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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 今日はリンダと待ち合わせて、リンダの父親ヨシュアさんに会いに行く。

「パパは二、三日は王都にいるけど、また北に行っちゃうみたい」
「忙しそうだね」

 僕がそう言うと、リンダは苦笑した。

「いまがチャンスだからね。切り崩しを狙っているみたい」
 リンダの言い方から、『よせばいいのに』という雰囲気が感じられた。

「切り崩しに賛成していないの?」
「手を広げすぎるとね。ソールの町のようにもなっちゃうでしょ」

「ああ……リンダも大変だな」

 以前ヨシュアさんがソールの町で商いをしていたとき、王都での商売に手一杯となり、繋がりが完全に切れてしまった。
 とにかく王都で地盤を確保するのに忙しく、地元を顧みられなかったのだ。

 そのためリンダが父親の代わりに、ソールの町の地盤を再構築している最中だという。

「パパは北、わたしは南を担当することになったおかげで、ただでさえ人手不足なのに。優秀な人はできるだけ地盤強化に使ってほしいのだけどね」

 商売のことは分からないが、ヨシュアさんは機を見るのがうまいらしい。
 いまが攻め時と思えばガンガンいく。

「リンダだって、これから商売を広げていくんだろ?」
「そうよ、決行日が決まっているから、そこから逆算すると、もう日がないのよね」

 八年に一度、技国で技術競技会が開かれる。
 ありとあらゆる部門で、新しい技術が競われ、その結果をもとに序列が算定される。

 大山猫の氏族が凋落したいま、兎の氏族のラゴス家が首位を取ると言われている。
 八年分の技術の集大成は、数ヶ月や半年程度では覆せない。

 おそらく下馬評通り兎の氏族が序列一位を獲得するだろう。
 兎の氏族は、所信表明のときに竜国との経済同盟を発表する手はずになっている。

 互いの国の商人を同じように保護し、便宜をはかる。

 リンダはそのとき、ソールの町を拠点にして、一気に攻勢をかけるつもりでいる。
 そのためにはまずソールの町に確固とした基盤を作らねばならない。

 時間は有限であり、それは迫っている。



 リンダの実家に着いた。
 使用人に連れられて応接室に向かう。

「……やあ、よく来てくれたね」
「ご無沙汰しております、ヨシュアさん」

「なんの……レオンくんには大変お世話になっているよ」

 ヨシュアさんとは、竜迎えの儀が終わってからすでに二回会っている。

 黒竜シャラザードの影響で、一躍時の人となったヨシュアさんは、その影響力が薄まる前にと、精力的に活動を開始した。

 そのため、王都にいる時間が極端に短い。

「リンダに聞きましたけど、また北に向かうのですね」
「そうなんだ。王都は部下に任せても大丈夫だけど、北方はね。私自身が向かわないと駄目なんだよ」

「パパは話題沸騰の今こそ攻めどきだって言って、ちっとも王都にいやしないんだからもう……」
「本当にそうなんだからしょうがないさ」

 ヨシュアさんは悪びれる様子がない。
 夢を追いかける……昔からそういう人だったな、そういえば。

「今日はどうしてもレオンくんと話がしたかったんだ」
 先日僕がリンダに伝えた話、いわゆる商国との経済戦争が始まった件についてだった。

「竜国商業協会というものが新しく出来たんだ。簡単にいえば、私たちがやっている商会を取りまとめる大きな組織なんだ」

 これまでの同業者どうしの組合はあったようだが、異種業種を含めた大規模なものはなかったらしい。

「新しい試みですか」
「そうだね。竜国の肝いりだ。私も最初聞いたときは驚いたよ」

 商国の影響力を排除するために、商国の息のかかってない商人を呼び寄せたい。
 そのためには「竜国に移住したい」と思わせる何かが必要だったらしい。

「新規商売の規制緩和、一定期間の税金免除……それだけじゃなくて、無担保貸付も行うんだ」

 新しく商会を立ち上げる若い商人たちを支援したり、規模をもう一ランクアップさせる資金を用意したりと、竜国商業協会、つまり竜商会りゅうしょうかい信用貸付しんようかしつけまで開始したのだという。

