挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

24/656

024

 影に潜ったまま進むと、昼間忍び込んだ屋敷が見えてきた。
 僕が唯一知っている敵のアジトだ。

「……人の気配はないな」

 日中と同じである。外観はまったく変わりない。
 屋敷の中から明かりが漏れ出ていることもない。

 玄関口など、数カ所に髪の毛を挟んでおいたが、そのままになっている。
 周囲に感覚を広げるが、こちらを注視している雰囲気はない。

「やはり、もう放棄したのかもしれないな」

 ここまで何もないと、そう思えてくる。

 お姉さんは複数のアジトがあると言っていた。
 敵は拠点を移動したと考えた方がいい。

 昼間侵入したときに確認したが、中はもぬけの殻だった。
 売りに出す準備でもしているのかもしれない。

 だれも使っていないなら、有効利用させてもらおう。
 準備して、敵をあぶり出そうかな。

 もうこの建物に興味はないので、僕は寮に戻る。

「…………で、ずっと待っていたわけね」

 寮の庭に戻ると、僕の部屋の真下に気配があった。
 お姉さんだ。

「それはそうよ。……で、どうだったのかしら」
「短期決着は無理かもしれない。一応、策はある。うまくいくか未知数だね」

「早くしないと、増援が来ちゃうんだけど」
「それは僕の知ったことじゃない……んだけど、明日動いてみるから、その結果次第かな」

「ふうん、何をするの?」
「内緒。大したことをするわけじゃないけど、情報の漏洩を防ぎたいんでね」

「ちょっと、わたしが裏切るって言いたいわけ?」
「どちらかと言うと、策の中身を知った上で動かれると、敵に予想されやすいって感じかな。知らなきゃ、動けないでしょ」

「それはそうだけど」

「明後日は、僕も入学式なんで、できれば早めに終わらせたいんだ。まあ、駄目だったら相談だね。魔国からやってくるという増援を含めて、僕が対処するかもしれない」

「……分かったわ。でも、王城に容易く入り込められる敵がいると困るのよ。だからお願いね」

「それは善処する……でも、どうしてそこまで〈左手〉に肩入れするかな? ともに女王陛下に仕える仲間ではあるけど、僕たちは仲良しこよしのグループじゃないでしょ。自分のテリトリーは自分で守るべきだと思うけど」

「それについては耳が痛いわね。けど、理由があるの」
「聞いても?」

「わたしの身内に〈左手〉がいると言ったら、驚くかしら」
 うん、少しだけ驚いた。

「お姉さん、身内で〈右足〉と〈左手〉をやっているの?」

「そうなの。祖父が女王陛下の〈左手〉なの。でもわたしは戦闘が得意じゃないから、こっちを目指したわけ」
 お姉さんは、自分の足を叩いた。

 つまり、このお姉さんの家族は、我が家と同じだ。
 家族で女王陛下の〈影〉を継承。ただし他の家人かじんには内緒。

 王都には役職のないサポート要因がかなりいると聞いている。
 最初はそっちを目指して、才能が認められたとかかな。

 若くしてふたつ名持ちだし。たしか『叢雲むらぐも』と言ったかな。
 ちょっと想像がつかないふたつ名だ。

「了解。とりあえず、明日、頑張ってみる」
「お願いね。期待しているわ。じゃね」

 お姉さんの気配が消えた……いや、かすかに感じ取れる。あまり上手くないな。

 いや、〈右足〉とすれば、隠密行動は上位に入るかもしれない。
 つい、義兄にいさんと比べてしまうのは、僕の悪い癖だと分かっている。

「やっぱりこうしてみると、父さんとか義兄さんは規格外なんだよなぁ」

 両人とも気配の消し方が抜群にうまい。
 目の前にいてすら気配を断たれると、どこにどの速度で移動したのか、ほとんど捉えられなくなる。

 いかに〈右足〉といえども、あの境地に達するには、相当な鍛錬と生半可でない覚悟、そして持って生まれた素質が必要だろう。

「さて、僕も帰りますかね」

 僕はだれにも気づかれず、闇に溶けた。
 部屋に戻るのに大げさなと思うが、この方が楽なのだ。



 翌朝、購買でサンドイッチを買い込み、学院内を散策していると、向こうからセイン、マーティ両先輩がやってくるのが見えた。
 ふたりとも、僕がパン屋の仕込みから戻ってきたときにはもういなかった。

