挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

239/656

239

「朝っぱらから逢い引きなんていい身分じゃないか」
「いや、違うからね」

 アークの言葉を僕は即否定した。

「相手はキミのことを好いているアンネラ嬢だし、隠さなくてもいいさ。でも、時間と場所は弁えたほうがいいけどね」
「だから違うって」

「……とまあ、そんな噂が流れたみたいだけど、気分はどうだい?」

 授業の休憩時間でも散々からかわれて、寮に戻ってきたらアークからそんなことを言われた僕としては、どう反論していいのか分からない。

「とにかく楽しがるのはやめてくれ。彼女も困るだろうし」
「そうだな。……まあ、そのうち噂は立ち消えると思うけどね」

「早くそうなってほしいよ」
 やはり授業終了後まで待てば良かったか。でも、早く知らせたかったんだよな。

「先輩が女生徒をコマして、教官にボコボコにされたって本当ですか?」
 クリスが部屋に入ってきた。

「ほう、クリスくん。その話……よく聞かせてもらおうかな」

 戦う神官クリスともここ最近は打ち解けてきたと思っている。
 全方位に喧嘩を売る言動をする可愛い後輩だが、矯正するのは簡単だ。

 今では素直なものだし、あれが素の状態であると分かれば、別段腹も立たない。

 とにかく何度か肉体で話し合いをしたら、僕に対してだけは大人しくなったし。
 あとなぜかアークが好かれている。謎だ。

「せ、先輩……やめて下さい。マジでヤメろぉおおおお」

 僕が軽いお仕置きをすると、クリスは涙を流して反省してくれた。素直ないい子である。
「それでだれがだれをコマしたって? そんでボコボコってどういうことかな?」

「いや……あのですね。違うんです」

 答えに窮するクリスはアークに助けを求めた。
「おれは二回生だから一回生の間に流れた噂は知らない」
 アークはとり付く島もない。

「……で、どういう噂?」
「えっと、後輩を妊娠させて教師相手に大立ち回りをしたって……オレじゃないです。噂です。そういう噂が流れていたんですってば」

「ちっとも合ってない」
 噂にしろ、もう少し真実の欠片が混ざるものじゃないか?

「キミの日頃の行いかな?」
 アークがとんでもないことを言った。

「あれだけ品行方正な僕のどこにそんな噂が流れる下地があるんだ?」
「気づいてないのかい?」

「………………ちっとも?」
 本当に心当たりがない。
 学園内でも大人しくしているのに。

「大変です。レオン先輩が後輩を人質に立てこもったって……あれ? レオン先輩?」

 寮に戻ってきたレゴンの言葉に僕は頭を抱えた。
 なんだそれは!

               ○

「霧の民についてかい? 珍しいね、キミがそんなのに興味を持つなんて」
 噂はすべて間違っていて、僕が後輩の面倒をみていただけだと説明した。

 クリスもレゴンも信じてくれた……と思う。
 二人には悪いけど、明日の授業のときに、一回生たちに説明してもらおう。

 同室の二人が言えば、説得力があるだろう。

「霧の民については、いろいろ気になってね。アークはそういうのに詳しいから、聞いてみたかったんだ」

「まあ、詳しくはあるかな。まだ話してなかったこともあるから、教えてあげよう」
 アークの鼻の穴が膨らんだ。すごく話したそうだ。

「これはヒューラーの町に伝わる話なんだけど、王都崩壊の原因となった王族がいてね」

 それは昔々の話だった。
 アークは伝聞であることから、信ぴょう性が低いと断った上で話してくれた。

「旧王都から今の王都に移ったのは、大転移が原因ではなかったんだ」
 それは衝撃的な話だった。

 ヒューラーには、旧王都崩壊についての話がいまだに残っているという。
 そこに大転移は出てこない。

「月魔獣が多数襲来したらしい。これは大転移に関係するかもしれないけど、当時の記録は残っていないから分からない。ただ、王都が危機になるほどの月魔獣はやってきた事実はあるみたいだ」

 かろうじて撃退したものの、王都は立ちゆかなくなって来た。
 その責任を国王に求めた民衆は団結して王城に迫り、王を玉座から引きずり下ろした。

 王族とそれに従う一族は、王都を追われたらしい。
 落ち延びた王族たちは、一時期ヒューラーの町に居を構えていて、その記録が残っているという。

 しばらくしてみなが幸せに暮らせる『楽園』を求めて、王族たちはヒューラーの町を去る。
 ここでも『楽園』という言葉が出てきた。

「その『楽園』というのは何だい?」
「具体的なものじゃないと思うね。理想の地というやつじゃないかな」

 古文書にも、詳しいことは何も書いてないらしい。

「ここが不思議で、意見の分かれるところなのだけど、『楽園』を見つけに旅立ったのか、『楽園』を見つけたから旅だったのか分からないんだ」

 一時期、王都を追われた王族たちがヒューラーにいて、そして旅立っていったことだけ。
 それ以外は、想像するしかないようだ。

「それでね。しばらくして王都の中に、あれは間違いだったという人たちが現れたんだ」
「間違い? 王族を追放したこと?」

「そう。なにしろ、月魔獣の襲来なんて天災と同じだ。しかも無事に撃退できたのだから喜べばいいだけで、責任を追及するべきじゃないって意見だね」

 その意見が出たのは、王族たちが追放されてから何年も経ってからであったために、旅立ってしまった王族たちの行方は分からなかった。

「探して謝ろう。そして戻ってもらおう。そう思った王都の人たちが手分けをして探しに出たんだ。捜索集団が旧王都を出て行ったらしい。そのひとつが天蓋山脈にたどり着き、そこを中心に探すことになった。それが霧の民の前身だと言われている」

「霧の民は、王都から王族を探しに出た者たち?」
 だったら彼らは、竜国の民ということになる。

「一節によると……という注釈がつくけどね。なにしろ、手分けをして探しに出たわりに霧の民しか話が残ってないのはおかしいからね」

「先輩……それ、オレのところにも似た話があるッスよ」
 クリスが考えこむように言った。

「似たような話?」

しおの民って言うッス。オレんとこ、海岸沿いの港町なんスけど、昔々、陸地の方からやって来た連中が船を造って出て行ったって伝承があるんスよ。町にいたのは数年間だけなんで、記録は残ってないんスけど、口伝くでんで残っていて、オレもちっとばかし耳にしたことがあるッス」

 意外なことに、クリスの出身地にも伝説が残っているという。

「それはどういう人たちなの?」

「どういう人たちってか、船を造って出て行ったんスよ。やっぱり『楽園』を探すって言ってましたね。この話を知っているのは、元船乗りの古老ころうなんスけど、その人からそんな話を聞いたッス」

「へえ、珍しい……というか、似ているね」
 アークが感心するが、たしかに共通点が多い。

 そしてここでもまた出てきた『楽園』という言葉。
 これは偶然か?

 このあともアークとクリスから詳しい話を聞いた。

 霧の民も潮の民も『楽園』を探していた。
 それは紛れもない事実のようだ。

「古老は、『楽園』は海の向こうにあるかもしれないって言ってたッス。未発見の島があるのかもしれないッス。でもだれも見たことないッス」

 未発見の島。
 その言葉が妙に僕の耳に残った。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