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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 ウエルソは商国の商人で、この町に根をはろうとわざわざやってきたらしかった。

「正直に話せば、両膝を砕くくらいで赦す」

 僕の優しい問いかけにも、ウエルソは顔を真っ青にして震えだした。
 両膝で済まされるくらいなら、喜んでいいはずなんだが。

 歩けなくなったって、商売はできる。
 真正面から膝を蹴り抜けばいい音を鳴らしてくれる。

 僕の視線が気になったのか、ウエルソは両手を挙げて懇願した。
「いっ、言います。言いますってばっ!」

「おまえたちの目的は?」

「はっ、はい。この町に工場を作るようにと……最初は西の都から交渉人が派遣されてたのですが、思うような回答が得られなかったということでして」

 また工場か。
 反対されたから強硬な手段に出たのかな。
 問題が起きた場合を考えて、捨て駒を使った感じか。

「領主を操って、工場建設の許可を出させようとしたわけか」
「そうです。領主が反対していては、町の議会も賛成しませんので」

「工場建設の許可は?」
「まだ出ていません」
 工作途中だったわけか。

「催眠術で領主を操る……本当にそんなことができるのか?」

「日中は政務をしなければなりませんので、あまり強力な催眠術はかけられません。ですので、毎晩こうしてかけ直しをしては、思考を誘導しているんです。意思に反したことはなかなか言うことを聞かせられません」

 このウエルソは最初、自分は騙されたと言った。
 他に黒幕がいるようだが、その者の意図は工場建設だけなのだろうか。

「他にどういう目的がある?」
「最初は魔国からの人の流れを制限しないように……でした」

 だからソールの町にも溢れるほどの魔国人がいたわけか。
 国境付近の町を素通りさせ、そのことを他の町に知らせてなければ対応が遅れる。

「他には?」
「他は……さあ」
「もうないのか?」

 小剣を突きつける。
 ウエルソはてきめんに慌てて、必死に他にないか思い出している。
 ただの商人だから、命の危機があれば、必死にもなるだろう。

「そういえば、人材登用の門戸を開放する政策も進めるようにと言われました」
 工場建設が決まった後の話なので、まだ実行には移してないらしい。

「工場建設の後で人材登用……そう言われたのか?」
「そ、そうです。他にはもう何も……何も知りません。本当です!」

 だいたい分かったが、黒幕については判断は保留だし、聞き出せるのはここまでか。

「それで、領主の催眠術は解けるのか?」
「まったく分かりません。エィポニットが知っていますので」

 それもそうか。呪国人を与えられただけだものな。
 ということは、こいつを起こして聞き出すのか。

 僕は気絶している呪国人を見下ろした。
 正直、起こすのは面倒だ。催眠術を解かせるのも。
 ……どっかに〈右足〉が歩いてないかな。

 そう思ったが、そんな都合よく進まないのは分かっている。
 うつ伏せに倒れている呪国人を足でひっくり返し、顎元あごもとを蹴り上げた。

 うめき声を上げたが、起きる気配はない。
 もう一回か。



 商人には一切しゃべるなと言い添えたあとで、呪国人を起こした。
 この呪国人、最初に背後を取ったときの感触から、体術はそれほど得意ではないことも分かっている。

 目を覚ました呪国人は、自分になにが起こったのか確認しようと周囲を見る。
「どこを見ている」
 腹に一撃を加えると、あっけなく悶絶した。

 もう一度起こし、同じように一撃を加える。
 今度は身構えていたのか、気絶することはなかった。

 歯を食いしばって、痛みに耐えている呪国人の耳元で、僕は囁いた。
「話を聞きたい。抵抗する意志がなければ両手を挙げろ」

 呪国人はまだ呻いている。
 仕方ないので、背中を蹴りつける。

「我慢するのに飽いたら、両手を挙げろ」
 呪国人を痛め続けていると、傍で見ていた商人の方が青白い顔をし出した。
 よく顔の色が変わる。

 抵抗する体力がなくなったのか、精神が限界を迎えたのか、呪国人はゆっくりと両手を挙げた。

「よし。嘘をついたら最初からやり直すからな」
 呪国人は頷いた。

 本当にこれで素直になっただろうか。
 義兄さんから聞いた尋問の方法を思い出しながらなので、うまくいっているか自信がない。

「名前は?」
「……エィポニット」

 最初から嘘を付くのは嫌だったのだろう。素直に答えてくれた。
 この分ならば、しばらくは大丈夫かな。

「一緒にいたこの男の名前は?」

 名前を聴き終えてからは、商人が語った内容の答え合わせだ。
 途中一回嘘を付いたので、たっぷりと痛めつけた上で、名前を聞く所からはじめた。

 商人のとほぼ同じ内容が聞けたが、それ以外のこともいろいろと分かった。

 まず、エィポニット自身のことだが、金を貰って催眠術をかけるのを生業にしていた。
 流れの呪術請負人である。

 非合法なものが多いが、時には失われた記憶を掘り起こしたり、他人がついた嘘を暴いたりすることもあるらしい。

 西の都に住んでいるため、他国へ赴くことはめったにないらしい。
「破格の金を貰ったわけか」
 エィポニットはゆっくりと頷いた。

 領主に近づくために、ウエルソを利用したことも分かった。
 目的を知らせず、領主と個人的に会う段取りをつけてもらったわけだ。

 領主が催眠術にかかってしまったために、ウエルソも積極的に協力しないと身の破滅になる。
 姿を消すことができるエィポニットとは違い、ウエルソはここを拠点に活動している商人なのだ。
 一蓮托生である。

 領主への取り入り方も分かった。
 出入りの商人ウエルソと、その護衛エィポニットという役柄で近づいたらしい。

 黒幕について聞いてみたが、エィポニットにも分からないようだった。
 老人でめったにしゃべらない。
 服装はどこにでもあるようなもの。

 徹底的に素性に繋がりそうなものは身につけず、話さなかったらしい。
 ディオンという名は、偽名の可能性が高い。

 ディオンが誰なのか。
 その辺は〈影〉を通して調べることになりそうだ。

「領主の催眠術を解け」
「………………」

 ここに来てだんまりを決め込むのはどうなんだろう。
 もう一度はじめからやり直すにも、そろそろ朝を迎えそうだ。

「時間短縮のため、折る」
 左の膝を砕く。鈍い音が部屋に響いた。

 呻き声はあがるけど、気絶する感じではない。良かった。
 続いて左肘を逆に曲げる。

 今度は乾いた音が響いて、肘も壊れた。
「次は反対側の肩かな」

 膝を肩に押し当てて体重をかける。
 両手で相手の左腕を持ったままさらに体重を乗せたら、嫌な音がして肩の骨が折れた。筋肉も引き裂かれたかもしれない。

「残りは少ないな」
 面倒この上ないので、さっさとやってしまおう。

 右の膝を持った所で、静止の声がかかった。
 構わず折る。

「~~!?」

 必死に耐えているようだが、こっちだって面倒なのだ。
 右肘を両手で抱えた。
 体重をかけて一気に折る……

「解除する。解除するから止めてくれ」

 ……折る寸前で止めた。
「ああ、解除ね。一度全部折ってからもう一度聞くから」
「やる。解除するから、本当にもう……」

 そう懇願するので、解除を試みさせた。
 片手で手早く何かの動作をして、すぐに領主にかけた催眠術を解除してくれた。
 最初からやればいいのに。本当にそう思う。

「腕が一本残ったけど、中途半端だな。どうせならこれも……」
 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにした呪国人は、僕の問いかけに同意しなかった。

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