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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 新学期を迎えるまでにやることが二つある。

 今日はロザーナさんを実家に連れていく日だ。
 ロザーナさんとリンダを乗せて、僕は出発した。

 ロザーナさんの目的は、両親と話し合ってけじめをつけることと、私物を持ち帰ること。

 実家と縁が切れることは、もう何とも思わないらしい。

「人はいつか親元を離れて独立するものよ」
 とさばさばしたものだ。

 ただし、ネミンの町の領民だけは気にしていた。
「港町なのに町所有の船が一隻もないと、物が入ってこないからつらいわよね」

 竜国の北部はただでさえ陰月の路があるため、日用品が高価なのだ。
 これ以上の負担増は避けたいのが本音だ。

「他の町はどうしているの?」
 リンダの疑問はもっともで、僕もそこが気になっていた。

「基本は自前の船を使っているわね。小さな町だと複数の町でひとつの船を持つ感じかしら」
 もちろん商人の船も入ってくるが、生活必需品は安定して供給したいため、領主が独自の船を持つのが当たり前になっているのだという。

「どこかの町に便乗するのは?」
「どこもギリギリね。町ひとつ分の余裕なんてないわ」

 やはり竜国の北方は大変だ。

 今回、ロザーナさんの帰郷にリンダが付いてくるのは商売のためだ。
 リンダのお父さん――ヨシュアさんは北嶺地帯に占有林を持っていて、そこから木を切り出しては船で運んでいる。

 行きに材木を積んで王都近くの港町で下ろす。
 帰りは空荷のままだったが、それならばと食糧などを運ぶことにしたのだ。

「手間は増えるから運行の回数が減るけど、メリットはあるもの」

 材木を下ろしたら船の掃除をし、食糧や日用品を積み込む。
 その後、北嶺地方に向かわずにネミンの町に立ち寄ってそれらを下ろす。

 三角貿易というらしい。

「さてそろそろかな」
 シャラザードに速度を抑えて飛んでもらったが、それでももうすぐ到着する。

「本当に速いわね。船と馬車で何日もかけて移動するのがバカみたいだわ」

 間近でシャラザードを見て絶句していたロザーナさんだが、持ち前の胆力で動揺を最小限に抑えた。
 飛行中も無駄口をたたく余裕があるのだから傑物である。

「どこに下りればいいかな」

「領主館の裏手が竜のために空けてあるわ。普段はまったく使わないのだけど」
「使ってない……? そこに降りていいの?」

「ええ……お願い」

 ネミンの町は山の中腹にあった。空から見ると坂道が多い。
 町の一部が海に面しており、こぢんまりとした港がふたつある。
 そして驚いたことに、平地はそこだけだった。

