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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 竜操者にはパトロンが必要である。それは、揺るぎない事実だ。

 小型竜であっても、その餌代は馬鹿にできない。
 軍人になってその給与を全部つぎ込めばなんとかなるが、それでは何のために働き、何のために命をかけて戦うのか分からない。

 僕らは、竜の餌代を稼ぐために竜操者をやっているわけではないのだ。

 そこで支援者たるパトロンが出てくるわけだが、僕は正直困っている。

 マーティ先輩が言っていたが、簡単にオーケーを出すと、あとで困ることになる。
 それこそ、一生を左右されかねない問題に発展することもある。

「かと言ってなぁ、だれも決めないっていう選択肢もないんだよな」

 とにかく竜を飼うこと、飼い続けるには、多大な金銭が必要になる。
 軍人にならないとしても、少々割のいい仕事だけでは、到底追いつかない。

 パトロンを得るのが一番いいと言われている。
 領地持ちの貴族か商人に出資してもらうのが一般的らしい。

 貴族の場合、領地収入があるからパトロンとして人気が高い。
 その反面、貴族の派閥に組み入れられるため、軍属を続ける場合、いろいろと面倒なことになったりするとアークが言っていた。

「貴族が見栄を張るために竜操者を使おうとするんだ。まったく分かってない」
 そうアークは憤慨していた。

 竜操者は竜国いちの花形職業というが、その実、金銭の奴隷になっているのではなかろうか。

「そう考えると、パトロン候補は商人になるよな」

 大きな商いをしている商人の場合、金はうなるほど持っている。
 竜の食費くらい、大したことがないと言い切る商人も多い。

 竜操者を抱えているといえば、商売で信用も得られやすく、何かのときに助けにもなる。
 多少無理してでも竜操者を抱えたいと思う商人は多い。

 その反面、十年、二十年という長いスパンで見たとき、パトロンとして優秀かと言えば、そうではない。

 パトロンは国を通してちゃんと管理されるので、おいそれと増やしたり、変えたりできない仕組みになっている。

 国を通さないで援助してもらう野良のらパトロンとなると、「スパイではないか?」と、かなり深いところまで腹を探られる。

 僕自身、〈右手〉になってから、そういった商人の腹を探ったこともある。

 竜にかかる費用など、ほぼ丸裸になるのだから、登録したパトロンが落ち目になれば、おのずと「あの竜操者に野良パトロンがいるのでは?」と勘ぐられる。

 悪い者ほど、密かに支援して竜操者に恩を売り、あわよくば自国に連れ帰ろうとする。
 そんな画策をしたところで、すぐに露見してしまうが。

「まあ、なるようになるよな」

 最悪、女王陛下によい相手を紹介してもらえばいい。
 さすがに候補者がだれもいないなんて事は……ないよね。

「おっと、そろそろ出かけるかな」

 女王陛下で思い出したが、今日は策をろうして、『グラススネイク』の構成員をあぶり出すのだ。
 そのための準備をしなければならない。

「準備は……昼には終わるかな」

 僕は歩いて、学院の敷地を出ていった。

               ○

 夕方になった。
 すでに準備は整っている。

 今日は、〈右足〉のお姉さんに先を越されないよう、日があるうちに行動だ。

「ではそろそろ、アジトに行きますかね」
 途中までは地下水路を使って移動する。

 お姉さんが来る頃にはすべて終わっているはずだ。

 僕は水路を伝ってアジトに忍び込み、屋敷の二階へ向かう。

「この辺でいいかな」

 二階の一番広い部屋に、かついできた袋を床に置いた。
 中身をひっくり返すと、真っ黒な木の皮が大量に出てくる。

「これだけ集めるのに苦労したわ」

 クロマツの皮を一枚手に取って、確かめる。
 真っ黒な表皮を持つクロマツの木を燃やすと、黒っぽい煙を大量に出す。

 生木なまきを燃やすと、普通は真っ白な煙が上がる。クロマツは皮が黒い分、煙に黒色が交じるのだ。
 つまり、クロマツの皮だけを剥がして燃やすと、真っ黒な煙が立ちのぼる。

「これだけ燃やせば、火事と見間違うだろう」

 僕は積み上がったそれに火をつけた。
 クロマツの皮はくすぶりながら、黒い煙を立ちのぼらせはじめた。

               ○

「お、おい、火事だぞ」
「どこの家だ?」

 外が騒がしくなる。
 今頃、夕闇の空に黒い煙が立ち上っていることだろう。

 燃やした場所は石畳の床だ。火が燃え移ることはない。
 壁や窓も燃えるような素材は使われていない。

 これ以上火が大きくなることもないな。
 延焼する心配がなくなったところで、僕は闇に溶けた。

「火事だ。建物の中から煙が出てきている。燃え広がる前に消せ!」
「だめだ、門の鍵が閉まっている」

「壊せよ!」
「どうやって?」

 僕は一段高い家の屋根に登り、地上で慌てふためく人々を眺めた。
 放棄したアジトとはいえ、燃えればだれかが確認に来るだろう。

 屋敷に近寄ることはないかもしれない。
 だが、それで十分だ。

 僕は目を皿のように開いて、野次馬たちを眺め続けた。

「…………いた」

 どれだけ時が経ったであろうか。
 そろそろ黒い煙が収まりかけようとした時、周囲の野次馬とは少し違う行動をした者を発見した。

 最初はまわりと同じ行動だった。
 何事かと集まる者たちに紛れて、近づいていった。

 ある一定以上近づくことをせず、急に向きを変えて反対方向に歩いていく。
 それはもう、一心不乱に。

 その者は二度と振り返ることをせず、一目散にその場から離れていった。
 僕はほくそ笑む。

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