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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 翌日、パン屋のアルバイトをしながら、僕はいろいろ考えた。

 お姉さんからもたらされた情報を吟味してみる。
 女王陛下からの呼び出しも、おそらくそのことだろう。

「暗号化された情報ね」

 かつての五会頭のひとり、『魔探』が残した暗号文。
 ハリムが解読に成功したと言っても、完全に理解できたわけではないのかもしれない。

 アンネラに聞くのは急がない方がいいだろうな。
 行方不明の仲間がいる状態で不安をことさら煽る必要もないだろう。

「どうしたの? なんだか浮かない顔ね」
『ふわふわブロワール』の看板職人ミラが話しかけてきた。
 最近のミラは、状況によって看板娘と看板職人を使い分けている。

 ミラは今年から本格的に修行を始めて、いま僕の隣でパン生地を捏ねている。
 腕は……まあ、お察しといったところだ。

 ちなみに客の認識だと、看板娘の称号は妹のクシーノに与えられている。
 愛らしい顔立ちと愛想のいい笑顔。

 幼いながらも如才なくふるまうクシーノの接客におじさんおばさんたちがメロメロなのだ。
 勝ち気なミラにもごく一部、コアなファンがついているらしいが、クシーノには遠く及ばない。

「浮かないわけじゃないけど、ちょっと考え事をね」
「ふうん。あなたがパン焼き以外で気にする事があるのかしら」

 失礼な言い方だが、ミラの場合、これで心配してくれているのである。
「後輩のことでちょっとね」

「そっか。そういう時期だものね」
 正確には行方不明になった後輩の仲間についてだが、それはさすがに話せない。

 ミラも学校に通っている身なので、思う所があるようだ。
「そういえば、明日は入学式か」

 竜の学院の入学式だが、二回生の僕は参加しない。
 接待は王立学校の生徒たちがすべてやってくれる。
 手ぐすね引いて待っているとも言う。

「早いわね。わたしがあなたの竜紋のことを知ったのは、入学式の当日だったわね」
 そんなこともあった。

「貴族の無茶振りがあって、ミラは店頭でキレていたよな」
「ちょっと、それは言わないで! わたしだってあれから反省したんだから」

 たしかに客に食って掛かることは少なくなったと思う。
 でもそれが普通だと思う。

「そうだな、ミラも成長したよな」
「なんで上から目線なの?」

 褒めたら睨まれた。

               ○

 昼過ぎまでパン屋でアルバイトをして、寮に戻った。
 ロビーでアークとアンネラが何やら話している。珍しい組み合わせだ。

「レオン先輩っ!」
 アンネラが僕に気づいて手を振った。

「やあ、アンネラ。明日は入学式だね」
「ええ……でも仲間たちがまだ」

「心配いらない。いま多くの人たちが協力して探している。とくに王都近郊で行方不明が起きたんだ。国も本腰を入れて捜しているはずだよ」

「そうですか……そうですね」
 アークが頷いている。

「レオンの言う通りだよ。キミは中途半端な気持ちで入学式に望むべきでない。なにしろあそこは、魔境だからね」

 アークの言葉に僕は吹き出した。
 去年のアークは、かなり早く出かけていって、遅くまで戻ってこなかったはずだ。望んで魔境に足を踏み入れた者の台詞とは思えない。

「なあ、アークは入学式をたっぷり楽しんだんじゃないのか?」
「それはそうさ。パトロンを見極めるために、利用できるものはなんでも利用すべきだ」

 ここで選んだパトロンは一生ものだ。
 アークの言いたいことは分かる。

「ですがアーク先輩。わたしは、自分の商会だけでやろうと思うのですけど」

 アンネラは卒業したマーティ先輩と同じか。
 そういう道もあるのだが、商会の規模としてはどうなんだろう。

「どうだろうね。経営が少しでも傾くと、竜の餌代はかなりの負担となるよ。それが原因で商会を閉じることにもなりかねない。安定した商会か、貴族を味方につけた方がいいと思うけどね」

「そうですか? うーん」
 アンネラは乗り気でないようだ。

「僕もアークの言葉に賛成かな。長い時間の中で、どうしても商会がうまく回らないときもある。普通なら立ち直れる状況でも、単独でパトロンを引き受けていたために耐え切れなくなるかもしれない。まあ、その辺のところは、少し考えてみるといい」

「……そうですね、考えておきます」

「キミが言うと素直に聞くようだね」
「アークよりも幾分付き合いが長いからかな」
「なるほど」

 命を助けたことがあるからか、竜操者であることを見ぬいたからか、それともシャラザードをことのほかアンネラが気に入っているからかもしれない。

「そういえば、アーク。まえに竜操者の暗黒時代の話をしてくれただろ?」

 すべての竜操者を軍属にしようとして他国に逃げられた話だ。
 ちょうどいいから、いま聞いてみよう。

「それがどうしたんだ?」
「たしか、あの時は話の途中だったようなことを言っていたじゃないか。その続きが気になってね」

 とりあえずここまで、そんなようなことをアークは言っていた。
 つまり竜操者の暗黒時代には、続きがあるはずなのだ。

「あれかい。そうだな、続きというと……第一次暗黒時代について話したんだっけか。そのしばらく後に、第二次暗黒時代というのがあったんだ」

 第二次……そんな話をチラッとアークが言っていたな。

「暗黒時代……ですか?」

 アンネラは聞いたことがないようだ。
 日常生活でもそんな話は出てこないしな。興味のない人は、調べない限り知らないだろう。

「そう、暗黒時代だ。それも第二次の……聞きたい?」
 アークがしゃべりたいらしい。

「はい。教えてもらえますか、アーク先輩」

「分かった。……では話をするとしよう。あれは……」

 アークの独白が始まった。

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