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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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「旧王都にある教会は、いまの竜導教会とはまた別物でございまして、教義などもかなり違っております」

「そうなんですか」
 新旧で宗教的対立とかあるんだろうか。

「旧王都には、人々の心の拠り所になるよう、小さな教会がたくさんあったようです。この辺は今と変わりありませんな」

「そうですね」
 いまも王都には、多くの竜導教会がある。

「教会本部に歴史編纂(へんさん)室というものがあったようです。後世のために、権力に寄らない目で見た『真実の歴史』を残す試みが行われていました。もちろん、なにをもって真実の歴史とするかは判断の分かれるところでしょうが」

「そうですね。でも、いい試みだと思います」
「ええ、私もそう思います。そこで編纂された史料に、楽園と思しき叙述がありました」

「見つかったのですか?」
 早いな。

「どうでしょう。そこに書かれているのは荒唐無稽な内容です。本来ならば一笑に付して、話題にもならない。ですが、『真実の歴史』を編纂する目的で書かれたのですから、その真実の一端を表している可能性があると」

 ガイスンさんが言いたことは分かった。
 なるべく客観的な視点で書かれた史料に、現実にはありえない内容が記されていたのだろう。

「何が書かれていたのですか?」

 ガイスンさんは真面目な顔で僕を見た。

「外界から隔離された広き大地についてです。そこは水が豊富で作物がよく育ち、豊穣が約束された地であると」

「……ゆ、夢みたいな場所ですね。いや、だから『楽園』か」

「はい。外界から隔離された広き大地……これは何を表していると思いますか?」

 竜国内にそんな場所はない。いや、魔国だって技国だって同じだ。当然商国にもない。
 外界……つまりこの大陸から隔離された?

「島……もしくは、別の大陸ですか?」
「私もそう考えました。旧王都では、実際に楽園に到達して戻ってきた者がいるようです」

「本当ですか?」
「はい。望郷の念にかられて命がけで戻ってきたようです。その者の話が教会に残っており、実際に旧王都では楽園捜索がなされています」

 当時、北は人跡未踏の地で、南は陰月の路があって、それよりさらに南にある国とはあまり交流が盛んではなかったという。

「旧王都はヒューラーの北にありましたよね」
「そうです。あそこから一番近いのは東の海。つまり楽園は東の海の先にあるのではと私は予想しました」

 そこでふと僕はあることを思い出した。

 アークが霧の民の話をしたとき、後輩のクリスが話していたこと。
 たしか、『しおの民』と言っていた。

「ガイスンさん。ポークニの町ってどこにありましたか?」

「ポークニの町ですか? ヒューラーの町の衛星都市ですね。港町のひとつだったと記憶していますが」

「そこの竜導教会にクリスという神官がいるのですが、彼はいま竜の学院の一回生です。僕と同室なんですけど……彼は旧王都から流れてきたと思わしき人たちの伝承を知っているのです」

「ほう、どういう伝承でしょうか」

「潮の民と言って、追放された王族を探す一族だったと。船に乗って、東の海へ消えていった。古老ころうから聞いた口伝らしいです」

「なるほど……潮の民、そして東の海ですか」

 ガイスンさんが考えこむ。

 もちろん、想像に想像を重ねればだが。
 東の海の向こうに別の大陸があるのではないのか?
 そこは外界から隔離されて、豊穣が約束された大地だとか。

 それはまさしく『楽園』だ。
 ついそう思ってしまった。

「分かりました。似たようなものがないか、こちらでも調べてみましょう」
「お願いします」

 ガイスンさんとは、この件を継続して調べようと約束し合った。

               ○

 意外なところで『楽園』の噂を聞くことができたが、僕には別の問題が残っていた。

 アンネラとその商会員たちがまだ残っている。
 ちょうどいい。話をしておこう。

 アンネラたちを一室に集めて、僕は考えていることを話した。
「大事なことなので、真剣に聞いて欲しい」
「はい、何でしょう?」

「このままでは、商国の五会頭のひとり、ハリムにずっと付け狙われることになると思う」
 ハリム会頭が捜しているのは『楽園』につながる情報。

 ハリムがなぜ『楽園』を捜しているのか。探しだしてどうするのかなどは、まったく分かっていない。

「僕はアンネラが学院にいる間は、守られると思う。学院に通う竜操者に手を出すのは、よほどの馬鹿でない限りしない」

 この前の襲撃は、部下たちの独断だったようだ。
 今頃は厳命が出ていることだろう。竜の学院に手を出せば、昨年の魔国のようになる。

 二回目ともなれば、竜国が……いや、女王陛下が本気になれば、どんな報復をするか分からない。
 落とし前を付けさせるため、西の都を占領するくらいやりかねない。

 だれかがゴクリとつばを飲み込んだ。

「ハリムが狙っているのは、『魔探』デュラル・ディーバが握っていた情報だ。アンネラのお父さんが何の情報を持っていたか、なぜそれを暗号にしたのか、僕はまったく分からない。けど、ハリムが密かに狙っていることだけは確かだ」

「でもお父さんは私たちには何も話してくれませんでした。私もまったく教えてもらっていないですけど」

「ディーバ商会のみなさんは捕まって色々聞かれたと思います。だれも何も知らないのは間違いないですね」
 全員が間髪入れずに頷く。

「でしたら、アンネラが知らずに何かのヒントをもらっているか、本当に知らないか。でも真実はいまは関係ありません。アンネラが何かを持っているかもしれない。それだけの理由で狙われることがあります」

「どうすればいいんですか?」

「いま『魔探』が握っていた情報を別の方面から解読してもらっています。暗号に頼らない情報なので、それが正解かどうかは分かりませんが」

「そうなんですか?」
 アンネラが驚きに目を見張っている。
 商人なのに、顔に出るってどうなんだろう。

「もし何か発見して、公表できるならば公表してしまえばいいのです。そうすればアンネラは狙われることはなくなります」

 女王陛下がどう判断下すか分からないが、『楽園』の情報を完全に秘匿することはないはずだ。

「じゃあ、それまで隠れていれば……」
「そう。アンネラはこのまま学院に通うからいいとして、商会のみなさんがアンネラをおびき出すために使われると困りますよね」

 何人かが頷いた。

「ですので、提案があります。みなさんをここの竜導教会で保護してもらい、この中で商売ができるよう本部長のガイスンさんにかけあってみました。この問題はいま早期に解決できるように動いてくれている人がいます。それまでの間、ここで商売をしてみませんか?」

 商売と言っても、神官相手であるし、利益はほとんどでないだろう。
 それでもアンネラへ迷惑がかかるくらいならばと、その場で了承してくれた。

 同時に、この問題を早期解決するために動かなければいけない理由ができた気分だ。

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