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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 スルーについて分かっていることは少ない。

 魔国出身で、魔道使い。
 そして魔国に本部を持つ『グラススネイク』に属している。

 スルーの使う魔道は、王城に張り巡らせた感知結界をくぐり抜けることができた。
 同時に女王陛下の〈影〉の追跡からも逃れている。

 このことから、スルーの能力は戦いに特化したものではなく、どちらかと言えば、潜入、逃走に秀でている。

 そして、ここが重要だ。もうすぐ魔国から増援が来る。
 つまり時間制限付きの指令で、そのリミットは意外に短い。

 魔国に漏れた情報が有益だったのか、それ以上の情報を得る必要が出てきたか分からないが、急遽派遣してきたということは、魔国は本腰を入れていることが伺える。

 増援はスルーにもっとうまく働かせるためのバックアップだろう。
 つまり、スルーさえ排除してしまえば、この問題は一挙に解決する。

 さて、どうしようか。
 学院の入学式も近いことだし、あまり時間をかけていられない。というか、かけたくない。

 グラススネイクのアジトは分かっているが、バカ正直に突入しても意味はない。
 大きな屋敷らしいので、わざと襲撃させるために居を構えているようなものだ。

 本命はどこか別にあるに違いない。

 翌日僕は、王都の高級住宅街を歩いた。
 アジトの建物を見に行ったのだが、別段おかしいところはない。

 魔国で成功した商人が、いつかここで生活するためにと購入したことになっている。
 もちろん表向きはだ。

 調査の本命は夜ということで、まず軽く探りを入れてみるか。
 布で顔を隠してから、僕は塀を飛び越えて屋敷の中に入った。

「……ふうん。人の気配はないのね」

 どこも鍵が閉まっている。
 夜ならまだしも、日中に『闇渡り』を使いたくない。

 一旦、出直すかな。
 僕はそっと屋敷をあとにした……振りをして尾行を確認したが、そんな気配は微塵もなかった。
 僕の演技が下手だったのか、館を見張っている者がいないのか。



 その日の夜。
 寮の庭、僕がいる窓の外に気配がある。
 昨日のお姉さんだろうな。

 みなが寝ているのを確認してから、そっと闇に溶けた。

「昨日ぶりね」
「毎日来られても、そんなに進展はないですよ」

「そんなにということは、もう何かあったのでしょうか」

 相変わらず黒衣を顔まで隠しているので、目元しか分からない。
 声のトーンがややあがったので、どうやらお姉さんの興味を引いたようだ。

「昼間、アジトに潜入してきましたよ。もぬけの殻だったけど」
「あら、残念ですね」

「あからさまに侵入したので、だれか跡を付けてきているかと期待したけど、これもなし」

 適度に館から離れた暗がりで闇に溶けて、ずっと待っていた。
 だけど追っ手はひとりも現れなかった。
 つまり、アジトを外から監視していた者も存在しないことになる。

「教えた屋敷は、一度襲撃を仕掛けようとして、逃げられているからでしょうか。でも他のアジトは教えられないのです。だって教えちゃうと、こっちが知っていることがバレちゃうからですね」

「長期戦になるかもですよ」

 敵の裏をかくのは常套手段なので、わざわざこっちが知っていることをすべて相手に知らせる必要はない。
 ゆえに、残りのアジトについて、僕に知らせたくない気持ちも分かる。

「できれば救援が到着する前にカタを付けたいのですけど……難しそうですか?」
「救援はいつごろ到着しますか?」

「隊商に混じってやってくるので、あと三、四日後でしょうか」
「三、四日か。こっちの流儀でいいなら、できるかも」

「どういうことかしら」
「少し派手に動いていいなら、なんとかなるかもしれない」

 実は、僕の能力は追跡向きだったりする。
 なので、敵に現れてもらった方が都合がよい。

「ほどほどにできますか? ……あまり派手ですと、『悪食』たちにも感づかれるかも知れないのです」

『悪食』は、王都で活動している〈右手〉だ。
 別に王都の〈右手〉とは敵対していないが。

「感づかれるとヤバイわけ?」

「どうでしょう。任務に失敗したので手を引くように通達しましたけど、納得していないのですよ」

 たしか、『悪食』、『首断ち』、『千本針』と言ったかな。

「別にどう思われようと関係ないけど、邪魔するなら殺しますよ」

 プロがプロの跡をつけるなら、それはもう殺してくださいと言っているようなものだ。

「ちょっとそれは物騒じゃないでしょうか」
「お姉さんは剣を向けられてから、『話せば分かる』とか言うタイプですか?」
「………………」

「というわけで、死にたくなければちょっかいをかけないように言っておいてくださいね」

「その言葉を伝えたら、間違いなく介入してくるでしょう。もしかして『闇渡り』さん、あおっていますの?」

「至極当然のことを言っているだけですよ。許可も出たことだし、ちょっとだけ見に行ってきますね」

「えっ!? 行くの? ちょっ、まっ、私も一緒に……」

 お姉さんは素で慌てたようだが、もちろん待たない。
 僕は闇に溶けた。


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