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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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「シャラザード、今日は僕ひとりで町中を探索するよ」

『我は退屈だの。……ならば月魔獣を』
「駄目だからね」

 こいつ、いまさらっと狩りに行こうとしたな。
 ここから一番近い陰月の路は魔国領だ。そしてシャラザードはどこに国境があるか分からない。

 こんなのが魔国領に入り込んだら、最悪戦争の引き金になる。

『では我は何をしていればよいのだ?』
「町の外で待っていてもらおうと思ったけど、暇ならば空を飛んでいていいよ」

 どういうわけか、竜は竜操者の居場所がすぐに分かる。
 それゆえ、竜操者は竜から逃げられないのだけど、竜がいなくなるという事態だけは避けられる。

『ではゆったりと滑空しておるかな』
「陰月の路にはいくなよ。大変なことになるから」

 それだけは念を押しておいた。

 シャラザードにポイジェの町まで送ってもらい、僕だけが中に入る。

 父さんのように空中から地上に下りたり、飛行中のシャラザードに飛び乗ったりできればいいのだけど……いや、あんな人間離れした動きは父さん以外できるはずがない。
 考えるだけ無駄だ。

「領主はウィリエル・イルイゾという名前だったよな。催眠術にかかってないとは思うけど、確認した方がいいかな」

 ウィリエル領主の政策や評判はどうだろう。
 まず町の人に聞いてみた。

「他の町では工場誘致の話があがってますけど、ここはどうなんです?」

「そういえば、ウチもそんな話が出ていたわね。でも無くなったんじゃないかしら」
「そうなんですか?」

「領主様が町の静寂と景観を守るって、議会で仰ったらしいわよ」
 果物屋の女主人はそんなことを言った。

 議会員の何人かは賛成していたようだが、領主が反対だったため、建築許可は下りなかったらしい。

「そういえば、魔国人の姿はあまり見かけませんね」

 ホーリスの町では、食い詰めた者たちが路上に座り込んでいる光景を目にした。
 ここはまだそういった人たちの姿はない。

「あらやだ、他の町はそんなことになっているわけ? だったら工場を建設しなくて良かったわ。景気が良くなるって話だけど、どちらかって言うと、治安が悪くなる方が先なんじゃないかしら」

 この女主人の考えは正しい。
 ソールの町でも魔国人が溢れつつあるが、彼らがよき消費者になるかといえば、微妙なところだ。
 事実、窃盗や強盗の件数は増えている。

「他に何か変わったことってありますか?」
「変わったこと?」

「普段と違うことでもいいんですけど」
「そうねえ……」

 女主人は考え込む。

「商人の馬車が増えたわね。この町は景観がいいけど発展していないもの。目に見えて増えたわけじゃないけど、年があけてからは少しずつ馬車が増えて来ているわね」

 店先に立っていたので声をかけたが、いろいろとよく見ている。
 工場建設の余波だろう。いろんな町に商人が進出している。

「ありがとうございました」
 僕は礼を言ってその場をあとにした。

 その後も数人の店主に話を聞いたが、おおむね同じような内容だった。
「ここの領主は大丈夫だな。呪国人も暗躍しているような素振りもないし、別の町がターゲットなのかな」

 父さんが〈右足〉を通してソールの衛星都市すべてに警告を発してくれることになった。
 遠からず不穏分子はいぶり出されることになるだろうが、それまでの数日間で致命的な決断がなされるかもしれない。

 次の町はどうだろうか。何もなければいいが。



『主よ、それはなんだ?』
「ああ、果物屋で買ったんだ。シャラザード、食べるか?」

 話を聞くために、店先で目に付いたものをいくつか購入した。
 この辺で収穫できるありふれた果物で、僕は小さい頃から食べ慣れている。

『うむ、もらおうか』
「おまえが食べたところで腹は膨れないだろうに」

『なに、味を楽しむのだから良いのだ』

 僕が持てる程度の果物では、シャラザードのおやつ(・・・)にもならない。
 それでも食べたいらしい。

 僕が口へ持っていくと、嬉しそうに頬張った。

「食べ終わったら行くぞ」
『よかろう。地の果てまででも行ってやろう』
「隣町だよ!」

 ものの十分で着いてしまった。
 シャラザードとの旅はそんなものだ。

 本日の二つ目は、アジウエントの町。領主の名はドルフレッド・モリシー。
 アラル山脈の麓にある、どん詰まりの町だ。

「ここも人が少ないな」
 町中に入ってまずそう思った。

 来たのは初めてだが、町の成り立ちは知っている。
 大量にあると思われた鉱脈が期待はずれで、町として大きくなれなかった経緯がある。

 それでも鉱石を加工して輸送するなど、細々と町の産業は続いている。
 このような斜陽の町こそ工場誘致に積極的になりそうな気がする。

 そう思ったが、魔国人の姿はない。
 どういうことだろうか。

 そんな疑問は、町の人に聞いたらあっけなく氷解した。
「領主様がご病気なんですか?」

「そうなのよ。昨年から身体の調子が思わしくなくってね。いまは領主の弟さんと息子さんがふたりいらっしゃるんで、その三人が助けているみたいよ」

 よく体調を崩すため、積極的に政務を行うことができないらしい。
 そこで親族とよく合議しながらまつりごとをすすめているのだとか。

 複数人の合議制では、かえって呪国人の入る隙間がない。
 だからだろうか。この町もいたって平和だ。

「もしかすると結果的にうまく働いたかもしれませんね。領主様の病気は心配ですけど、いま他の町は結構大変ですから」

 僕はソールの町やホーリスの町でおこったことについて話した。

 魔国人の流入によって治安の悪化は避けられず、路上に人が溢れるさまは、誰かがどこかで抜本的な解決策を見つけ出さないかぎり続くのではないかと締めくくっておいた。

「でも工場が稼働したらその人たちは居なくなるんじゃないの?」

「どうでしょう。ちゃんとした人員は魔国から来るんじゃないですかね。現地集合なんてことはしないと思いますよ」

「それはそうか。……ということは、いま路上に溢れている人たちってのは」
「アテがなくても来るしかない……そう思った人たちが多いんじゃないでしょうか」

 それだけではない。
 魔国自らがそうなるよう仕向けたと僕は思っている。
 直接兵を入れるのではなく、搦め手でくる場合、強攻策を取るとこちらが悪者になる。

 よく考えられている。本当に。

「ウチの町ではそんな気配はないけど、これから増えてくるのかしらねえ」
 心配するのはもっともだが、そうならないよう、なるべく水際で押しとどめたい。

「それで、最近は変わったことってないですか? 些細なことでもいいんですけど」
「変わったこと? そうねえ……商人が増えたことくらいかしら」

「いま竜国内はどこでも商人が増えていますからね」
 商国商会との争いがある。どう転ぶか分からないが、これも譲れない戦いだ。

「そうなんだけどね。荷を持ってくるでもなし、買っていくでもなし。ありゃ一体どういうことなんだろうね」

「商人なのに、町に来て商売をしないんですか?」

「どうなんだろうね。そこまでじっと見ているわけじゃないけど、ここはアラル山脈を背負った最果ての町だろ。ここに来る連中は売れそうなものを持ってくるか、余所で売りたい物を買っていくのが普通なのよ。だってほら、通過するような町じゃないから」

 なるほど。それはそうだ。
 行き止まりの町にわざわざ来る理由はそのどちらかしかない。

 だが、何も売らなければ、何も買っていかない商人がいる。
 じゃあ、その商人たちは何しに来ているんだ?



 そう考えたとき、話している僕らの目の前を数人の商人が通過した。


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