挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

218/660

218

 まさか、同室の最後のひとりがあのときの不良神官だとは思わなかった。

「キミは、クリスくんと会ったことがあるのかい?」
 アークが聞いてきたので、先日町で会った経緯を話した。

「そうか。なるほどね。彼の名前はクリス・ファンダルダだ。紛れもなく竜紋を持ったおれたちの後輩さ」

 まさかあの喧嘩っ早い神官が学院の一回生だったとは驚きである。

 複雑な顔をする僕に、当のクリスは「ああん?」と威嚇してくる。
 うん、間違いなく同一人物だ。

「クリスくん。同室になる先輩に対して、もう少しまともな対応をしてくれるかな」
「オレはオレのやりたいようにやるぜ」

 歯をむき出して睨みつけるクリスに、アークは「やれやれ」と言うと、僕の肩を叩いて、下に行こうと誘った。

 寮の一階でロビーの椅子に腰掛けると、アークは先ほどのクリスの態度について、意外なことを言った。

「彼はあれが普通の状態なんだ。気を悪くしたと思うけど、許してやってほしい」
「意外だな。クリスのことをよく知っているような言い方だけど」

 アークとクリスに接点があるのだろうか。
 そんなことを思っていると、アークは窓の外を眺めて、「ここは平和だね」と言った。

「知っているかい。竜導教会の神官には、二種類の人たちがいる」
 アークお得意の「知っているかい」だ。

 一年間付き合ってきた僕には、アークが何をしたいのか把握できている。
 僕は素直に首を横に振った。

「竜導教会の教義に賛同して自ら教会に飛び込み、神官として活動する人たちがいる。キミの町にいる神官のほとんどがそうじゃないかな」

「そうだね。外から来る神官もいるけど、ほとんどは地元出身だったと思う」

「うん。実はそれ以外にもいてね、彼らは『月の遺児』とか『陰月遺孤いんげついこ』などと呼ばれている。聞いたことあるかい?」

 初耳だった。
 だけど、それが何を表しているのか、すぐに分かった。

「もしかして、月魔獣に両親を殺されてしまった?」
 アークは重々しく頷いた。

「月の遺児たちは、寄る親も親類もいない、本当の意味での身寄りの無い子どもたちなんだ。自立できないから教会が保護をする。将来は神官になるか、好きな職に着くこともできる。ただし、そのためにはいくつかの決まりがある。これまでかかった費用を返還するとかね」

「知らなかった。そういう制度があるだなんて」

「月魔獣の出現で子供だけ残して係累がみな死んでしまうなんてことは、よほど陰月の路に近い町じゃないかぎりおきないからね。キミの住んでいたソールの町ではひとりもいなかったと思うよ」

「それでクリスが月の遺児だというのは?」

「ポークニの町の出身だと言っていた。海のそばにある港町だ。浅黒く日焼けした肌に筋肉質の身体。彼は海の男たちに混じって働いていたんじゃないかな」

 教育すべき親もなく、竜国の中でも海岸沿いの町はガラが悪い町の出身。
 そういうのが重なってああいった性格になるんじゃないかとアークは言った。

 竜導教会で保護されていても、早いうちから外へ出ることを決めた月の遺児たちは、神官の勉強をせずに日雇いをして、お金を稼ぐ傾向があるのだという。

「子供の頃から海の男たちに混じって働いていたんだろうね。騙されたり、せっかく稼いだお金を路地裏で巻き上げられることもよくあったんじゃないかな。大人しくしていれば舐められる。かといって、口先だけだと笑われる。クリスがああいう性格になったのも、そんな環境が関係しているんだと思ったんだ」

 アークの出身地、ヒューラーの町にも月の遺児たちがいるらしく、手癖の悪い者、喧嘩っ早い者などがいるらしい。

 彼らは皆一様に、教会の外へ出ることを切望し、自分の身代しんだいを教会に納めるため、身を粉にして小さいうちから働くのだという。

「そうなんだ」
「というわけで、提案なんだけど、おれたちはひとりずつ後輩を決めるだろ?」

「僕がマーティ先輩と組んだようにだね」

「そう。これから一年間、彼らに竜のことを教えなければいけない。その役目があるよね。キミはレゴンと相性が良さそうだし、組んだらいい。おれはクリスと組むよ」

 なるほど、アークが僕を連れ出したのは、その話をすることだったのか。
「僕はそれで構わないよ。でもいいのかい?」

「月の遺児は小さい頃から見ているから、なんとなく分かるからね」

 おしゃべりなところがあるアークだが、その方がクリスに合っているかもしれない。
 僕と組んだ場合、力で上下関係を躾けてしまいそうだ。

「分かった。それでいこう」

「決まりだ。……で、ひとつ気になったのだけど。クリスはこんなことを言っていたんだ。王都で無茶苦茶腕のたつ奴がいた。まるで伝説の暗殺者のようだったと。それって、もしかして、キミのことかい?」

 クリスのいう伝説の暗殺者……それは女王陛下の〈影〉のことだろう。
 竜国の裏で暗躍する集団の名前を知らなくても、その存在は竜国民ならば、なんとなく感じている。

「たまたま運良くクリスの顎にいいのが入ってね。かろうじてだけど、それでだろうね」
「そうか。あまり喧嘩はよくないよ。とくに同室になったからには、ご法度だ」

「分かっている。突っかかってきても、なんとかいなせると思う」
「おれからもよく言っておくよ」
「頼む」

 こうして僕らの部屋に新たな一回生がやってきた。

 レゴンとクリス。
 性格はまったく違うふたりだが、できれば親交を深めてほしい。
 僕とアークのように。

 そう思わずにはいられなかった。


 そして新しい一年がもうすぐはじまる。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