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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 ホーリスの町は魔国領に一番近い。
 もし魔国が侵攻してくる場合、この町が狙われる可能性がある。

 その場合、ホーリスの町は簡単に落ちてしまう。
「でもそこから先はじり貧なんだよな」

 ホーリスの町にも竜操者が常駐している。
 魔国からの侵攻があった場合、その情報はソールの町や王都へすぐに伝わる。

 町は落ちるだろうが、敵がそこから王都へ駆け上がるまでに、竜の大群が襲いかかる。

 この町には軍事的価値はほとんどないために、わざわざ苦労して占領することはないと思われている。
 そう……『占領』することはない。

「ソールの町に溢れた魔国人は、絶対この町を通過しているはずなんだ」
 領主が許可を出し、兵が彼らを見逃さないかぎり、あんな事態にはならない。

 怪しいのはこの町。そして領主だ。
 まさかとは思うが、領主が裏切った?



 夜半過ぎ、僕は影に潜りながら領主館を目指した。
 この町の領主は魔国に気を許していない。

 そのため、町に工場を作る計画にも乗らなかったと父さんは言っていた。

「義兄さんがいればなぁ……」

 僕はこの町の〈右足〉に知り合いがいない。
 そのため、情報収集するためのバックアップが受けられない。

 これは〈影〉の情報が漏れないための措置ではあるが、面倒この上ない。

 僕は闇から出て、領主館を見た。
 一般的な魔道結界のみで、人を配置している気配は感じられない。
 静かなものである。

 もう一度闇に潜り、領主館の敷地内へ入っていく。

 他の町の様子を知りたかったが、最初にここへ来てよかった。
 魔国からきた民は、ソールの町の比ではない。もっと多かった。

 夜中にもかかわらず、路上には人がゴロゴロしている。
 食い詰めた者たちなのか、汚れた服を平気で着ている。

「……気配は上か」

 この町の領主の名は、ガストリック・コウリト。
 父さんが言うには、それなりに優秀らしい。

 性格はかなり臆病。
 これは国境付近の領主として適任だと父さんは言っていた。

 国境付近で無駄な挑発や緊張をもたらすような領主はたしかに嫌だ。
 ならばなぜ?

 闇に潜ったまま、館内を進む。
 階上に複数の気配があるので、まだ執務中らしい。
 明かりも付いている。

「……さて、どうしようか」

 僕が黒衣の姿で現れれば、〈影〉だと分かってもらえる。
 だがこれは、女王陛下の正式な指令ではない。

「指令はないけど気になったから調べに来ました。ついでに領主様の話を聞きたくて……」

 うん、不審人物だ。人を呼ばれる。
 よし、こっそり様子を窺おう。

 大丈夫そうな人だったら、姿を現せばいい。
 魔国に寝返っていたら……密かに処理すると動揺が広がるか。
 その場合は一度戻って父さんに相談だ。

 そんな気持ちで執務室に入る。

 執務室は広く、明かりは部屋全体を覆っていない。
 闇を伝って部屋の隅に移動する。
 続き部屋があり、奥に人が集まっている。

「……まだか?」
 商人らしき男が、隣の痩せぎすな男に話しかけている。
「もう少しだ」
 ふたりが会話する前で、三人目だけが椅子に座ったまま動かない。

 座っているのは服装からして領主だろう。
 ふたりのやり取りをじっと話を聞いている。

「不審に思う者が出始めている。こんなとこでバレたらお終いだ。もう少し強力なのはかけられないのか?」
「コイツの意志を奪えば可能だ」

「その場合、政務は?」
「完全な操り人形になる。難しいことは考えられない。簡単な受け答えがせいぜいだな」

「それじゃ駄目だろ」
「なら黙ってろ」
「そこを何とかしてくれ。最近、不審に思われているんだ」

 商人風の男と痩せぎすの男が言い合いをしている。

「……ん? でも話の内容、おかしくないか?」

 領主は相変わらず、座ったまま動かない。
 話を聞いているのか? とてもそうは思えないけど。

 薄暗いろうそくの明かりでも分かる。領主は微動だにしていない。
 目の前の会話にも無反応だ。これではまるで人形。

「目の焦点が合ってない……」
 何らかの魔道をかけられているか、もしくは呪術っぽい。

 痩せぎすの男に注目する。
 手に持ったろうそくと、不思議な金属を領主の前にかざしている。

 魔道を使っているように見えないから呪国人だろう。
 父さんに人を操る呪術の話を聞いたことがある。

 実際に見たことないので確証はないが、目の前で行われているのがそうかもしれない。
 会話からしてもおかしい。痩せぎすの男が領主を操っている?

