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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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「ここの史料編纂室ができてからまだ十年、本の解読は進んでおりません」
 ヒヒヒっとケイリーさんは声をあげ、一冊の本を手に取った。

「これは当時の農耕技術に関する本ですが、全体の三分の二まで読んだところで後回しにしました」
「後回しですか?」

「さようです。古代語で書かれている本を、いまの公用語に書き直す作業をしておりますが、それには優先順位がありましてな」

 古竜国の歴史や有益と思われる情報が書いてあるもの、大転移、月魔獣について書かれているのものなどを優先的に翻訳しているらしい。

「ただ訳せばいいというものでもありませんでしてな。中身を検証して正確に訳せているか、そう言う所にも気を配っているわけです」

 一度誤訳してしまうと、後々まで困ってしまうので、一冊の本を訳すのに複数人で数ヶ月かけているらしい。
 もちろん同時進行で進めているのだろうが、これでは十年経っても翻訳が進まないわけだ。

「先に本を読んで、重要かどうかを判断しているのですね」

「その通りです。わたしらが読んだ本の中に『楽園』に関する記述はありましたので、お答えできるのですが、生憎優先度の関係で訳本にはなってないのです」

 なぜ僕が呼び出されたのか。
 旧王都に出向いて話を聞きにいって欲しいと言われたのか分かった。

 本になっていなかったのだ。
 それにケイリーさんを連れてくるわけにはいかない。納得である。

「分かりました。よろしくお願いします」

「お掛け下さい。……いいですかな、それでは話しましょう。楽園については、亡国の歴史にいくらか記述が残っています。その辺からゆるりと話しましょう」

 ケイリーさんは語りだした。

 当時この国の人口はそれほど多くなく、発展した町も少なかったらしい。

 また、竜紋限界がよく分かってなく、竜の聖門があるあたりはちょうど陰月の路が通っており、どのような理由で竜がやってくるのかも分かってなかったという。

 そんな状態だったので、竜操者という存在は国の管理下にはなかったらしい。

「学院では学びましたけど、本当にそんな時代があったのですね」

「あの頃は手探りの状態だったのでしょう。予備知識もないままに竜に擦り寄られて心を壊した者もおるし、力に溺れて死んだ者もおる」

 朝起きたら、いきなり目の前に竜がいたら驚く。
 その人は竜から逃げて逃げて……けど逃げられなくて、最後に心を壊したのかもしれない。

「ある年、月魔獣の被害が多発しましての。ふだん滅多にここまで来ることはないのだが、その年だけは違ったようですじゃ」

 旧王都にやって来た月魔獣によって、多くの被害をもたらしたという。
「ここは首都だったんですよね。防備は固めていたんじゃないですか?」

「数が多かったと記述にはありますじゃ。手に負えなかったのでしょう。大転移が起きなくても、大量の月魔獣が降下する記述は、歴史を紐解けば少しは出てきます」

 それがたまたま起こったとケイリーさんは言った。

 脅威が去ってからが大変だった。
 復興しようにも、人も物も何もかも足らない。
 首都を捨てて逃げた者も多かったのかもしれない。

「王家の信頼が揺らいだのでしょう。扇動した者がいたかもしれんし、民たちの間から自然発生的に巻き起こったのかもしれん。どちらにせよ、王家の人々は町を追い出されました」

 手引きがあったのか、運良く逃げられたのか、王族とそれに従う人々はこの町から去ったらしい。

「程なくして国が瓦解しました。十年もすれば、もう国と呼べる体裁は取れなくなっていたようです。さらにもう十年で、完全に国の体裁は失われてしまいました」

 それが旧王都崩壊にまつわる歴史らしい。

 ここまでの話に『楽園』は出てこない。
 僕の顔色を読んだのか、ケイリーさんは席を立って、茶を持ってきた。

「まあ、飲みなさい」
「はい、頂きます」

 互いに無言でお茶を飲む。

 ケイリーさんは、史料編纂室長だと言った。
 ここにいるのだから、忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)の一員であることは確かだ。

「……あの」
「ん? どうした?」

「ちょっと伺ってもいいですか?」
「もちろんだ。なにかね?」

「ケイリーさんはどうしてここに? とても優秀な学者のように思えますけど」
 城の第一線で活躍していてもおかしくない。

「どうして……ふむ。どうしてと言われれば、進んでとしか答えようがないのだが、聞きたいのはそういうことではないのだろうね」

「そうですね。もし竜国のためと思うならば、活躍の場が他にあるように思えましたので」

 忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)の構成メンバーについてはおおよそ聞いている。

 女王陛下を表舞台で助ける、いわゆる『地位のある人々』。
 他国に決して知られてはいけない軍事力。
 さいごにケイリーさんのような、裏方。

 だが僕が思うに、ケイリーさんは裏方に甘んじるには能力がありすぎる。
 本来、表のしっかりとした役所について、補佐した方が有益だと思うのだ。

「世俗とは無縁と思える学者の世界でも、いろいろあるのですよ」
 そう答えたときのケイリーさんの瞳は、ここではないどこかを見つめていた。

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