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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 寮の部屋にいた一回生のレゴン。
 彼はとても礼儀正しい人物だった。

「レオン先輩の勇姿は、会場で見させていただきました」
 自己紹介が終わると、レゴンはそんなことを言った。

 レゴンは王都近くの町出身であるらしく、竜迎えの儀を見学していたのだという。

「自分の実家は宿屋でして、本来あの時期は忙しいのですが、どうしても先輩方の姿を見たくていてもたってもいられず」

「なるほど……興味あるよね」

 僕はそうでもなかったが、竜紋を得た同級生たちは学院に入る前に様々な情報収集をしていた。
 驚いたのは、竜操者の名前や出身地、活躍した内容などをみんなが知っていたことだ。

「……あれ? 荷物がもうひとつあるな。これは?」
 アークが気づいた。

 そういえば、セイン先輩とマーティ先輩が出て行った後はガランとしていたが、部屋の隅に鞄がひとつ置いてあった。

「私が来た時にはもう置いてありました。先輩方の荷物ではないのですか?」

「おれらじゃない。ということは新しく来た一回生のものかな」
「レゴンはいつ到着したの?」

「私は昨日の夕方到着しました。昨晩はだれも戻って来なかったですね」
「すると……最低でもまる一日いないのか」

 誰の荷物だろう。ここで考えても分からないのだが。
 だれかが部屋を間違って置いていってしまったのかもしれない。

 同室者でなければ、管理人に事情を話して渡せばいいだろう。
 鞄については、気にしないことにした。

「さて、今日はもう寝たいんだが、いいかな」
 アークが言うと、レゴンは頷いた。

 そういえば、シャラザードの雷玉のインパクトが大きすぎて忘れていたけど、演習が終わってクタクタなのだ。

 去年、二回生が戻って来たときよりもマシかもしれない。
 あのとき僕らが見た先輩たちは疲労困憊だった。

 アークのおしゃべりの途中で、両先輩たちは寝てしまったくらいだったし。

 僕らはベッドに入った。
 そういえば昨年の二回生は、この時期から演習で出ていることが多かったなと思い出しながら眠りに落ちた。

               ○

 翌朝、僕は早起きをしてパンの仕込みに出かけた。
 演習が終了したので、四月の授業開始までずっと休みだ。

 僕のアルバイト先『ふわふわブロワール』にお願いして、今日は午後まで手伝わせてもらうことになっている。

「いやー、リフレッシュできたな」

 思う存分パン作りができて、昨日までのストレスがどこかへいってしまった。
 さすが僕だ。便利にできている。


 いつもならば、授業に間に合わせるために急いで帰るのだが、そんな予定もない。
 久しぶりに町中を散策しながら、歩いて帰ることにした。

「おうおうおう、いい度胸じゃねーか。テメエちょっと飛んでみろよ」

 僕の耳が、ドスの聞いた声を拾った。路地裏からだ。
「モメごとかな」

 無視してあとで寝覚めの悪いことになっても困るので、様子をみにいった。
 すると、ひとりの神官が大勢に囲まれていた。

「あれ竜導神官だよな……まだ若いし、絡まれたのかな」

 いかにもガラの悪そうなのが五人いて、その真中に神官が立っている。

「オラァ、飛べって言ってんだよ」

 はっきりと分かる。かなり年季の入った脅しだ。
 人が多い王都は、裏に回ればああいうのが一定数いる。

 僕が一歩踏み出すと、ガラの悪そうな五人が一斉に飛んだ。


 ――ピョン、ピョン、ピョン


「…………ん?」
「てめえとてめえ……持ってんな。ポケットの中のモン出しな!」

「こ、これは今夜の飯代で……」
 頬に傷のある強面こわもてが泣きながらポケットを両手のひらで押さえている。

「出せねえってか? だったら代わりにそのリッパな奥歯でもいいんだぜ。ぁああっん?」
「ハ、ハイ……ど、どうぞ」

 神官がお金を脅し取っていた。

「なんだこれは……」
 みれば、路地の奥に三人ほど転がっている。
 ピクリとしていないところをみると、すでに伸されているのだろう。

 状況を整理しよう。
 ガラの悪そうな男たちは、そのまんま悪者だろう。
 神官をカモにしようとして返り討ちにあったのか?

 それだけでなく金を要求されているから、カモるつもりがカモられている感じか。
「どっちを助ければいいんだ、これ?」

 ちょっとよく分からない。

「それとてめえ、それ脱げ」
「えっ?」

「てめえらの汚え血で汚れちまったじゃねえか。これを着て帰れっていうのか? ああん?」

 うん、決まった。
 ゴロツキの方を助けよう。

 僕は神官の後ろから肩を叩いた。

 瞬間、神官の身体がフッとブレたかと思ったら拳が飛んできた。早業だ。
 咄嗟に避けて、つい掌底しょうていを脇腹に打ち込んでしまった。

 一瞬だったことと、あまりに速い動きだったので、反応してしまった。
 これは父さんとやっていた組手がいけないんだ。そういうことにしておこう。

「……て、てめえ、いつの間に?」

 脇腹を押さえてよろける神官の口から血が一筋流れ出た。
 口腔でも噛んだかな。

 というか、あれで気絶しないのか。鍛えているな。

「死にやがれ!」
 およそ神官らしくない言葉を吐きつつ襲いかかってきたので、それを全部避ける。

「このっ、ちょこまかと……」

 靴が地面の泥を蹴り上げてきた。堂に入った目つぶしだ。
 避けると何かが飛んできた。小銭だ。たったいまカツアゲしたやつだろう。

 使えるものは何でも使う姿勢は立派だ。
 だが僕には効果がない。さすがにそんな見え透いた手は食わない。

「止めだ!」
 神官が助走を付けて跳び蹴りを放ってきた。

 さてどうしようか。
 なんとなく嫌な予感がするのだけど。

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