 これはとんでもない場面に遭遇してしまった。
 どう考えても放っておけない。領主に呪術が使われているなんて、前代未聞だ。

 あの呪術が完成する前に介入した方がいいな。
 僕は闇の中で移動して、痩せぎすの男の後ろに現れた。

 ――ゴッ

 小剣の柄で後頭部を殴る。
 糸が切れたようにくずおれた男に目もくれず、商人風の男に小剣を突きつける。

「ひぃっ!」
「静かにしろ!」
 動きから戦闘訓練は積んでなさそうだが、油断はしない。

「は、はいっ!」
 小剣で浅く首を薙ぐと、男は静かになった。
 首筋から血が少量流れ出したが、大丈夫だ。致命傷じゃない。にもかかわらず、男はブルブルと震えている。

 思った通り、商人風の男は戦闘訓練を受けていない。
 ひとりは気絶させたし、もうひとりを支配下においたけど、これからどうしよう。

 他から人を呼んでも、領主がこの男たちの味方をしたら目も当てられない。
 どう操られているのか不明なのが痛いな。

 こんなとき〈右足〉がいると便利なのだけど、しょうがない。

「ど、どうしてここに……? 他の者は遠ざけたはずだが」
 商人風の男が今さらな質問をしてきた。
「遠ざけたとは、お前がが?」

 商人風の男はコクリと頷いた。
 こいつに命令権はないはずなので、領主を操って遠ざけさせたかな。
 やはり人を呼ぶのは後にしよう。

「正直にしゃべらなければ即座に処理する。……名前は?」

 小剣を軽く引き、首に新しい斬り傷を作る。
 男は目に見えておびえた。

「素直に話せば命は助ける。……で、名前は?」

 もう一度首筋を薙ぐ必要はなかった。
 商人は素直だった。それはもう、従順に。

 男の名はウエルソ。
 商国商会の商人で、本人は騙されたと言っている。

「もともとこの町で商売をしていたんです。今回、儲け話にもなるからとそこのエィポニットを紹介されまして……」

 成功すれば魔国にも拠点が持てると言われ、エィポニットという名の呪国人を受け入れたらしい。
 斡旋してきたのは同じ商人仲間のひとり。

 声をかけてきたのは、商人仲間のディオンという老人。
 だが、最近知り合ったらしく、それほど詳しく分からないという。

「嘘をつくな」
「本当でございます。命が助かるかの瀬戸際で、他人を思いやる余裕はありません!」

 最初に騙されたと言っていたし、騙した相手をかばう必要性もないか。

 ディオンという老人は、ただエィポニットを領主に会わせるだけでいいと言ったらしい。
 それだけで魔国に拠点が持てるならばと引き受けたという。

 だが、エィポニットはその場であろうことか催眠術をかけたという。

「あのロウソクと金属を使った呪術は催眠術というのか?」

「そうです。意識を混濁させるこうを焚いて、幻覚が現れるまで脅迫的な言動をつづけるのだそうです」

「なんでそんなことを?」

「こちらの言うことに従わせるためです。従えば脅迫的な圧力がなくなるようなのです。最初は小さな命令を……それを何度も繰り返すのだそうです。そうすると、しだいに従うのが気持ちいいとか、従うことが正しいことなんだと錯覚するようになるようです」

 時々うわごとを言うようになるが、ある程度進めば、催眠術にかかった状態で日常生活が送れるようになるらしい。

「なるほど。それでおまえたちの目的は? 詳しく話せ」

 僕は小剣をちらつかせて、そう聞いた。

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