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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 女王陛下から衝撃的なことを聞いた翌日、さすがに授業に身が入らないかと思ったら、授業でも大転移のことをやっていた。

「これは逃げられない運命なんだろうな」

 僕は静かな生活を送る夢をまだ捨てていない。

 シャラザードとアンさん、そしてリンダ……みんなで平穏に暮らすには、大転移を何としてでも乗り越えなければならない。

 だが、その道のりはあまりに険しい。
 国ひとつ滅ぼすような月魔獣の群れに果たしてどこまで抗えるのか。

 そして竜国を狙ってくる魔国と商国。
 それらを相手にしつつ月魔獣の脅威が数年も続く。

 前途多難だ。

 よろよろと寮に向かって歩いて行くと、何やら騒がしい。

「ああ、入学式が終わったのか」
 昨年と同じならば、これから茶話会がはじまり、学院の一回生たちは次々と狩られていくことだろう。
 狩られていく……で合ってるよな?

「それにしても、喧騒がここまで届くとは……」
 数百人が声を張り上げている姿を想像して、苦笑が漏れる。

 いまが平和だからこそ、こうして馬鹿騒ぎができる。
 戦乱が始まれば、暢気に茶話会だなどと言っていられない。

「ちょっと様子を覗いて来るか」

 昨年は早々に寮に引き上げたので、実は何が行われているか、よく分かっていない。
 声のする方向に僕は足を向けた。

「……ん? あれはアンネラじゃないか」

 人混みを振り切るようにしてアンネラがこちらに駆けてくる。
「レオン先輩!? どうしてここに?」

「授業が終わって、寮に戻ろうかと思ったんだ。アンネラは? 茶話会はなかったの?」
「入学式後のですか? そんな気分ではないので、お断りさせていただいたところです」

 商会の仲間が行方不明中なのだ。
 いまも身を切るような気分を味わっているのだろう。
 そうだよな。茶話会なんて言ってられないよな。

 アンネラの顔をみて、僕はもう内緒にしていることができなくなった。

「知り合いの竜操者に聞いたんだけど、昨夜行方不明の人たちが監禁されている場所へ踏み込んだらしいんだ」

「……………………えっ?」
 アンネラが固まった。
 憔悴しきった顔を僕に向けて、唇が震えている。

「ディーバ商会の人たちは王都に向かう途中、拉致されたことが分かったんだ。監禁場所も特定されたので、兵と竜操者たちが踏み込むことになったらしい」

「ほ、ほんとうですか? みんなが……監禁? なんで? でも生きて」

「状況は分からないけど、監禁されているというからには無事なんだと思う。僕も聞いた話なので、詳しくは分からない」

「いえ、それだけでもものすごく助かります。ああ……よかった。生きていたんだ」

 アンネラの頬に朱が差した。
 目に活力が出てきている。

「僕が聞いたのも昨晩の話だから、結果が分かってから知らせようと思ったんだけどね」
「ありがとうございます。ありがとうございます! ありがとうございます!!」

 アンネラは感極まって泣き出した。
 もう何日も行方不明だった。

 生存は絶望視していたのだろう。
 それが生きていたことが分かった。

 僕は泣き出したアンネラを連れて寮に戻った。
 竜操者がいれば今日中に結果が分かるかもしれない。

 捕まえていた者がいなくなれば、ハリムはどう思うだろうか。
 アンネラを直接拐う?

 もしそう考えてもアンネラが学院内にいれば、拐われることはない。
 しばらくは窮屈な生活でも、学院内にいた方がいいかもしれないな。

「しかし……暗号ってなんだよ、ほんとに」

 アンネラの父が残したという暗号文。
 アンネラに聞き出したいところだが、いまはそんな心の余裕はなさそうである。

               ○

 その日の夜。
 僕は王宮に赴き、女王陛下に謁見した。

「救出に成功したわよ」
 開口一番でそれを言われた。僕が来た理由は分かっているようだ。

「ありがとうございます。アンネラも喜びます」
「それでね、この問題は竜国の浮沈にかかわることになるかもしれないの」

「…………はい?」
 昨日の今日で、油断していた。

 大転移に匹敵する話があるのか?
 女王陛下との謁見は、これがあるから侮れない。

「ハリム会頭の考えだとね、解読した暗号文から『楽園』は存在すると考えているみたね。その情報を握っているのがディーバ商会……もう『魔探』は亡くなったわけでしょ。その後継者を狙っているわけね」

「それが今回の誘拐、監禁ですね」
「そうね。それでハリムだけど、竜国が『楽園』の情報を握っていて、それを隠している。そう睨んでいるみたい」

「どうしてまた」
 意味が分からない。

「『魔探』は天蓋山脈で珍しいものを探してはそれを高額で売りさばいていたのね。そこで知り合ったのが『霧の民』。ここまでは暗号文から解読したみたいね」

「霧の民ですが。あの魔道使いになる薬を採取する」
「そうよ。霧の民から聞いた『楽園』の情報は、もともと竜国から流れてきたものらしいわ」
「はい?」

「困るわよねえ。『楽園』なんて言われても、心当たりないもの」
 捕まえた商国の者たちを尋問したところ、前回よりも詳しい内容が分かったらしい。

 この尋問は引き続き行うらしいが、その新しく分かった内容が問題だと女王陛下は言った。

 ハリム会頭が血眼になって探している情報は、竜国発祥らしい。
 しかも『楽園』というのは、比喩的なものではなく、そのままの意味らしい。

 ――楽園、それは究極の地

「飢えることもなく、争うこともない天上のような大地、その存在を竜国が隠しているのだそうよ」
「えーっと……ハリム会頭は誇大妄想狂でしょうか」

「そうだったら良かったんでしょうけどねえ。魔国と組んでまで狙ってきているのよね」
 困ったものだわと女王陛下は言った。

 それが本当ならば、たしかに困ったことだ。

 アンネラの仲間たちだが、全員救出されて、いまは近くの村で休んでいる。
 衰弱している者もいるので、体調の回復を待って王都に来るそうだ。

 なんにせよ、最悪の事態は避けられた。



 そして、新たな問題が沸き起こった。

「……楽園か」
 なんだそれは。

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