「こんな朝から、散歩かい?」

 マーティ先輩がにこやかに尋ねてくる。
「先輩たちこそ、ずいぶんと早いですね。昨日帰ってきたばかりだというのに、何かあったんですか?」

竜舎りゅうしゃの方にちょっとね。長距離遠征の後だろ。竜の様子を見てきたんだ」
「なるほど。竜はタフだって聞いていますけど、どうなんですか?」

「うん、まったく問題なし。今日にでもまた同じ距離を走れそうな勢いだよ」
「それは……」

 遠征の翌日でそうなんだ。思った以上にタフだな。

「僕たちのは小型竜なんだ。それでも馬とは比べ物にならないね。よく分かっているつもりだったけど、実際に乗ってみるとビックリすることばかりだよ」

 マーティ先輩は走竜で、セイン先輩は地竜だと聞いた。

 竜には、走竜、地竜、飛竜の三種類がある。
 まれにその三つに属さないものもいるが、基本的にはこの三種類に分類できる。

 走竜はとにかく速い。
 馬車で一日の距離を二時間で走破してしまう。

 それだけでなく、長距離を走り抜けるだけのタフさがあるので、まる一日あれば、竜国の端から端まで駆け抜けてしまうだろう。
 竜操者は乗っているだけでも大変だろうが。

 走竜を得たマーティ先輩は、実家の商売を大いに助けることになるんじゃなかろうか。

「セイン先輩は地竜でしたよね。やはりなんともなかったんですか?」

「ああ、もっと暴れさせろとうるさいくらいだったな。おそらくだが、自慢の爪を振るう機会がなかったのが不満なんだと思う」
「……そうですか。ないほうがいいですよね、そういう機会は」

 地竜は、戦闘に特化している。
 とにかく守りが堅く、首筋に盛り上がったウロコがあり、それが竜操者をよく保護している。

 戦いになっても、めったなことでは、乗り手を死なせることはない。
 爪か牙で相手を切り裂き、足で踏み潰す。
 軍人の家系のセインさんならば、よき相棒となるのではなかろうか。

「レオンくんは、どんな竜が望みなんだい?」
「僕ですか? あまり考えたことがないですね」

「珍しいね。竜紋が現れたら、だれでも自分がどんな竜を得るか夢想するもんだろうに」
「そうかもしれませんね。家業の手伝いが忙しかったもので、あまり考える暇がなかったんですよね。だから、まだ実感も湧いてないんです」

「それは珍しいな。……実家は何を?」
「ソールの町でパン屋をやっています。ずっとパン職人になるのが夢でしたので」

「そうか。……まあ、パン焼きは趣味の範疇になってしまうだろうね、さすがに」
「ええ、それはもう覚悟しています」

「パン屋を諦める覚悟か。私からすれば一族の期待を背負っていただけに、その気持ちは分からないが、君が家業に対して真摯しんしに向き合ってきたことだけは分かる。だが、そういう者が同じ竜操者として、肩を並べることに嬉しさもあるかな」

 セインさんはそう言って微笑んだ。
 なんとなく、気難しい人だと思っていたので、ちょっと意外だ。

「ありがとうございます。僕も立派な竜操者になるよう、明日から頑張ろうと思います」

「そういえば、明日は入学式だったね。場所は分かるよね。学院の向かい側だ」
「はい。入寮したときに聞きました」

 入学式は、道を挟んだ向かい側にある、王立学校おうりつがっこうで行う。
 毎年わざわざ三十人程度のために式典を開くのが面倒なのかと考えていたら、違うらしい。

 この学院の敷地内に多数の人を入れたくないのだ。
 来賓にかこつけて、変な人間が入るのを防ぐためだ。

「気をつけてね。王立学校の生徒の中には、僕たちのパトロンになりたがっている者が多いから、うかつにオーケーしちゃだめだよ」

 マーティさんはそう言ってウインクした。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