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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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「自業自得よ」

「おまえ……なんていうことを」
 戻ってきたロザーナさんに、お父さんが困惑した声をあげた。

「だってそうでしょう。この町の現状を見ても自分たちで何もしようとせず、人任せですものね。お父様も、領民たちも」
 ロザーナさんの言葉に、父親は呻いた。

「だがな、資源もなく利便性も悪いこの町を繁栄させるのは並大抵のことではないのだぞ」

 陰月の路ひとつとっても、そこを行き来するだけで多大な労力、または犠牲が伴う。
 簡単にこの町を繁栄させられるならば、誰も苦労しない。そう言いたいようだ。

 ひとつの町で完結できない以上、どうしたって交易が必要になってくる。
 こちらから出す物がなく、外から購入するだけでは、町民はいつまで経っても豊かになれない。

「私も竜操者のパトロンになればうまくいく。それしか道がないと思ったわ。でもいまはそう思っていないの」

「何を言っているんだ。竜があれば地方議員にだってなれるのだぞ!」
「そうよ、ロザーナ。竜操者を抱えていれば、町の信頼度も上がるのよ。そうすれば商人だって一杯くるわ」

 領主などが竜操者のパトロンになっている場合、その町の領主は地方議会の一員として認められる。

 なにしろ、七大都市で毎月開催される『地方議会』に、馬車で出席するのは至難の業だ。
 片道数日の距離といえども、毎月往復していたら大変な労力となる。

 竜に乗れなければ、緊急招集にも対応できない。
 ゆえに竜国では、竜に乗って移動する手段のない人が議会員となるには、やたらと高いハードルをクリアする必要が出てくる。

 逆に、地方議会に出席できれば多くの利点がある。
 町が発展し易いし、商人の信用も高くなる。

 だれしも自分の町を愛している。
 議会員のいない町は会議でも話題にすら上らないと言われている。

 町を富ますのも廃らせるのも、地方議員のさじ加減ひとつで決まる。
 そこに食い込めない町は、いつまで経っても浮上できないのだ。

「竜国は繁栄しているけど、この町は停滞しているわ。ではどうすれば他の町のように華やかになるのか、私は勘違いしていたの」

「ロ、ロザーナ……」

「もう、お父様やお母様の言いなりになるつもりはないのよ。私は私の考えで領民のためになることをするつもり」

「そんな事を言っても、あなたに何ができるというの?」
「そうだ。私だっていろいろ考えた末に一番いいと思う方法をだな」
 両親が反論する。

 過疎の町ネミン。
 ここに来る途中、ロザーナさんがつぶやいた言葉を僕は思い出した。

 この周辺には、似たような小さな町がいくつかあるという。
 どこもみな竜紋限界から外れているために、竜操者の数が少ない。

 魔国との関係が不透明であることから、戦える竜操者は国の西側に集中しているのも大きい。
 どちらにしろ、この周辺は竜国から取り残された一帯なのだ。

「いま港にはお友だちが行っているの。陰月の路を越えて日用品を届けてもらうことになったわ」
「なんだって!?」

「領主様やお父様たちが必死に頭を絞って考えてできなかったことでも、簡単に成し遂げられる人がいるのよね。北嶺地帯から材木を運ぶ帰りに、日用品を運んでくれるみたいよ。手間はかかるし、ほとんど儲けのない商売だけど利もあるって」

 リンダ――この場合はヨシュアさんの船だが、それをどう出して、食糧や日用品がどのくらいの価格で届くのか、ロザーナさんは数字を交えて説明した。

 年間の運行回数を聞いて、両親の顔色が変わる。
 それはかつて船を持っていた水準まで日用品の価格を下げることができるからだ。

「どうして……?」
 心底不思議だったのだろう。
 王立学校で学んでいたはずのロザーナさんにそんなコネがあるのか。

 二年生のときにやらかしてしまったことで、周囲の信用は失ったはずじゃなかったのか。
 いろんな考えが頭の中を巡っているらしく、両親ともに、しばらく声が出なかった。

「どうしてってそれは……」
 ロザーナさんがチラッと僕の方を見る。
 何の合図だろう。

「それは……私が一番参っているとき、一番助けが必要な時に、声をかけてくれた人たちがいたからよ」

 僕が声をかけ……いやあれがかけられたのだと思うが、リンダがそれに乗った……というより突っかかっていった。
 後で聞けば、あの時期のロザーナさんは精神的にかなり追いつめられていたらしい。

