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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 ギリギリまで身体を酷使した上で、二日間の野営生活。
 みんなよく耐えたと思う。

 三日目にしてようやく屋根のある場所で寝ることができる。
 宿泊施設万々歳だ。

 一回生全員の疲労がピークに達している。
 だが竜操者の義務として、竜の世話もしなければならない。

 死にそうなほど疲れて、まぶたがくっつきそうなほど重くなっていてもだ。
 みなうつらうつらしながら、竜にブラシをかけている。

「今日は僕が最初に見張りに立つよ」

 だれも何も言わなかった。というか、反応がない。
 早くベッドに入って横になりたいのだろう。

 野営と違って、宿泊施設では歩哨は二人出せばいい。
 いつもの半分だ。

 僕ともうひとり歩哨に立つのは、同級生のタンダ・スイットだ。
 彼と一緒に見張り台へ上った。

「眠いのか?」
「(コクリ)」

 今のは頷いたのか、フネを漕いだのか。
 頭が何度も揺れているから、睡魔と戦っている……いや、もう寝てしまったのか。

「やれやれだな」

 歩哨だというのに我慢できなかったようだ。それも仕方ない。
 日中は竜の背で四六時中胃を揺さぶられて三日目だ。

 上下運動の激しい竜の背中では、眠ることもできないだろう。
 寝たら落ちるだろうが。いや、手綱があればなんとかなるかな。

 宿泊施設に着いたとき、同級生たちは真っ青な顔をしていた。
 睡眠以外の時間を、ずっと竜の上で過ごしたのだ。
 最後は気力だけでもっていた者も多い。

 そんな中でタンダは歩哨を買ってでただけ、大したものだと思う。

「僕が見張ればいいか」

 物見台は宿泊施設の四隅に設置されている。

 僕らはそのうちのひとつにいるが、他の三つは現職の竜操者や、この宿泊施設を管理している人たちが担当している。

 よもや月魔獣の出現を見逃すことはない。

 じっと外を見張る退屈な数時間が過ぎた。
 そろそろ交代の時間かと思ったとき、視界の端で何かが動いた。

「ん? 暗くてよく分からないな」

 遠くの岩の向こうで、何かが動いた気がした。
 同級生のタンダはまだ寝ている。

「ちょっと確認だけしてくるか」
 僕はそっとその場を離れて、闇に溶けた。

 そのまま宿泊施設を抜けて暗闇を進む。
 先ほど動いたものを考えた。

 人影のようにも見えたし、馬車が通過したようにも見えた。
 暗かったし、岩の奥だったのでよく判別できなかった。

「そろそろだな……っと、月魔獣かよ!」

 四足型の月魔獣がゆっくりと岩場の間を縫うようにして歩いていた。
「んー、宿泊施設を狙っているのかな」

 どういうわけか、月魔獣は遠くからでも人の気配を察知してやってくる。

「一旦戻ってシャラザードに倒してもらうか」

 どうせシャラザードは退屈していたし、ストレスを解消させておこう。
 見つけたのは僕だけなので、新しい魔道を試してもいいのだが、ここは他の竜操者の目もある。

 シャラザードとふたりだけならば別だが、こんな目立つところで戦いたくない。
 僕はタンダの所まで戻った。

「おいっ! タンダ、起きろ!」
「……ん? どうした?」

「月魔獣が出た」
「えっ? つ、月魔獣が? 大変じゃないか!」

「面倒だし、シャラザードに任せようと思う。だから一応知らせておこうと思ってな」
「はっ? だって月魔獣だぞ? 月魔獣が出たのに……っておい!」

 シャラザードの唸り声が聞こえてきた。あいつも接近する月魔獣に気づいたようだ。

 いるのは分かっているんだから、行かせろってことらしい。
 せっかちなやつだ。

「シャラザード、来い!」
『了解した、主よ!』

 待ち構えていたのか、シャラザードはすぐに来た。
