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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 ――キィーン

 甲高い音が響いた。
 剣と剣がぶつかった。

 キン、キン、キンと立て続けに火花が散る。

 仕切り直しの模擬戦は、僕の奇襲からはじまった。
 一直線に突っ込み、小さな動作で斬りつけていく。

 ソウラン操者の守りは堅く、付け入る隙はない。
 だが、それは想定の範囲内。

「鋭い斬撃だね」
 受けに徹するソウラン操者からそんな言葉が出てきた。

「まだ余裕がありそうですね」
「ちょっとギリギリかな。剣筋が読めない上にこの暗さじゃね」

 僕の斬撃は、出処が読めないよう注意している。
 月明かりの下で見て動くのも限界がある。
 だからこそこれからの仕掛けが生きてくる。

「はぁ!」

 気合い一閃、正中線を狙った突きを放つ。
「なんの!」
 ソウラン操者は右に避けて躱す。

 咄嗟のときは、自分が一番得意な方法で対処する。
 ソウラン操者の場合は右だ。
 それが分かれば十分。

『主よ、もう少し真面目にやったらどうなのだ?』

 シャラザードの言葉は無視だ。
 僕はすでに何度かシャラザードの前で魔道を見せている。

 最近は月魔獣相手にも戦った。
 それを覚えているから、僕が手を抜いているように見えるのだろう。

 今日は魔道なしで戦う。
 だが、このままではソウラン操者の対応力を上回る攻撃は難しそうだ。

 すでに仕込みは済んでいる。そろそろ仕掛けることにしよう。
 父さんから教えてもらった対人戦法。どうしても敵と戦わねばならないときに使う必殺の技。

 攻撃のテンポを変える。

「うを!?」

 ソウラン操者がはじめて慌てた。
 目を白黒させているが、それでもなんとかついてくる。

 高級軍人の家系だと聞いたが、よほど幼少の頃から訓練を積んできたことが分かる。
 この対応力は、才能だけではないはずだ。

 というのも、僕はいま右と思わせて左に動き、左と思わせて右に動いている。
 フェイントではない。
 筋肉の動き、身体の傾斜、視線移動、どれも実際にそう思わせるように動いている。