「私たちはレオンくんを盛り立てていくことを誓ったの。運命共同体ね」
 僕らが話し合ったときに出た結論。

 アンさんとリンダとロザーナさんの三人は協力して僕をもり立てる。
 三人の得意分野は違うし、その関わり方も違う。

 それは僕以外にも当てはまる。
 四人のうち、誰かが困っていればフォローにまわれるのだ。

「これから先、私はこの仲間とともに歩んでいくわ。お父様たちには期待しない。それで、私が思う最善の方法で領民たちを手助けしていくの」

 それは両親との決別。
 一番辛いときに絶縁という追い打ちをかけてきた両親への宣言。

「だからもう私には関わらないで!」

 ロザーナさんと両親の間にできた溝は深い。
 その溝は、長い時間が解決するかもしれない。

 それでもいまは互いに離れておいた方がいい。そう考えての決別だった。

 ロザーナさんと両親は、ネミンの町の領民を通して繋がっている。
 いつか雪解けが来るのを信じて、僕はこの話を最後まで黙って聞いていた。



 ロザーナさんの私物をシャラザードのところまで運び、背に載せていると、リンダが戻ってきた。

「いやー、凄いことになっていたわよ。倉庫がスッカラカン」
 備蓄分を放出して価格の上昇を押さえていたらしいが、そのストックが尽きてしまい、倉庫は軒並み空いているという。

「契約はできたの?」
「もちろんよ。しっかりとした条件で結んでおいたわ。ただね」
「……ん?」

「商国商会の手が伸びていたわね。法外とは言えないんだけど、結構な高値で荷を卸す専属契約を結ぼうとしたみたい」

「専属契約か。こんな僻地だし、仕方がないんじゃないか?」
「どうかしら。寡占化できれば商人としては嬉しいでしょうけど、専属はリスクが高いし、あまり使わない手段よね」

 このような僻地の場合、すぐに撤退できるような契約になるのが普通だという。
 専属契約の場合、年単位もしくは複数年単位の契約になり、採算が合わなくなったり、商人側の事情が変わったとしても契約破棄できない。

 今回の場合は、多少値段を高く設定しても、今後を考えれば商会に不利に働く可能性があるのだという。

「じゃあ、どうしてそんな契約を持ちだしたんだろう」
「考えられるのは、この町に潜在的な魅力があったとか……他には選択肢を奪うってことかしら」

「選択肢を奪うってそれは専属契約だろ。そもそも選択肢なんかないんじゃないか?」

「ううん、そうじゃなくて、港に食糧を卸さなくちゃ干上がっちゃうでしょ。つまり専属契約をしていれば、町全体に言うことを聞かせるための人質にできるのよね」

「ああ、流通を止めるとかそういうやつか」
 商国が行う手段のひとつで、それをやられると国の経済が混乱するという。

「そう。それを町単位で行った場合、裏で牛耳れそうなのよね。……でも私がもう契約しちゃったから、専属契約の話はなくなったけどね」

 たしかに先に契約してしまえばもう、専属の契約は結ぶことができない。
 もう気にする必要はないだろう。

「……じゃ、帰りましょう」
 私物の積み込みも終わり、リンダも戻ってきたので、僕らはネミンの町をあとにした。

 目指すは王都。
 そこで僕は、やらなくてはならないもうひとつを片付けるのだ。

 ……シャラザードをぎゃふんと言わせることを。

 待っていろよ、シャラザード。絶対にぎゃふんと言わせてやる!



『何か良くないことを考えてないか? 主よ』

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