 空中で器用に静止できるのは、なんの技なのか。

 僕はシャラザードに飛び乗ると、月魔獣が出た辺りへ急行した。

「あれだ。頼むぞ」
『うむ』

 月魔獣が僕らに気づいて鎌首をもたげたときにはもう、シャラザードの爪が月魔獣の頭を粉砕していた。
 相変わらず容赦がない。様子を見るとかもない。

 シャラザードは月魔獣を見つけると、即叩き潰す。

「よし。他にいないかな?」
『いる。……と言っても、四体だけか」

「だけって……シャラザード、どこにいる?」
『すぐそこだ。我に掴まっていればよい』

 シャラザードは急上昇したかと思えば、すぐに地上へダイブする。
 それを繰り返すたびに月魔獣が斃れる。

 四往復してすべての月魔獣を破壊した。

「他にいるか?」
『見渡す限りでも、気配はないな』
「そうか。じゃ、帰ろう」

『うむ。たったこれだけか』
「そう言うなよ。ここは陰月の路からそれなりに離れているんだし」
『ならば、もっと近くにいればよいものを』

 シャラザードは無茶を言う。
 そうなったら、安心して寝ることができないじゃないか。

 僕らが宿泊施設に戻ると、中が慌ただしかった。

「どうしたんだ?」
『……さあな』

 竜舎のあたりが騒がしい。何かあったか?

 もとのスペースにシャラザードを降下させた。

「何があったんだ?」
 シャラザードから降り立ち、竜舎の前にいた同級生に尋ねた。

「何って、月魔獣が出たんだ。それでレオンがひとりで……って、あれ? レオン、どうしてここに? 月魔獣は?」

「そんなもの、倒して戻って来たよ。というか、こっちが聞きたいんだけど、なんでみんな起きているだ?」

「だから月魔獣が出たんだって」
「だから倒したって」
「えっ?」
「えっ?」

 僕らの会話をその場にいた同級生たちも聞いていた。
 同級生たちだけじゃない。現役の竜操者たちもいた。

「ちょっといいかな」
 引率の教官が僕を呼んでいる。

「なんですか?」
「月魔獣が出たと聞いたが」

 シャラザードと五体の月魔獣を倒したと告げたら、やはりみんな固まっていた。

 普通、どれだけ数がいるか分からない暗闇の中に一人で突っ込む竜操者はいないし、単独で月魔獣がを撃破できる中型竜だって、そんな無謀な戦い方はしないと言われてしまった。

 反論しようとして気がついた。
 そういえばシャラザードにのせられて、普段から危機感なく月魔獣狩りをしていたけど、本来複数の竜で当たらないと倒せないのが月魔獣だ。

 海辺の貝殻を拾いに行くような感覚で出かけるものではないらしい。



 翌朝、僕の証言通りの場所に月魔獣の死骸が五体あったと聞かされた。
 学院の演習で出かける場合、月晶石は学院のものになるので、僕は昨日の夜掘り出すことはしなかった。

 月晶石もしっかり残っていたという。

 事実が確認されて、もういちど引率者たちに囲まれた。
「ここ一ヶ月で軽く百体を越える月魔獣を倒しているし、危険だとは認識していませんでした」

 そう言ったらものすごく複雑な顔をされた。

「そういえば」
「なんだい?」
「この演習で種類別行動をしたじゃないですか」

「そうだね」
「あのとき、集合の時間まで暇だったんで、陰月の路に行って月魔獣を狩ってきていたんですけど、その時の月晶石っていつ提出すればいいですか?」
「………………」

 シャラザードの背に括りつけておいた袋から四十個ほどの月晶石を取り出したときの教官は、まるで複雑骨折したような顔をしていた。

 単独行動している時間がどれだけなのかを知っている教官たちは、「そんな状態で、何をどう言えばいいんだ?」とのちに同僚に語ったという。

 なんにせよ、この一件で、周囲との間に微妙な壁ができたような気がする。


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