「いまは空前の商会設立ブームだよ。ただね、商国も反撃に出た。その情報を極秘に入手したので、レオンくんに知らせておこうと思ってね」

「どうして僕なんですか?」

「最初に情報を持ってきてくれたでしょ。あれは真実だったので、私は周りより一歩早く動くことができた。それは大きなアドバンテージになった。そのお礼もある。それに、レオンくんに情報を与えた人は竜国の商業をどうにかして立て直したいと思っているはずだ。だからこの情報は有益になる」

「なるほど」

「私は商国の本気を見た。だからそれを伝えてほしい」
「分かりました」

 ヨシュアさんは見聞きしたことを語ってくれた。

「この前、北方で買い付けをしながら情報を集めていたんだ。陰月の路を越えると、とたんに情報が入らなくなるからね。そうしたら同じことをしている人がいた。私が気づけたのは本当に偶然だったのだけど、その人物は、商国の重鎮であるスルヌフ・エイドス。『豪商ごうしょう』と呼ばれる、西の五会頭のひとりだ」

「豪商のスルヌフ会頭ですか?」

「そう。商国にいるはずの重要人物がなぜ北方に? と思ったわけだ。移動は飛竜を使っていたので、私は追いかけられなかったけど、何をしていたかは調べられた。主目的は竜国からの離反工作。私と同じで物流の規模を調査していたが、彼は同時に離反工作も行っていた」

 竜国の出す条件を上回る投資を約束して、荷を買い上げて回っていたらしい。

 通常の商人ならば胡散臭いと思うかもしれないが、さすがは『豪商』である。
 次々と話をまとめて去っていったという。

「つまり買い付けに来ていたわけですよね」

「そうだね。しかも特定品目だけだ。つまり物流を止めにかかっているわけ。重要な部分だけを抑えれば、製品は完成しない。なかなか狙いはいいと思うよ」

 加工品を作るとき、絶対に必要だけど、量の確保が難しいものを狙い定めて買い漁っていたという。
 それが欠けただけで物は完成しない。頭の良いやり方らしい。

 経済戦争は資本のある方が勝つ。
 なりふり構わなければ、やりようはいくらでもあるという見本だ。

 だがそれだけで、竜国へダメージを与えられるだろうか。
 物流を際限なく止めることはできない。いつかは元に戻るのではなかろうか。

「それで効果があるのか疑問って感じかな。スルヌフ会頭は、信用毀損しんようきそんを狙っているんだ。必要な時に必要なものが手に入らない。あの商会は信用出来ない。そう宣伝することができる。失った信用はなかなか回復しないからね」

 竜国と同じく、商国の商会への加盟推進。
 優遇措置の実施も行っているらしい。

 それには、流通の切り崩しと信用毀損が生きてくる。
 五会頭という信用もあって、飛竜で多くの町を飛び回って、次々と契約を締結しているらしい。

「なるほど。本気ですね」
「そう思うだろ? これに対抗するのは大変だ。商国の意図をしっかり理解して、敵の動きを封じられる人物が必要だね。待ちの姿勢だとおそらく負ける」

 信用毀損が広がれば、商人どうしが疑心暗鬼になり、国民からも見放される。
 入荷するといった商品が入荷せず、完成すると言っていた製品が完成しない。

 商国の邪魔があるからだ。そう言ったところで、負け惜しみにしかならない。

 商国は「あの商会はアテにならない」と宣伝してまわるだろう。
 客を装って店先で騒いでもいい。

 無理な注文をして難癖をつけてくるかもしれない。

 どちらにせよ、何も知らない国民はその店、その商会を信用しなくなる。
 これが借金をして王都に店を出した新しい商会ならば、どうなるだろうか。

 二階に上がってから梯子を外された状態になる。
 恨みの先は竜国になるだろう。

「分かりました。この話、必ず伝えます」

「そうしてほしい。私らはもう竜国を選択した。だから沈んでほしくないんだ」

 ヨシュアさんはサムズアップしてみせた。
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