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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 館から立ちのぼる黒い煙を見て踵を返したのは、五十代の男だった。
 どこにでもいる町民の服装をしている。

 本人は隠しているつもりだろうが、こうして上から見るとよく分かる。
 だんだんと早歩きになるのは、気が焦っているからだろう。

「さて、追いかけるか」
 追う相手を確認し、僕は闇に溶けた。

 僕が闇の中から追っていくと、その男は細い路地を進んでいた。
 曲がり角で立ち止まり、周囲を伺っている。

 夜というにはまだ少々時間が早いが、もう少ししたら、完全にとばりが降りるだろう。

 男は道を何度か引き返し、細い道を選んで歩いている。

 僕は闇の中から男を追いつつ、じっと待った。
 完全に日がなくなり、通りを歩く人の姿がまばらになったころ、男は歩を緩めた。

 ここまで約一時間。
 ずいぶんと念を入れている。

 男の足取りは緩やかなもので、そのまま飲みにいきそうな素振りで、繁華街の方へ歩いていく。
 途中、路地裏に入ると、周囲を見回してから一軒の家に入っていった。

「どうやら、あそこが自宅らしいな」

 二階建ての小さな家だった。
 男が一階の椅子に座り、喉を潤している。
 その間に僕は二階へあがり、二つある部屋を探索した。

 階下に人がいるからあまりおおっぴらにはできないが、机の上に出ているもの、書棚に置かれているものを眺めるくらいはできる。

 その結果、ここに住む男が魔国から来た可能性が高まった。
「小物くらい、こっちで買えばいいのに」

 竜国では売られていない魔国品がいくつも見つかった。

 どこにでもある、取るに足らない小物をわざわざ竜国まで運んで売る商人はいない。
 魔国の私物を持ち込んだのだろう。

 間抜けな行動からしても、この男はあまり重要な秘密を持っているとは思えないが、一応、家の場所は覚えておいた。

 一休みして疲れが取れたのか、男は外に出た。

 僕に付けられていることに、気づいていない。
 男が人気のない方へ歩く。住宅街の外れだ。
 家がまばらにあるだけの寂しい一帯である。

 男は木々に囲まれた一軒の家に入っていった。
 付けられていることを少しも疑っていない。

 だが、中にいた者は違ったらしい。

 男は家に入ると、すぐに階段を上がる。
 二階に四人分の気配があるので、ここにいるのは合わせて五人。

 ここが彼らのアジトのようである。
 男が階段を上がりきる直前に、二階で立ち上がった音がした。

「どうした?」
「なんだ?」

 急にひとりが立ち上がったことで、だれしもが立つ。
「……付けられたな」

 その男がつぶやくと同時に、室内にいた全員がいまやってきた男を見た。

「ま、まさか……オレはそんなヘマはしねえ」

「結界は正常だぞ。なにもいな……」
「いや、いる! 下だ!」

「散れ!」

 その言葉に、二階の窓が開け放たれた音がする。
 どうやら、本当に感づかれたらしい。

 闇に潜った状態で気づかれたのは、父さん以外ではじめてだ。
 自問したがヘマはしていないと思う。

 地面に降り立つ音、走り去る足音が聞こえる。

 だけど、気配が残っている。ふたり分だ。
 僕は闇の中から姿を現して、ゆっくりと階段を上がった。

               ○

「どうして気づかれたのかな?」

 黒衣の下で、僕は声を出す。だが、返答は得られなかった。
 さて、二対一だけど、どうしよう。

「本当に一人みたいだな。他には?」
「それ以外に引っかかってない。どうやら、腕に自身があるようだぞ」

「まだ若そうだが」
「だからこそ舐めるなよ、ダブル」

「オーケー。確実に処理しよう」

 ひとりはダブルというらしい。若いほうだ。
 もうひとりは誰だろう。スルーだったらいいんだけど。

 まともに質問しても答えてくれないだろうし、どうしたものか。
 挑発して情報を得てみるか。

「王城でお茶目をした阿呆がいるって聞いたんでね」
 返答がない。

 僕はここに残った二人を観察した。

 両方とも町民風の服を着ているのは同じだ。
 歳は片方が四十代……いや、もう少し上かな。髪に白いものが混じっている。

 もう片方は二十代前半に見える。義兄さんとそう変わらない歳だろう。
 整った顔立ちで、やや面長おもながである。

 純粋な魔国人が多く持つ、アイスブルーの瞳をしている。
 代々魔道を使う家系かもしれない。

 僕は挑発を続けることにする。

「どうやら怖くて喋れないらしいね。粗相そそうをする前に降参する?」

「牝猿の犬がキャンキャンうるさいわ」

 五十代の男の方が喋った。
 やはりこの男が、僕の侵入に気づいて声を発したのだ。

「城に入って逃げ帰ったんでしょ。怖くてこんなところで震えているなんて、ずいぶんと可愛いところがあるじゃないか」

「目的を達したから戻っただけだ。あんな結界でよく大言を吐ける」
「どうだろうね。帰ったんじゃなくて、帰らされたんじゃないかな。本当はその先に進めなかったから」

「バカを言え、あの先の結界すら私にかかれば、容易に突破できるわ」
 かかった。
 うまく挑発に乗ってくれて助かった。

「ということは、あんたがスルーでいいんだね」
「……ッ!」

 口車に乗せられたことに気づいたのだろう。
 スルーから殺気が膨れ上がった。

「スルーを処理しにきたんだ。おとなしく殺される?」

 ここで殺気を放ってみる。
 逃げるかと思ったが、スルーが一直線に向かってきた。

 ならば、戦闘開始だ。

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