 だがその動きに体重を乗せていない。
 右から攻撃するように見せかけ、体重は左に残している。

 ゆえに攻撃は左からくる。

 ソウラン操者が逃げようとした方向から斬撃が飛んでくることになる。
 ついでに数度に一度、フェイントを混ぜこみ、さらに実際に体重を乗せた攻撃も入れている。

 虚にあっては実。実のように見せかけて虚。

 どれが本命で、どれがフェイントか。
 右からくるのか左からくるのか、その判断がまったくできないようにした。

「これは厳しいね」
 もうなりふり構っていられないらしく、僕の小剣を払うと、ソウラン操者は大きく飛びのいた。

「残念」
 逃げられてしまった。

「その歳でそんな攻撃ができるなんて、末恐ろしいね。こりゃ槍を持ち出すべきだったな」
 息を吐き出して、ソウラン操者が苦笑いする。

「もう終わりにします?」
 一縷の望みをかけて聞いてみた。

「いや……先輩としてもう少しいいところを見せないとね。というわけで、今度はこっちからいかせてもらうよ」

 両手で剣を持ち直し、ソウラン操者歩いてくる。強者の歩みだ。

 間合いに入るな否や、正確無比な斬撃が襲いかかってきた。確実に急所を狙ってくる。
 そして一撃、一撃が重くて速い。

 体格の差もあるだろうが、一連の連続攻撃に絶対の自信を持っているのだ。
 だから想像以上に剣が重い。

「……くっ」

 今度は僕が防戦一方になってしまった。
 夜という環境で、なおかつ僕が知っている剣の型だから対応できている。
 ソウラン操者が馬鹿正直で助かった。

 各国の代表的な型は父さんからみっちりと教えこまれている。
 いわば、この程度の攻撃は『慣らされている』。

「これは本当にすごいな。ウチの隊のだと中位くらいの実力はあるかな」
 褒めてもらえるのは嬉しいが、こっちは結構ギリギリだ。

 斬撃を受け流しつつ考える。
 これからどう攻略すればいいか。
 さすがに暗器や指弾はマズイだろう。

『押されているぞ、主よ』
「うるさいな」

 シャラザードについ言い返してしまった。
 いまは集中しないと。

 ソウラン操者が笑った。
 シャラザードの言葉が聞こえないソウラン操者には、唸り声に言い返したように見えただろう。
 僕が余裕をなくしたと思ったかもしれない。

 実際、余裕がないのは本当だ。
 そして手詰まりも感じている。

「そろそろ決着を付けますよ」
「それは楽しみだ」

 あくまで余裕を崩さないソウラン操者。
 攻撃の手は緩めてくれない。

「だがそれがいい」

 攻めてきているならば、間合いは近い。
 攻撃を恐れず前に進む。

 ソウラン操者は下がり、一定の距離を保とうとするが、歩法は僕の方が上だ。
 徐々に間合いが詰まり、僕に最適の距離となる。

 ここで剣速をあげる。
 僕が決着を付けにきたと思っただろう。だが違う。

「うん?」
 もっと踏み込んだ。
 超近距離の間合いだ。僕ですら近すぎる。
 互いに触れ合えるこの距離。

「終わりです」
 足払い――避けられた。
 肘打ち――ガードされる。

 ここはもう格闘術の間合いだ。
 僕は剣の勝負と思わせて格闘を仕掛けた。

 まだまだ続ける。
 打ち、払い、連打、連打、連打。
 狙うは腹、胸、腕、顔、顔、顔。

 すでに小剣は手放している。
 一方ソウラン操者はまだ剣を握ったままだ。

 何度がクリーンヒットが出た。
 いい調子だ。
 上下に打ち分けて、小さくダメージを与えていく。

 ソウラン操者が本気で対処しようとガードのために身を寄せる。
 これを待っていた。
 格闘術はソウラン操者を守りに入らせるためのフェイント。

 一瞬のスキ。ここをもらう。
 僕は腕と腰を掴んで、投げた。

 そう、僕は投げ技を狙っていたのだ。今までのは全部フリ。
 背の低い僕が下から潜って投げたのだ。

 ソウラン操者の身体は空中に舞う。
「くっ!」
 身を捩ってくる。これも対応しおうとするか。
 だが、技のキレが勝ったようだ。

 ソウラン操者は一回転して大地に叩きつけられた。
 やった、勝った。

 そう思ったときには、ソウラン操者の剣が僕の首元に突きつけられていた。

 最後まで剣を手放さなかったソウラン操者は、地面に背中を打ち付けられても、僕の首を狩ることを諦めなかったのだ。

「……負けました」

 大地に寝かせた後ならばいくらでも料理する方法があるが、どうやら寝技の前に勝負がついてしまったらしい。僕の負けで。

「すごい執念だったね。紙一重だったよ」

 ソウラン操者が立ち上がった。
 背中が痛いらしく、顔をしかめている。

「最後まで剣を手放さないとは思いませんでした」
 格闘戦を仕掛けた時点で諦めると思っていたのだ。

「何か奥の手を隠し持っていると思ったからね。攻撃手段を失うわけにはいかないと思ったのさ。……いい勝負だった。これを機に僕も鍛え直すことにする」

 勝っても奢らない。イケメンなのに謙虚だ。

 ソウラン操者が手を出してきた。
 僕も手を差し出す。

 がっちりと固い握手。
 負けたけど、いい経験ができた。

「ありがとう」
「こちらこそありがとうございます」
「こんな頼もしい後輩ができて嬉しいよ」

 僕がそう言うと、ソウラン操者はイケメンスマイルを浮かべた。

 白い歯がキラリ……と思ったら、一個が欠けて……ゆっくりと地面に落下した。

「………………」
「………………」

 格闘戦をしたとき、何発か顔に僕の拳や掌底がヒットしていた。




 まさか、あれで……折れた?


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