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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 その日の夜、ふと窓の外に気配を感じた。
 誰かいる。

「…………」
 室内から感覚を広げてみる。物音は聞こえないが、気配だけはずっとそこにある。

「みな寝静まっているな」
 二回生のふたりは、アークの話の途中から寝てしまっていた。
 寮に帰ってきたことで安心したのか、起きる気配はない。

 アークもまた、上級生に遠慮したのか話に満足したのか、これまたベッドで静かにしていた。
 いつの間にか、寝てしまったのだろう。
 規則正しい三人分の寝息が聞こえる。

「どう考えても、僕だよな」
 外の気配は動くことがない。待っているようだ。

 僕はもう一度、同室の三人の寝息を確認してから、そっと闇に潜った。



「はじめまして、『闇渡り』さん」
 寮の庭にいたのは、黒衣を身にまとった人物。声からすると中身は女性のようだ。

「どうも。なんて呼べばいいのかな」

「わたしのことは、『叢雲むらくも』と。女王陛下の〈右足〉として、王都周辺のつなぎ役を仰せつかっています」

「ふたつ名持ちですか」
「はい。過分な評価をいただきました」

 声からしてこの『叢雲』さん、若そうだ。
 義兄さんと同じか少し上、歳は二十代半ばといったところだろう。

「それで今日は? もしかして指令かな」
「もちろんです。と言っても、本来はソールの町で活動している〈右手〉さんには、仕事は回さないはずなんですけれども」

「まあそうでしょうね。王都は不慣れですよ」
「分かっています。ただ、できれば受けて欲しいと〈左手〉からの声もありました」

「なんで〈左手〉が?」
 女王陛下の周囲を守る〈左手〉が、何か関係しているのだろうか。
 このお姉さんが〈右足〉ならば、仕事を持ってきたのは〈左足〉だ。

「込み入った事情がありますので、そのへんは、指令の内容を聞いて判断してください」
「分かりました」

「では説明します。……魔国の間者が王都にいくつかの拠点を持っています」
「まあ、そういうのはあるでしょう。竜国だって、各国に人をやっているだろうし」

「そうですね。普段ならば、監視はしても介入することはないですが、今回困った事件がふたつ起きてしまいました。ひとつは単純に、漏れてはいけない情報が漏れてしまったことです」

「それって大事おおごとなんじゃ?」

「そうですね。城の月詠師つきよみしが狙われたので、城内に内通者がいるかもしれないと言われています」
「それ、僕に言っていいの?」

 月詠師はエイダノとカイダというふたつの月の軌道を読み、陰月いんげつみちに現れる月魔獣の予想などを主に行っている。

「問題ありません。いま内通者の洗い出しを行っている最中ですので。それに漏れてしまった情報はもう回収できません。ただ、その漏れ方が問題になりました」

「内通者がいるんじゃ……ああ、そうか。月詠師への接触ですね」

 月詠師はふだん王城の中から出てこない。なので接触できる者は限られている。
 王城の内部は、簡単に入り込めないのだ。

「侵入者にしてやられましたね。少なくとも、城の第一内郭(ないかく)まで侵入を許したことが確認されました。それには、〈左手〉もびっくりです」

「第一内郭って、どこ? 正門から入ったことがないから、分からないのだけど」
「………………」

 僕の質問に、〈右足〉の女性は頭を抱えたが、どうしてだ?

「城門の中で、重要施設がある部分と考えればよろしいでしょう。城門を進むと、その先に二重の堀がある外郭門に出ます。その先に内郭門ないかくもんがありますが、第一内郭は内郭の中でも奥にあたる部分になります」

「すると、かなり城の奥に入り込まれた感じですか?」
「そうとってもらって構いません。城の庭を警備する〈左手〉の失態ですね。何人かお役御免になるのではないでしょうか」
 お役御免って……馘首くびか。容赦ないな。

「それは分かったけど、もうひとつの困った事件というのは?」

「今回潜入した者の通り名が分かりました。『スルー』と言います」
透過スルー? 幽霊かなにか?」

「幽霊ではないと思いますよ。スルーは魔道使いの通り名です。それで、そのスルーが所属している集団が『グラススネイク』と言いまして、魔国の本部から増援がやってくることが分かりました」

 本部から増援か。でも、ずいぶんと情報が早いな。
 諜報員を総動員したかな。

「もしかして僕に『グラススネイク』の殲滅をさせたいんですか?」

「そこまでは求めていませんし、王都にあるのは、ただの出先機関です。殲滅してしまうと、今度は『グラススネイク』全体が地下に潜ってしまいます。こちらの情報さえ与えなければ、いくらでも活動してもらって構わないのです」

 いつでも把握しておきたいらしい。誤情報を流したりできるからかな。
 制御下に置いておけば、何かの役に立つと言いたいのだろう。

「そういうわけで、『闇渡り』さんには、『スルー』の排除をお願いしたいのです。探知結界をあざむく魔道持ちの可能性があります。王都の〈右手〉を派遣しましたが、ことごとく接触に失敗しております」

「王都の〈右手〉は優秀な者がなるのだと思っていたけど、違ったのかな」

「いえ、ちゃんと『悪食あくじき』と『首断くびたち』、それに『千本針せんぼんばり』という、優秀な者を当てたのですが、対象に接触すらできていません。これは、スルーが何らかの魔道で、こちらの追跡を察知できていると考えることができます」

「どんなに強い暗殺者でも、対象に接触できなければ、意味はないか。一人にふたつの魔道は使えないから、そのスルーの能力は……」

「人の接近を感知する、もしくは、それに類するものと予想されます」
「そこで、僕に話が回ってきたわけですか」

「はい。魔国からの増援が到着すると、王城内で活動される危険性があります。これを阻止する手段が今のところありません」

「と言っても、堂々と内郭まで忍び込めるのは、そのスルーだけ。僕にその排除をお願いしたい。そういうことだね」

「はい。イレギュラーな依頼ですけれども、引き受けてもらえますでしょうか」
 自分のテリトリーではない場所で依頼を引き受けるには、リスクが高すぎる。

「いいよ。引き受ける。そのスルーの暗殺、僕がやるよ」

 敵の正体は不明だし、正直慣れない王都での活動はリスクが高い。
 だけど僕は、そのスルーにちょっと興味があったので、指令を引き受けることにした。



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