とかかわりがありそうな建物には見えない。

「そうよ。どうしたの?」
「いや、物々しいって段階を軽く越えているんだけど」

「もとは軍事施設なんじゃないの? 国が用意してくれたのがここらしいし」
「そうだろうね。これで軍に関係していなかったら、逆に怖いな」

 商館への出入りは、川に架けられた橋のみ。
 周囲へ威圧するような高い塀がぐるっと囲んでいる。

 入り口で厳重なチェックを受けて僕とリンダは中へ入った。

 ヨシュアさんの仕事場にいくと、書類と本が乱雑に積み上げられていた。

「よく来てくれたね、レオンくん。……やれやれ、これで少し休憩できる」

 そういったヨシュアさんの横で秘書だろうか。
 三人の男女が眉をひそめた。サボらないように監視されているのだろうか。

「お久しぶりです、ヨシュアさん。ずいぶんと疲れていそうですね」

「そうなんだよ。決済しなきゃならないものが毎日舞い込んできてね。明日に延ばせばそれだけ積み上がるって寸法さ。まったく人手不足にもほどがあるよ」

 目の下にクマがある。疲れているんだろうな。
 ヨシュアさんはお茶を一杯すすって、「ぬるいな」と脇へ追いやった。

「ほんっと久しぶりね、パパ。泊まり込んでもう何日目なのかしら」

「うーむ、五日か六日かな」
「バカじゃないの? 今日こそ帰って寝たら?」

「そうは言っても、仕事が次々舞い込んでくるんだ」
「だから何のための部下よ。部下に任せなさいって」

 リンダはそう言うが、そうできない事情があるのだろう。
 ヨシュアさんは共済保険を担当しているから、被害にあった商人にお金を支払う側だ。

 支払いをするのか、しないのか。
 支払うとしたらいくらが妥当なのか。

 そういった最終決断をしているのだと思われる。
 人に任せられない重要な仕事だ。

 いまヨシュアさんがしている決断が今後の基準になってくる。
 それが分かっているからこそ、人に任せられないのだろう。

「しかしここ……本当に商館なんですか。僕には」
「軍事施設に見えるだろ?」
 ヨシュアさんがニヤッと笑った。

「ええ、立地といい、設備といい、とても商売を扱う人たちが使う所とは思えないんですけど」

「ここは第二の軍令部らしい。普段は使用しないので、空いていたんだな。だから竜国商会の本部として貸し出してくれたんだよ」

「軍令部って王城の側にありましたよね」
「戦争になった場合、操竜会と軍部があそこを中心にまとまるよな。城にも近いし、操竜場にも近い」

 そう、城のすぐ近くに立派な軍令部があるのだ。

「第二の軍令部ということは予備なんですよね、ここ」
「そう。城と軍令部が落ちた場合、首脳部はここに立てこもることになる。橋を落とせば敵もやってこれないからね」

 行き来できるのは飛竜くらいなものだろう。

「なるほど、最後の砦というわけですね」
「ここが落ちたら竜国もお仕舞いだな。そういうわけで普段は閉鎖されているが、いつでも稼働できるようになっていたらしい」

 竜国商会の場所選定に難儀していたところ、ここを使うよう提示されたらしい。
 実際に稼働できるかの実験も兼ねていたのかもしれない。

「ねえ、パパ。そんなことより、仕事の話をしましょう」
「おお、そうだったな。で、どうだった?」

「はい、これ。調査報告書。盗賊団はいなかったけど、商人に扮した他国の人たちが悪さをしていたみたい。原因が分かったから対処できると思うわ」

「……これをおまえが調べたのか?」
「調べたのはレオンよ。報告書は私も手伝ったけど」

「なるほど……よく調べてあるな。しかし、これは組織犯罪じゃないか。驚きだ」
「レオンが竜操者で良かったわ。こんなの、街道付近をいくら探したって、見つかるわけないじゃないの」

「そうだな。町に出入りする商人の荷をすべて調べれば分かるかもしれんが……いや、そうなれば荷を入れ替えたり、分散させるだろうし。現場を押さえない限り、実態は分からなかっただろう。レオンくん、よくやってくれた」

「偶然に助けられたことが大きいですね。これで被害が減るといいんですが」
「手口が分かれば警戒できる。警戒する対象が分かれば、この国の警備体制は緩くはない。徐々にだが減ってくるだろうね」

「それは良かった。これで早く帰れますね」
「ああ。とすると、貸付部署に恨まれるかな」

 商館の中で、共済保険部と貸付部署のみが連日泊まり込みで仕事をしているらしい。
 とすると、居残り組は貸付部署だけになるわけか。

「そういえば、新規参入の商会がかなり増えているようですね」
「そうだね。地方で店を開きたい場合でも、一度は王都で手続きをしなければならないから、窓口はいつでもごった返しているみたいだね」

 貸付の申請窓口はここではなく、町中に複数あるらしいが、建物の外にまで列ができているらしい。

「貸付部署も同じ建物内にあるんですよね」
「そうだね。ただし、ここは内部でかなり細かく仕切られているから、私も行ったことはないんだけどね」

 軍事施設らしく、移動できる通路は限られているらしい。
 利便性よりも防御性を重視しているようだ。

「そうえば、竜国商票を発行しているって聞きましたけど」
「うん。臨時商票だね。支払いが先になるからいい手だ」

「精巧な銀板が三枚必要だって聞きましたけど、すごい技術ですよね」
「ほう」

 ヨシュアさんは急に商売人の顔になった。
 今までは優しい近所のおじさんという風だったのにだ。

「レオンくんに情報を渡す人は、ずいぶんと上の立場らしい」

 ヨシュアさんの目が笑ってなかった。

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