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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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「何というか……すごいな、これは」
「ここがソールの町だって信じられないわね。どうしてこうなっちゃったのかしら」

 ソールの町に降り立った僕とリンダは、町中の喧騒けんそうに唖然とした。
 活気があるわけではない。
 ガラの悪い人たちの割合がやたら多いのだ。

 竜舎にシャラザードを預け、そのまま町を歩く。
「竜国人以外が多そうね」

 リンダが目を細めている。
 服装などからそう判断したのだろう。魔国で好まれている服を着ている者が多い。

 大通りから路地を覗きこむ。
 座り込む人、所在なげに大通りを眺める人がいる。

 無気力な顔が、路地のそこかしこで見て取れた。
 見ていて気持ちのいいものではない。

「なんでこうなったのか、父さんに聞いてみるか」
「そうね。でもパパは、町がこんな風になっているなんて言ってなかったわ」

 町に人が溢れているなんて僕も初耳だ。

 急いで家に帰り、挨拶もそこそこに父さんと話をした。

「ここ四、五日のことだな。急に増えやがった」
「どこから来た人なの?」

「魔国だ。工場労働者として連れて来られたらしいが、どうにもな」
「そのわりには身なりの悪い人たちがいるよね」

 大通りを我が物顔で練り歩いているのが目についた。

「魔国にはスラムがある。そこの住人も混じってる。あと、犯罪者だな。労働を対価に牢から出されたのもいる」

 身なりが悪いどころか犯罪者だった。

「なんでそんなのがソールの町に来ているの?」

「この町だけじゃなく、いくつかの町に分散しているようだぞ。領主が女王陛下のもとへ説明の使者を出した。明日か、明後日には王都に着くだろ」

 不安がる町の住民もいれば、彼らと積極的にコミュニケーションをとる住民もいる。
 そこから分かった事も多い。

 この人口増加だが、新しく作られる工場へ『労働力』としてかき集められたと、みな口をそろえて話したらしい。

「そのわりには、ソールの町から移動しないね」
 この町に工場はない。

「二つの町で建設中だが、まだ完成していないんだとよ。仕事がなく、蓄えもないから夜半の犯罪が激増している。さすがに警邏兵だけじゃ処理しきれなくなってきている」

 食い詰めれば人のものを奪うくらいはする。
 しかも健康な成人なら、数人で老人宅を狙えば騒がれることもない。

「父さん、動いたの?」
〈影〉として指令を受けて仕事をする以外にも、町の平穏を守るために力を使うのは認められている。

「重犯罪には対処したが、数が多いな。これ自体が目眩ましの意味を持っていそうだ」
「ん?」

「町の人たちが多くの人に話しかけたので、おおよそのことが分かった。半分は正規の労働者となりえる人員だ。各町の募集で応募してきた者たち。普通の町民だ。残り半分はスラムや職にあぶれた生活が苦しい者たち、それに犯罪者だ。ただし、それに紛れてタチの悪いのが混じってる」

 竜国に仇なす者がごく少数確認できたらしい。
 もちろん、処理済みだそうな。

「僕らは、通商破壊を調べるために来たんだけど」
「通商破壊か。街道に出没したやつか?」

「そう。知っている?」

「いや……俺が処理したのは町中で悪事を働いた連中だ。魔国人と元呪国人だった。街道で商人を襲った連中は商国の依頼で動いたか、大きな商会が手を下している可能性が高いな」

 竜国の商人たちだけを狙っていたので、おそらくそうだろう。
 魔国か商国のどちらかが絡んでいる可能性が高い。もちろん両方ということも。

 町にいる連中だが、工作員以外は騙されて来た者も多いだろうし、通常の処理はしたくないと父さんは言った。

「魔国王は民を先に逃したかったのかもしれないな」
 不意にそんな独り言をつぶやいた父さんの顔がやけに印象的だった。

 その後、リンダと母さんを入れて、四人で近況を報告しあった。

 それとアンさんから頼まれた話。
 技国に出かけて、婚約発表の日取りを確認したいという内容だ。

「まあこっちは客相手の商売だから長期に空けるわけにはいかないが、息子の大切な日にちくらい、しっかり都合つけるぞ」

「そうよ、これから長い付き合いになるんだし、ちゃんとしないとね」
「ありがとう、父さん、母さん」

「わたしの家族も参加しますからね」
 リンダが言った。
「それは聞いてなかったよ!」

「パパは城の文官から、わたしはアン先輩からも言われていますから」
 しれっと言う。

 どうやら万一のことを考えて、僕が技国に移らないよう、目を光らせるよう通達があったようだ。

 竜国と技国の友好のためにとアンさんが嫁いでくるが、数年で僕を連れて技国に戻られると困るのだろう。
 僕が女王陛下の〈影〉であることを知らない人がみたら、そういう懸念を抱くのは仕方ない。

 それはいいとして、問題は通商破壊の方だ。
 保険を扱っているヨシュアさんはあまりに忙しくてここに来られない。

 それだけ事態は切羽詰っている。

「信用できる人が少ないってのが致命的よね」
「それって結構深刻な内容だよね」

「急なことだったかしらね。準備に数年もかければ、そんなことなかったのに」
 リンダはそう言うが、大転移を考えれば、それは不可能だ。

「ヨシュアさんの負担を軽減するだけじゃなく、商人たちを助けることになるからね。なるべく早く解決したいな」

「そうなのよね。……私は聞き取り調査があるから、現場の確認は任せたわよ」
「ああ、襲われた場所ね。シャラザードがいればすぐだし、やっておくよ」

「地図と資料はこれね。この町も混乱で流通が正常に機能していないし、このままだと王都に物が届かなくなる可能性もあるわ」

「さすがにそれは……あり得るか」
 つまり、商人たちが被害を恐れて離れてしまった場合だ。
 竜を使って高速移動できるが、それは一時しのぎ。

 ちゃんとした流通を確保しなければ、国民の不満は一気に爆発する。

「……パパはいま目にクマを作って頑張っているから、早く解消させましょう」
「そうだね」

 実際、王都まで距離があるから、被害が目に見えて減ったと思えるのはまだ先だろうが、この町では父さんが目を光らせてくれる。

 このまま家で一泊して、翌日他の町を確認することにした。



「おいでシャラザード」
 その夜。
 僕はひとりで別の町を回る。

 馬車で半日の距離くらいならば、シャラザードはすぐに着いてしまう。
 ちょうどよいことに、漆黒の身体のシャラザードは真夜中に移動しても目立たない。

 ソールの町から西へ向かい、魔国領に一番近い町へ向かった。

「シャラザードはここで待っていて」
『あいわかった、主よ』

 町の様子はソールよりもひどかった。
 路上に人が溢れて寝ている。
 そして悪事を働こうとした者を早速見つけた。

「……よし」

 こっそりと家に侵入しようとした二人組の両膝を砕く。
 父さんからも優しくするよう言われているので、処理したりしない。

 一通り町を見て回り、五組の犯罪者を軽く撫でたらいい音がした。

「リンダには混乱はそのうち収まるとは行ったけど、ちょっと不安になってきたな、これは」

 魔国領に近い町もまた、ソールと同じくらい混沌としていた。

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