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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 リンダの言う竜国商業組合とは、最近女王陛下の肝いりで作られた新しい組合だ。

 これに入っていると、竜国から様々な優遇措置が受けられる。
 加入するためにはいくつかの条件をクリアしなければならない。

「商国の息がかかっていない商人たちの組合だよね、それ」

「そう。役員って言ったって面倒だし、その地位を使って悪いことをすれば一発で掴まっちゃうし、引き受けるメリットはほとんどないのよね。でも、パトロンのこともあるから断れなくって」

 ヨシュアさんは共済保険きょうさいほけんを担当する部署の役員になってしまったのだという。
 よく分からないけど、その共済……なんとかは、何をする部署なんだろう。

「ようはね、荷に保険ををかけて、もし何かあった場合に一時金を出す所なのよ。ところが、商国商会の妨害でしょ。想定した以上に被害額があがってね、パパは就任直後から大変みたいなの」

 他国は分からないが、竜国内部では盗賊、山賊のたぐいはほとんど発生しない。
 馬車で数日の距離を竜は一日で移動できる。悪人はどこにも隠れられないし、逃げられない。

 陸と空から捜索されたら意味は無い。
 町の出入りは監視されるため、早晩捕まってしまう。

 職業として『盗賊』が存在し得るには、定期的に襲撃ができる環境が不可欠なのだ。
 竜国はそれがない。

 今回の件で言えば、被害は多数でているものの、決まった場所ではない。一回限りの襲撃のようだ。
 それでも被害が広がれば、支払う保険の額は上がってゆく。

「パパは本業ができないくらい忙しいし、何日も家に帰れなくなっているわ。でも、貸付部署よりはマシなのかもしれないけどね」

 貸付部署とは、新規に商売を始める商会に格安でお金を貸し付けるらしく、希望者が殺到しているとか。
 身元の調査や貸し付ける金額の査定、返済の予定を組んだりと、いま一番忙しい部署であるらしい。

「大変なんだな、本当にそう思うよ。それで役員って、何をするの?」
「何でもやっているらしいわよ。上には部署長しかいなくて、その人は城から派遣されてきた文官だから、その部署内では商人たちのトップね」

 思ったより上役うわやくだった。
 自分の仕事もあるだろうに。ヨシュアさん、断った方が良かったんじゃなかろうか。

 僕のパトロンになったばかりに、静かに暮らせないなんて……あれ? なんかこの境遇。どこかで聞いたことが?

「それでね、調査にわたしが行くことになったの」

 リンダは話を先へ先へと進めようとしている。
 焦っているのか? 多分そうなんだろうな。

「なんでリンダが? ……いや、続けて」
「続けるわね。いま共済部署が一番大注目している……というか、被害が多いのがソールの町近郊なの。商国の中継地点だからなのか、他に理由があるのか。それをふくめて、盗賊の被害を調査しつつ、商人たちに話を……だからシャラザードに乗せてほしいのよ」

 最後は端折ったな。やはりリンダは焦っている。

 ちょっと整理しよう。
 ヨシュアさんが共済関係の役員になって、家に帰れないくらい忙しい。
 加盟した商会が盗賊被害にあったりして、処理が追いつかない。

 それが集中しているのがソールの町付近。
 商国と竜国の唯一の玄関口だ。さもありなん。

 本来ならば責任者であるヨシュアさんか、その信を置ける者が調査に向かうのだが、出来たばかりの組織。
 信頼できる者にヨシュアさんの仕事を手伝ってもらうしかない。

 往復十日もかかる道のり、さらに調査にどれだけかかるか分からない現状で、信頼できる者は派遣できない。王都での仕事はさらに増えることも考えられるのだ。

 かといって、その辺の使えるかどうかも分からない者を送り出すわけにもいかない。
 諸々の理由を総合的に考えると、リンダが行くしか手がないことに落ち着いた。

「……そんなに人手不足なの?」
 リンダはまだ学生だ。
 それほど困っているのだろうか。

「信頼できる者、調査の目的が分かっている者、いま現場を離れても問題ない者、さらに加えると向かった先で侮られない者ね。これを全部満たす人材ってどのくらいいると思う?」

「ほとんどいないんじゃないかな。引っ張りだこだよ、そんな優秀なの」

「そういうこと。だからわたしがパパの代わりに行くわけ。それとシャラザードがついてくればデモンストレーションにはピッタリだわ。竜国は今回の件を軽んじていないとアピールすることもできるし」

 これはれっきとした通商妨害だ。
 とすれば、竜操者が出張ってくるだけで、かなりの抑止力になる。

 何かあっても現場に急行できる強みは、何事にも代え難い。
 そしてリンダには言えないが、今後のことを考えれば、竜の抑止力はたしかに必要かもしれない。

 悪いことを考えると、空から竜が飛んでくる。
 それを思い出すだけで思いとどまってくれれば、一年後にやってくる大転移の混乱が少しはマシになる可能性もある。

 だけど……。

「一応僕も学院生なんだけど」
 あまり授業を休むのはどうかと思うわけだ。

「大丈夫よ。パパに正式依頼させるから。ちゃんとお金も出るわ」
「なるほど……」

 女王陛下の肝いりで設置された竜国商業組合。
 組合の監督は、竜国が行っている。
 学院生へ正式依頼するのは可能だろうな。

「というわけで、よろしくね! いやー、ほんと帰ってきてくれて助かったわ。じゃ、わたしはパパのところに行ってくるからっ!」

 リンダはシュタッと片手をあげて、去っていった。

 リンダと再会してから何度となく思うことだが、あんな性格だったっけか?
 もうちょっと、こう……おしとやか……ではなかったけど、あの頃はもっと優しかったように思うのだが。

 幼い頃の記憶って、美化されるのかもしれない。

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