「道が狭いし、坂道ばかりだし、馬車だと大変そうだ」
「この辺り、どこへ行っても港を作れるような場所がなかったのよ」

「なるほど。周囲は崖ばかりか」
 砂浜どころか、海岸と呼べる場所が少ない。
 みな切り立った崖の終わりが海に接している感じだ。

「下りる場所は……あそこかな」
 山の中腹に見える大きな館。その裏手が空いている。
 わざわざ斜面を切り開いたのだろうか。

「シャラザード、あそこに下りてくれ」
『心得た!』

 館の上空を二度旋回し、シャラザードはネミンの町にゆっくりと舞い下りた。



 ネミンの町は、ロザーナさんの親戚が領主をしている。
 ロザーナさんの両親は、領主の分家筋らしい。

 僕ら三人はシャラザードから下りて伸びをする。
 ここまで休憩なしで飛んできた。さすがに疲れた。

「私はすぐにでも実家に顔を出したい……のだけど、できるかしら」
 頬に手を当て、ロザーナさんが困った顔をする。
 ノビをしている間に人が集まってきた。

「うーん、どうしよう、これ」
「どうしましょうね」

「……ちょっとふたりとも、何を現実逃避しているのかしら」
 リンダが腰に手を当てて僕を睨んでくる。
 いや、これ。僕のせいじゃないからね。

「でもね、リンダさん。ちょっとこれは私も予想外だったのよ」

 シャラザードの姿は、それはもう目立つ。巨体だ。

 見物人がやってきてもおかしくない……のだが。
 集まりすぎだよ、これ。

 どうしようか悩んでいる間に、千人くらい集まってしまった。
 町中に知れ渡ったかもしれない。

 そうするともっと増えるだろう。へたするとこの数倍。

「た、大変し、失礼致しました~」
 館から三人ほど駆け寄ってきた。服装からすると竜務員だろう。

「竜が来ることが珍しいから、ここに常駐していないのよね」
「ああ、なるほど。慌てて着替えたって感じだね」

 息を切らせてやってきた竜務員たちは土下座せんばかりに恐縮している。

「王都から来ましたレオンと言います。この子のお世話をお願いしていいでしょうか」
「も、もちろんでございます」

「それとここ……柵はないんですね」
 片側は崖に近い斜面になっているし、反対側は領主の館に接している。
 問題は左右だが、そこに見物人たちがひしめき合っている。そのうち崖から落ちるんじゃなかろうか。

 シャラザードが怖いのか、一定以上近寄ってくることはないが、坂の上まで黒山の人だかりができている。

「も、申し訳ございません」
 いや、責めているわけじゃないんだけど。

「他にも来たみたいよ」
 リンダが囁いた。

 今度は黒服を着た壮年の人が早足でやってきた。
「はじめまして、わたくし領主館で執事をしておりますキウルと申します」
「どうも、竜操者のレオンです」

「レオンさま、ようこそ我が町にお越しくださいました。この町は海と山に挟まれた町でございまして、飛竜以外来ることができません」

「そうですね」
 上から見ただけだが、町中は馬車がすれ違うのすら難しい細道が多いし、階段も多い。

「竜の巡回も山の麓まででして、この竜遊地りゅうゆうちを使用することすらあまりございませんでした。ご不便をおかけしましたことお詫び申します」

「いえ、大丈夫ですよ」
 そういえば、山の反対側に建物があった。あそこまでが竜の巡回路なんだろう。

「中型竜の飛竜すらここ五年は見たことがない状態でして、民たちのお見苦しい姿をお見せして申し訳ありません」

「ちょっと驚きましたが、気にしていませんので」
 見物人くらいなんともない。
 シャラザードに出会ったら、月魔獣の方に逃げろと言う人たちとくらべたら、可愛いものだ。

「それで、お恥ずかしい話ですが……このような素晴らしい竜でのご来訪……実は領主が気にされておりまして……」

 執事のキウルさん。ずいぶんと歯切れが悪い。
 この町はちょっと寄り道で来るような場所ではないし、かといって来訪にも心当たりがない。
 そんな感じか。

 だとすると、何か起こったのか気になったのだろう。
 任務で動いているならば、聞き出すのは御法度。
 知りたいけど、聞いて大丈夫か分からない。とりあえず執事を派遣してしまえって感じかな。

「この町へ来た目的ですか……そうですね」

 僕はロザーナさんを見た。
 こういうのは丸投げするに限る。

「久しぶりね、キウル」
 今まで背景のように存在感を消していたロザーナさんが一歩進み出た。

 キウルさんも相当焦っていたようで、三人いた中で僕しか見えてなかったのも大きい。
 ロザーナさんに気づいて目を大きく見開いた。
 いや、それだけじゃなく、両手を開いたオーバーアクション付きだ。

 この人、驚きすぎて心臓が止まるのではと心配になってくる。老齢だし。

「ロ、ロ……ロロロザーナさまっ!?」

 ちょっとロが多い。
 そしてキウルさんだが、絶句したまま固まっている。

 心臓が止まったかな?


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