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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 神官の跳び蹴り。
 その威力からして、当たれば人など吹っ飛んでしまう。
 路地の隅に転がった男たちのように。

 だが、これには致命的な弱点がある。
「結構避けるのって、簡単なんだよね」

 大技は使いどころが難しい。
 身構えた相手には、虚を突く場合以外、当てられないとみていい。
 というわけで……大きく伸びきった神官の身体は、そのまま地面に落下した。

「ぐえっ!」

 背中と後頭部を強かに打ち付けたようだ。
 もんどり打っている。

「えっと、大丈夫?」

 五回も転がり、うつぶせになったまま、神官の身体は小刻みに震えている。
 相当痛かったのだろう。

「大丈夫だと!? テメエが避けたからじゃねえか!」
「そりゃ、当たったら痛いし」

「しかもわざわざ首を突っ込んできやがって」
「弱い者いじめをしているみたいだったしね。お節介かと思ったんだけど」

 僕は五人の悪漢を見た。
 みな一様に顔が青白い。

「てめえに何の関係があるんだ。大概にしろやっ!」

「関係は……うん。ないかな。しいて言えば、たまたま近くにいただけだね。だけどキミ、お金を脅し取っていたよね」

「違えよ。これは喜捨きしゃだ!」
 僕はずっこけた。

 竜導教会の運営は、信者からの寄付や民の喜捨によって成り立っている。
 贖罪のためにと言って、財産の一部を寄進する者もいるらしい。

 けど、あれは違う。
 進んで出すのと脅されて差し出すのは天と地ほどの差がある。

「ものは言い様だね。でも向こうで転がっているのは、きみがやったんじゃないかな?」
 男が三人、いまだ転がったままだ。

「だったら何だ?」
 神官は凄んでくる。

「暴力を振るった後でお金をせびるのはどうなの? さすがに言い訳できないよね」
「んだぁ? てめえも調伏ちょうぶくしてやろうかぁ?」

 調伏って……僕は月魔獣かなにかか?

 五人の悪漢たちは涙目になっているし、この神官は話が通じないし。

 そんなことを考えていると、目の前を拳が通り過ぎた。
 なかなか回復が早いな。

 拳を避けた直後に、唸りを上げた足が振りぬかれる。
 ケンカ慣れしている。

 両拳の連打がきた。
 僕はそのすべてを避けるが、神官の動きは速い。

 大振りを避けて確実に正中線を狙ってくる。学習したようだ。
 小さくダメージを与えるような動きだと、すべて避けるのに神経を使う。

「ちょこまかしやがって!」

 いい加減じれたのか、振りが大きくなってきた。
 こらえ性がないのかもしれない。

「……ここかな」
 神官が踏み出したところに手のひらで顎を打ちぬいた。

 神官の顎が跳ね上がり、後方にたたらを踏んでから膝をつく。
 前も思ったけど、やたらと頑丈だ。意識を飛ばせるかと思ったんだが。

「……くっそ!」

 膝に活を入れて、神官が立ち上がる。
 どうでもいいけど、これ本当に神官か? 攻撃的過ぎるんだけど。

 殴り合いに勝ち目がないと悟ったのか、服を掴みに来た。
 多芸だ。
 だけど、僕も父さんから散々返し方を習っている。

 胸ぐらを掴んだその手首を掴み、逆にひねり上げる。
 神官の重心が高くなったところで足払いをかけて体勢を崩すと、そのまま神官の後ろの回りこむ。

「うがぁあああああ」

 手首を決められたままだからか、神官が悲鳴をあげた。
 あっ、関節が折れるかも。
 どうしようか悩んだすえに、首筋に肘を落とした。

「ぐへっ」

 動かない。意識を失ったようだ。
「ふう……ようやくか」

 僕は神官を地面に横たえ、五人の悪漢たちに向き直った。

「……で、何がおきたのかな?」
 僕がやさしく問いかけたのに、五人はさらに涙ぐんでいた。


 聞いた話を総合する。
 単純な話で、僕の予想からほんの少しも外に出なかった。

「……で、カモだと思ったら、狂犬だったと」
「ハイ」

 カツアゲしようと思ったら、逆にされてしまったらしい。
 最後はポケットに入っている小銭まで差し出すよう要求されたとか。

「……まあいいや。きみたちは加害者だけど、実際には被害者みたいだし。行っていいよ」
 僕は悪漢たちにそう言った。
 警邏の人を呼ぶのは面倒だし。

 悪漢たちは気絶した三人の男を抱えて路地の奥に消えていった。
「……で、この神官はどうしようかな」

 竜導教会にでも持っていくか。

 僕は気絶した神官を背負って、教会を目指す。
 途中変な目で見られたが、話しかけられることはなかった。

 王都には竜導教会の建物が数多く存在している。
 それだけ信仰を集めているといえるが、一つ一つがそれほど大きなものでないからだろう。



「それではよろしくお願いします」
 一番近くにあった教会に神官を預け、僕は寮に戻った。

 翌日、パン屋でのアルバイトを終えて寮に戻ると、ずっと置きっぱなしだったかばんが開けられていた。

「あれ? どうしたの?」
「最後のひとりが来たのさ。ちょっと変わっているね、彼」

「ふうん」
 アークが苦笑いしている。

 四人部屋の最後の一人か。
 どんな人物だろうか。そんなことを思っていると、入寮時に支給される諸々のものを持って新入生が入ってきた。

「……ぁああああっ!」 
「ん?」

「て、てめえは、この前のっ!」
「あー、路地裏でカツアゲしていた人」

「カツアゲじゃねええ。喜捨だ!」
 そう言って神官は僕を睨みつけた。

 喜捨――まだそう言い張るのね。

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