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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 三月も半ばが過ぎ、同級生たちは自主訓練に励んでいる。

 僕はシャラザードに促されるまま月魔獣狩りに出かけている。

あるじよ、月魔獣は小さいのばかりだぞ。もっと手応えのあるのはいないのか?』
 不満気な声が聞こえる。

「これが普通だよ。もっと大きいのはたまに出ると聞くけど、ほとんどの竜操者は出会ったことはないんじゃないかな」

 シャラザードが小さいというが、僕らからしたら充分大きい。
 高さはどんなに小さくても三メートルはある。五メートル以上になるのもチラホラ見かけるほどだ。

「シャラザードはどのくらいのを想像しているんだ?」
 逆にそっちの方が気になる。

『我が戦った中だと……そうだな。我より一回りは大きかったな』
「ちょっと待て!」

 そんな巨大な月魔獣の話は聞いたことがない。
 シャラザードと同じくらいなら、少なくとも小型竜では太刀打ちできない。
 中型竜を多数揃えてなんとかできるかどうかだろう。

 そんな大きな月魔獣って、ありえるのか?
 シャラザードの冗談か? 笑い飛ばしていい話だよな?

「そんなのが出たら、国が滅ぶよ」
 シャラザードのような特殊竜や大型竜以外では倒せないだろう。

 もしそんなのが大量にいたら竜国だって滅ぶ。

『なに、そうなったら我が相手をしてやろう』
 自信満々に言うが、巨体どうしの戦いに巻き込まれたら、僕が無事に済まなさそうだ。

「現れないことを祈っているよ」
 心底そう思う。

 最近は竜操者の巡回も順調らしく、シャラザードも不満が溜まり気味なのかもしれない。
 巡回の回数をかなり増やしたと聞いている。

 それでもシャラザード級の月魔獣が出たという話は聞いたことがない。
 うん、いまのはシャラザードの冗談だ。
 そう思うことにしよう。

 もし、シャラザードより大きな月魔獣がいるなんて考えたら、夜も眠れなくなってしまう。



 さて、今日はリンダと会う日だ。
 リンダからいつものレストランに誘われた。

「久しぶりね」
 そう言ってくるリンダは少しだけ日焼けしていた。
「どこかに行っていたの?」

「休みを利用して北にね」
「陰月の路を超えて?」

 ついこの前シャラザードと行ったばかりではないか。
 どうしてまた。

「船を使ったの。あれなら安全でしょ」
 月魔獣は鋼殻こうかく状態で落ちてくるので、海上だと水の中に落ちてしまう。

 本当に運が悪い場合は、船に直撃するだろうが、それを怖がっていればどこにも行けない。
 竜国で北に行く場合、わざわざ危険な陰月の路を横断するよりも船を使う場合が多い。

「仕事だよね」
「そうよ。拠点を南に移すといっても、ネミンの町の交易はあるわけだし、一度自分の目で見ておこうと思ってね。だから視察のために往復してみたの」

 リンダは父親の跡を継いで商会を切り盛りする気満々である。
 今の話を聞いただけでもやる気も行動力もある。

 王立学校にいる間も積極的に父親の仕事を手伝っていたが、これは本当に商人として大成するんじゃなかろうか。

「そういえば、王都はずいぶん変わったよ」

「そうね。戻ってきて驚いたわ。さすがは女王陛下ね。打つ手が早い。北でね、魔国の商人が動いていたのよ。技国に輸出する希少鉱石を採掘したいみたい。だけど、竜国で新規参入緩和の話が出たでしょ」

「そうだね」
「ちょうどそのお触れが届いてね。その商人、とても困っていたわ」

 女王陛下が発表した緩和政策は、ほとんどの場合、商人に両手を上げて受け入れられる内容になっている。

 たとえば一定期間税金の免除がそうだ。
 免除期間中に稼げるだけ稼ごう。
 そう思った商人たちがいま大挙して竜国にやって来ている。

 それだけではない。
 新たに店舗を開く場合、一定金額を保証なしで貸し付けることもやっている。
 よくそれだけのお金があるなと思えるほど大盤振る舞いだ。

 他にも、竜国民へなるための条件が緩くなったので、このチャンスにと思った商人も多いと聞いている。

 ただし、この優遇を受けるには、たったひとつのことを誓約しなければならない。
 竜国がつくる商人同盟に参加すること。

 この商人同盟だが、簡単に抜けたり入ったりできない。
 最低五年間は所属義務があるし、毎年の書類提出も義務付けられている。
 すぐに脱退する場合、相応のペナルティがあり、これ以降、竜国内で商売はしづらい。

「正直、他国の商人は究極の二択を迫られているわけよね」
「竜国か自国かってこと?」

「そう。今回のお触れは、竜国の利益のために動くならば、商売を後押ししますと事実上言っているのに等しいの。だけど、面従腹背めんじゅうふくはいの姿勢を見せたらたちまち潰されるでしょうね。さすがにそれは分かっていると思うけど。かといって、自国を裏切れないしと、板挟みみたい」

 商国や魔国の息がかかっている商人は加入できないだろう。
 自然に商売の中心から外されていく。
 なんとも分かりやすい政策だろうか。

「他国が抗議してくるんじゃないの? ちょっとやりすぎだよね」

「どうかしら。商国は似たようなものをやっているから抗議は無理よね。魔国はもともと竜国と仲が悪いから、言い出したところであまり影響はないんじゃないかしら」

「なるほど、そういう見方もできるわけか。というか、その辺のところも考えてのことかな」

「リンダのところは大丈夫なの? 新しい商人が大量に来るってことは、お客さんを取られることになるんじゃない?」

「それがね、同業者が思っていたより商国と繋がりがあることが分かったの。つまり今のところ、商売は順調……というか、かえって調子がいいくらいよ」

「そうなんだ」
「商国由来の商人は面白くないかもしれないわね。たぶん、ひと波乱あるわ。商人仲間はみんなそう言っている」

 このままでは済まないだろう。そう噂しあっているらしい。
 リンダも確信があるようだった。

「そういえば、アンさんと最近会えないんだけど」
「ああ、そうね。ちょっと面白いことになっているわよ」

 そう言ってリンダは人の悪い笑みを浮かべた。


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