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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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あるじよ、考え事か? 注意が散漫だぞ』

 シャラザードを伴って狩りに出かけている。
 いや、シャラザードに伴われてかな。

 ウキウキと月魔獣を狩るシャラザードの姿に安心して、僕は『楽園』のことを考えていた。

「悪かった、シャラザード。目の前のことに集中するよ」
 いくら移動中とはいえ、陰月の路付近で気を抜いていいほど、僕はまだ竜操者として経験を積んでいない。

『……ん? 主よ、あれはなんだ?』
 湖の上に巨大な船が泊まっている。

「あれは船上の町だね。月魔獣は泳げないから、陰月の路近くでも安心して暮らせんだよ」
 この辺に月魔獣が落ちてくることはほとんどない。

 ゆえに陰月の路付近からやってくるものだけを警戒すればよいので、船の上で暮らすのは理にかなっている。

『ほう……船なのか』
「興味があるのか? ちょっと寄ってみようか」

 シャラザードが月魔獣以外に興味を持つのは珍しい。
 近寄ってみることにした。

 船の上空を旋回し、近くに着水する。
 確認したら、シャラザードは水に浮いていられるという。

「そういえば飛竜も浮いたっけ」

 地竜は無理で、走竜は泳げる。飛竜は水鳥のごとく、水面に浮かぶことができると習った。
 シャラザードは飛竜と同じらしい。

 陰月の路が近いので、竜は珍しくないはずだが、シャラザードを見ようと船上にいる子どもや大人たちが集まりはじめた。

「何かあったわけではありません。近くに来たので、寄らせてもらっただけです」
 それでも人々が集まってくるのは、シャラザードが珍しいからだろう。

 全身が黒色で、黄色のラインが入った竜は唯一無二の存在。
 青竜や白竜と同じく属性竜なのだが、両方ともめったに見ることは叶わない。

「少し、船上の人と話してもいいかな?」
『構わぬぞ』

 スッと水面を移動し、シャラザードが船に近寄ってくれた。
 水上でも器用だ。

 僕が歩くと、住人たちは遠巻きに眺めはじめる。
 声をかけるでもなく、一緒について歩くのだ。シャイなのかな?

 上から見たときにも思ったが、ここは複数の船を繋げて、ひとつの大きな船を形成してあるらしい。
 この方が生活しやすいのだろう。湖の上なので、揺れもほとんど感じない。

 外周にはいくつもの小舟が備え付けられていた。
 船を渡り歩くと、魚を捕る仕掛けが備え付けられていたり、水耕栽培で見たこともない植物を育てていたりと、見ていて飽きない。

「さきほど来られた竜操者様ですかな」
 小柄な老人が声をかけてきた。

「はい。月魔獣狩りに来てこの船を見つけたものですから、少しだけ散策をしたくなって寄らせてもらいました」

「そうでしたか。いつもご苦労さまです。おかげさまで、こんな場所でも無事に生活することができます」

 話を聞いたところ、ここは町や村に該当しないらしい。

「もっと陰月の路から離れたところにクリノスの町がありまして、我らはそこに属しております」

 町中に住むには税が高いため、貧民たちが寄り集まって湖の上で暮らしたのがはじまりらしい。

「でも船の町みたいになっていますよね」

「来る者をできるだけ受け入れていたら、徐々に人が増えてきましてね。ただ、これ以上になるとさすがに無理でしょう」

 すでに限界らしい。
 単純に船を増やせばいいという話でもなさそうだ。

「若い者たちが手伝ってくれますので、なんとかやっていけています」
 植物や湖の魚を町に持っていって売って生計を立てているらしい。

「そういえば、若い人たちが多いですね。それに子供も」
「はい。今の若者は、ここで生まれて育った者たちですじゃ。それゆえ、親世代よりも愛着が深いようです」

 実質、この船の村を回しているのは若者たちらしい。
 政治だとか経済だとか難しい話を最近よく聞いていたので、こういう話は和む。

 暇になったらここに来てパン屋を開こうかな。
 同い年くらいの人も多いしいいかもしれない。

 うん、僕の隠居候補地一号だ。

 僕は老人にお礼を言って、シャラザードのところへ戻った。


「引退したらここに移り住んでもいいですか?」
 と言ったら老人は笑っていたけど。

「さあシャラザード、行こうか……って、シャラザード?」

 大勢の子供たちや若者たちに身体をよじ登られて、シャラザードはものすごく困った顔をしていた。
 もう、どうしていいか分からない。そんな顔だ。

『主よ、良い所に来た。みな、我から離れようとせんのだ』

 すがりつくような声音に、僕は吹き出してしまった。

 結局、今日の月魔獣狩りは諦めて、子供たちを乗せたまま、シャラザードが湖の上を走って過ごした。

 遊覧シャラザードだ。


『主よ、楽しんでないか?』

 途中、不審げに問いかけたシャラザードに「そんなことはまったくない」とだけ、答えておいた。
 またここに来よう。

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