挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

257/655

257

 目の前を通過した商人たちの服装は、どこにでもある目立たないものだった。
 ただし、大地を踏みしめる足運びは力強く、まるで軍隊の行進を見ているかのように正確だった。

 背筋を伸ばし、まっすぐ前を見据えて歩く彼らは、僕がじっと見つめているのにも気づかず、進んでいく。

「……あの人たちは?」

「ああ、二、三日前から見かけるね。ここは人が少ない町だし、顔見知りの商人も多いからね。あの人たちは普段見かけないね。どっからやってきたのかしら」

「なるほど……ありがとうございました」
 僕はお礼を言って彼らの後を追った。

 通常の商人とは違う行動。
 兵士のような歩き方。
 何かがおかしい。

 気配を消して追跡を継続する。
 すると、男たちは宿屋前に停めてあった一台の馬車に乗り込んだ。

 馬車はどこにでもあるやつだ。
 荷台は目立たない灰色のほろが覆っている。

 先頭に一頭、斜め後方に二頭の馬がつながれている。三頭だてだ。
 御者が鞭をくれて、馬車は出発した。

「このまま町を出るみたいだな」
 馬車の形状を覚えた。シャラザードならばすぐに追いつく。

 馬車が町を出たのを確認したあと、僕も急いでシャラザードの元に向かった。

『主よ、早かったな』
「怪しい馬車を見つけたんでね。だけど、僕が戻って来たってよく分かったな」

 シャラザードは空を飛んでいた。
 それは分かっていたことだからいい。

 アラル山脈の岩場でシャラザードと分かれたので、そこで待っていようと思ったら、思いの外早くシャラザードが戻ってきたのだ。

 聞けば、遠くから僕の姿が見えたかららしい。
 逆に僕はシャラザードの巨体は見えなかったのだが。
 どんだけ目がいいんだろうか。

「街道を馬車が一台走っているはずなんだ。それを見つけてくれ」
『簡単なことだ』

 シャラザードが空高く舞い上がる。
 視界が開け、町と街道が目に入った。

『近くにはいないな』
 シャラザードが見えないならば、本当にいないのだろう。

 馬車が町を出発するのを見送ってから、僕は町の反対側を出て山脈の中腹まで歩いた。
 時間にして一時間と少しというところだろうか。

 すぐにシャラザードに見つけてもらっていまは空の上だ。
 それほど遠くまで進んだとも思えないが、街道は一本だけではない。
 別の町だけでなく、村に通じる道や、多少遠回りでも別の町へつながっている道もある。

「とにかく馬車を探そう」
 そう頻繁に通行するような場所ではない。

 しばらくシャラザードが上空から街道の上を探していく。
『主よ、あれではないか?』

 遠くに馬車が止まっている。
 街道ではなく、脇道に入っていたようだ。

「行ってくれ」
『よしきた』

 空から気づかれることなく近づくと、たしかに見覚えのある馬車があった。

「見覚えがある。町を出て行った馬車だと思う。……けど、なんでこんなところに?」
『どうする? 近づくか?』

「いや、止めておこう。このまま空から様子を見られるか?」
『可能だ、主よ』
「じゃあ、頼む」

 なんとなくだが、細道の脇で馬車を停めるなんて、人に言えないことをやっている予感がする。
 それを突き止めるまで、接触は控えたい。

 シャラザードが空中をゆっくり旋回してくれる。
 その間に下の馬車をよく観察する。

 馬車に動きはない。
 だれか接触してくるのを待っているのか?

 もしくは、時間調整か。
 なんにせよ、何にもない場所で留まっているには、理由があるはずだ。

「……ん?」
 近くの森の中から男が出てきた。
 見覚えがある。町の中を歩いていた一人だ。

 どういうことだ?
 今まで馬車の外にいたのか。

 何度も周囲を確認してから、男はもう一度森の中に戻っていった。
『主よ、なにかありそうだな』
「ああ」

 少ししてまた現れた。
 今度は重い荷物を背負っている。

 その後ろからも人が現れた。
 しかも複数。人数は……十人。大所帯だな。

 全員が荷物を背負い、馬車まで歩いて行く。
 幌を開けて、荷物を積み込んでいくのが見えた。

「密輸? でもないよな。禁制品とも思えないし」
 荷の扱いはぞんざいだ。希少なものを運んでいるとは思えない。

 あらかた積み終えると、今度は小さな荷物を馬車からおろし、全員がそれを身につける。
 何をやっているんだ?

「さっき積み込んだ荷物はもしかして盗品?」
 その可能性はある。

「シャラザード、男たちが出てきた森の先はどうなっている?」
『森の反対側か? 街道が見えるぞ』

「なら、あっちの街道で馬車を襲って荷物を奪ったかもしれない。シャラザード、あいつらを無力化できるか?」

『うむ。我の雷玉で』
「それは駄目だ!」

 そんなものぶっ放したら、全員跡形も無くなる。

『ならば、もう少しだけ穏便な手を使うか』
「かなり穏便な手を使ってくれ!」

 願いが聞き入れられたのか、シャラザードが急降下した。
 風圧で馬車は横転、男たちもかなりの距離を転がって、全員森の木々に身体を激しく打ち付けた。

「……死んでないよな」
 僕はシャラザードから飛び下り、男たちのもとへ行く。

 意識がある者が半数、立ち上がったのは二人だけ。
 僕が小剣の柄で側頭部を打ち抜いたら、あっけなくくずおれた。

「……さて、これで何もなかったらいろいろとヤバいんだけど」
 そのときは潔く謝ろう。

 まず男たちを縛り上げる。
 続いて、横転した馬車をシャラザードに起こしてもらい、中を確認する。

「穀物に調味料。それと日用品かな」

 男たちは全部で十人。荷台に乗れば、荷物を積む場所はない。
 町を出発したとき、男たちは馬車に乗っていた。

 つまり荷物は町の外で調達したことになる。

 馬がおびえているので、木に縛りつける。

「シャラザード、馬車を持てるよな」
 月魔獣を抱えて飛ぶくらいだから、馬車一台くらい問題ないだろう。

『もちろんだ、主よ』
「なら森の向こうの街道に行こう。ついでに男たちを連れて」

 男たちをシャラザードの背に乗せるのは面倒なので、全員をローブでまとめ、これもシャラザードに持ってもらった。

「さあ行ってくれ」
『心得た!』

 馬車と男たちを掴んだまま、シャラザードは空高く舞い上がった。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