挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

236/660

236

 その日の夜、僕は闇に溶けて王宮に向かった。
 女王陛下に謁見するためだ。

「懐かしいわね」
 女王陛下は一年前のことを持ちだして、そう切り出した。

 入学式の前日、僕はスルーとダブルを処理し、その直後同じ〈右手〉の『悪食』と『千本針』に絡まれた。

 千本針を殺し、悪食を完全に下したあと、女王陛下への謁見を一日伸ばしてもらったっけ。
 あのとき、時刻は真夜中。王宮に報告してから寮に戻ると、明け方になる。

 翌朝に入学式があったので、それを避けたかったのだが、あとで〈左手〉のみなさんが「なんて生意気な」と怒っていたらしい。

「そういえば明日は学院の入学式になります」
「そうね。今年もサーラーヌがいくわよ」

 あの外出したがりな王女だ。今年も当然行くだろう。

「今年はアンさん……アンネロッタ先輩も祝辞を述べると聞きました」
「ええ、お披露目するのにちょうどいいでしょ。娘とも仲が良いようだし」

 おもしろい玩具を見つけたみたいに女王陛下は笑った。
 仲がいいというのは本当だったのか。

 ふたりの性格を考えると、あまり合うとは思えないのだが。

「それでね、レオン」
「はっ!」

「一年前の話だけど、覚えているかしら。大転移が起こるという……」
「もちろんです。忘れるわけがございません」

 忘れていたら病気だ。
 あれほどインパクトのある話はそうない。
 ヘタすると魔国が滅ぶ。それに合わせて竜国も立ち直れない被害を被る可能性があるのだ。

「あれから月詠師つくよみしたちに大転移の時期を計算させたのですけど、時期が早まりそうなのよ」


「………………………………はっ?」


 今なんていった?

 時・期・が・早・ま・り・そ・う?

 マジか? えっ? ええっ? 大丈夫なのか?

「この一年の間に何度もふたつの月が接近したでしょ。それで軌道を測りながら予測を立てたのだけど、どうやら少しずつズレているのよね」

どうしてかしらねと、女王陛下は軽い調子で言った。

 どういうことかと言うと、ふたつの月が接近するたびに互いに引かれ合い、軌道が少しずつずれているのだとか。
 今までこんな大接近はなかったので、ズレもなかった。
 つまり今回のズレは、大転移が近づいていることと無関係ではないらしい。

「あまりにふたつの月が近づき過ぎると、互いに影響を及ぼし合うようみたいね。それで、よけい近づくから、大転移の時期が早まったみたいなのよ」

「ぐ、具体的には……い、いつごろでしょうか」

「これからもズレは続くだろうし、その規模がどのくらい大きくなるが、いまいち把握できないのよ。でも、一年か二年早まるのではないかって月詠師は予想しているわ」

 あのとき四年後と言っていた。
 あれから一年経っている。あと三年残されていたはずだ。それが一年か二年早まる?

「は、早ければ今年の終わり……ですか?」
 何がだ? 大転移の開始がだ!

「そうなるわね」
 頬に手を添えて、女王陛下は困った顔をした。


 そこから先の記憶は、半分くらい抜けている。

 アンネラの商会仲間が捕らえられている建物へ、今夜襲撃をかける手はずになっていると知らされた。

 だが、大転移の話が衝撃的過ぎて、ロクに返答できなかった。
 最悪の場合、僕が学院を卒業する前に大転移が始まる。

 かつて呪国を滅ぼしたと言われる月魔獣の大量降下、それがもうすぐそこまで来ているらしい。

               ○

 翌日の入学式。
 僕ら二回生は授業の初日となる。

「初日……のはずだよな」
「どうしたんだい?」

「今日が授業の初日ならば、今まではなんだったのかと思ってね」
 アークの問いかけにそう答えた。

 なにしろ、昨日までの間に、何度も演習が入っていた。
 学院の認識では、演習と授業は違うのだろうか。違うのだろうな。今日が初日とか言っていたし。

 それはいい。
 今日は一回生の入学式。
 僕らは座学で椅子に座らされ、教室でありがたいお話を聞かされている。

 そして座学の内容は、よりにもよって「大転移」についてだった。

「当時、大きな被害を受けたことを鑑み、竜国ではふたつの月の軌道を計測する部署を新たに創設したわけである。毎日、月の運行を計測する者たちを月詠師つくよみしと呼び、竜国内だけでなく、他の国々にも計測する場所を設けてある」

 月詠師の仕事内容を初めて聞いた気がする。
 王城内にある部署なので、詳しい内容を知っている人は少ないと思う。

 月の運行を計測する場所は竜国内部だけでも六箇所、他国も合わせると十三箇所もあるらしい。
 その資料を王城内の秘密の場所でつき合わせて、正確な軌道を導き出しているのだとか。

 昨晩、女王陛下はこの一年で月の軌道にズレが生じていると言っていた。
 これだけ大規模な計測が行われていてズレが起きていると判断したからには、そうなのだろう。

 ズレが誤差ではないとすれば、実際に大転移は一年か二年早まる。

「……ただし、前回の大転移がおきてから設置された部署であるゆえ、次の大転移を正確に予想できるかどうかは未知数である。また、国民が必要以上に恐慌をおこさないためにも、その情報は秘匿される可能性もある」

 大転移に備えて、食糧や避難地の確保、誘導経路、怪我をした場合の措置、大転移の規模によっては、国外へ脱出することも想定されている。

 なにより、月魔獣を効率的に倒し、竜国民に被害が及ばないような迎撃体制を敷かなくてはならない。

 大転移が起こる前にやることはいくらでもある。
 情報だけ先に発表し、浮足立った国民がパニックをおこしたとしよう。

 月魔獣への対応を邪魔されたら、死ななくてもいい人たちまでも死んでしまう。
 それどころか、国が滅ぶ要員にもなりかねない。
 ギリギリまで情報を秘匿するのは、悪いことではない。

「質問があります」
 ひとりが手を挙げた。

「何かね」
「大転移とはそもそも、陰月の路が移動することを表し、その際、月魔獣が大量に降ってくることをいいますが、肝心の陰月の路がどちらに向かって移動するでしょうか。それによって、被害の大きさが違ってくると思うのですが」

「ふむ……陰月の路の移動方向か。過去、ふたつの月の交わり方によって陰月の路はこのように変化してきた」

 教師は、黒板にやや湾曲した線を書いた。

 一本目は上から下へ、左側が膨らむような曲線だ。
「千年近く前だな。当時はこんな状態だったらしい。初めて観測された大転移でこうなった」

 曲線が右に傾いた。右上から左下へと陰月の路が走っている。
「次はこうだ。南に向かって進んでおる」

 ほぼ並行のまま、陰月の路は下の方に移動した。
「最後は今の形だな。みんながよく知っている位置だ」

 そこから上、つまり北に向かって、やや右を下にして並行に移動させた。

「このように移動には規則性はない。ふたつの月の関係だけが、陰月の路の移動先を決めると言われている。そしてそれは、月の軌道を計算している月詠師のみが導きだせる。だから私は知らん」

 それで授業が終わった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