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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 月が変わって、三月一日。

「さあ、合同演習に出発だ」
 指導教官の声が響く。

 僕らは宿泊付きの演習に出発した。
 目的地までは、陸と空に分かれて行軍となる。

 二回生が卒業し、寮を出て行った。
 そして僕ら一回生が演習に出ることで寮が空く。

 つまりこの間に寮内の大掃除を済ませてしまうのだ。
 数日がかりの大仕事だとか。

 そしてこの演習から帰ってきたら、僕らは二回生だ。
 というのも新入生の早い組は、その頃には入寮を終えている。

 入寮のため、各町へ馬車が赴く。
 僕の町にも迎えがきた。

 馬車の数には限りがあるので、入学までの一ヶ月間に、ひとつの馬車が王都と他の町を三往復くらいするらしい。
 最後の組は入学式の数日前に到着するのだとか。

「そういえば、アンネラはどうなったかな」
 月魔獣を狩りに行ったときに偶然出会った少女、アンネラ・ディーバ。

 シャラザードが見つけた竜紋持ち。
 あれから二度ほど様子を見に行ったが、詰め込み学習と体力づくりに音を上げていた。

 実際、僕は体力面での準備は必要なかったが、本来は何ヶ月もかけてじっくりと体力を付ける課題が与えられている。

 いざ学院に入学して、走ったことありません、重い物を持ったことありませんでは話にならない。

『退屈だな』
 行軍中だというのに、シャラザードが飽きはじめた。
 早すぎだろ!

「今日は勝手できないからな」
『なぜこんなノロノロと進まねばならんのだ』
 地上の地竜に合わせて飛んでいるので、かなり遅い。
 シャラザードからしたら、十分の一くらいだろうか。ノロノロしていると思うのは分かる。

「これは団体行動の練習だ。我慢しろ」

 そう。今日は編隊行動を長時間できるかどうか、隊列を崩さすに移動できるかの訓練だ。
 そのため、竜操者の体力が続く限り、ほぼ一日中移動する。

『ならば我が先頭にたって……』

「勝手すると、僕がシャラザードを抑えられないことになって、月魔獣狩りに行けなくなるよ」
『……グッ!』

 いま僕らが自由に行動できるのは、僕がシャラザードを完全に制御下においているからである。
 そう思われている。

 これで僕の意思とは関係なくシャラザードが勝手してしまえば、みなと同じ地味な訓練からやり直せねばならない。

「反復訓練を延々とやりたいのなら、勝手してもいいけど」
『……が、我慢してやろう』

 最初に言い聞かせておいたので、シャラザードは自重してくれている。

 といっても、ただ速度を合わせて移動するだけなので、僕も退屈している。
 最前列は小型竜の地竜で占められているので、速度がまったくと言っていいほど出ていない。

 馬に比べたら、よっぽど速いのだけど。

 シャラザードからしたら、我慢できない速度を通り越して、寝ているのかと訝しむほどだろう。

『そしてなぜ我が一番後ろなのだ?』

「見れば分かるだろ? 一番足の遅いのに合わせているんだから、シャラザードが最後尾になるのは決まっているじゃないか」

『ぐぬぬぬ……』

 相当ストレスが溜まっているようだ。
 発散させたいが、集団行動中に勝手なことはできない。

 というか、そういうことをさせない訓練なのだから、列を離れたら確実に叱られる。

 僕には単調とも思える時間、シャラザードにとっては我慢の時間が過ぎていった。
 日が暮れてしばらく経ち、夜の帳がおりた頃になって、ようやくその日の行軍は終了を迎えた。

 シャラザードならば、月魔獣を狩って往復している時間だ。

「各自、荷物を下ろせ」

 竜の背に括りつけてあった荷物を下ろす。
 今日は野営である。
 初日からみな疲労困憊だったりする。

「せめてもの救いは月魔獣が出ない場所ということか」
『詰まらんな』

 シャラザードには悪いけど、陰月の路から外れた場所なのがありがたい。
 今日は朝から夜中まで竜の背に乗っていたのだ。

 野営の準備の途中で寝こけている一回生もいるほどだ。
「最初からずいぶん厳しい洗礼だな」

 竜を得てから一ヶ月以上が経過した。
 浮かれた気分も落ち着き、そろそろ先のことを考え始めた矢先だ。
 竜操者としての現実を知るには、このくらい厳しい方がいいのだろう。

「四人、見張りを出せ」
 教官の指示が飛ぶ。みな、嫌そうな顔だ。

「僕がやるよ」
 みな早く寝たいだろうと思って僕が立候補したが、満場一致で却下された。
 なぜ?

 いわく、僕が歩哨に立つと、月魔獣が襲ってきそうだとか。
 そんなはずがないじゃないか。たしかに毎回月魔獣が襲ってきたけど。

 抗議も聞き入れられず、僕以外の四人が歩哨に立った。

 ちなみに女性は今回ひとりも選ばれていない。すぐに死にそうな顔をした人ばかりだったので、さすがに遠慮するよう周囲が伝えた。

 何事もなく夜が明けて、出発となった。
 今日は竜の種類別に編隊行動をするらしい。

 飛竜、走竜、地竜の三つに分かれて、別々のルートをたどり、都度合流するというもの。
 訓練としては単純だが、決められた時間内に、決められた場所へ赴かねばならず、訓練の難易度は高い。

「……で、僕らは別行動ね」

 中型竜と属性竜であるシャラザードは編隊から離れてバラバラになる。
 つまり、個人で判断し、集合時間と集合場所を目指さねばならない。

「まあ僕らの場合、単独行動が主だし、そういう訓練が必要だよね」

 単独で月魔獣を狩る中型竜以上の場合、ひとりの時でも決められた場所に集まれる能力が求められるらしい。

『よし、月魔獣を狩りにいくか』
「次の集合地点はここから近いからいいけど、時間に間に合わなくなったら単独行動できなくなるよ」

『我が月魔獣を狩るのに時間をかけるわけがなかろう。さあ行くぞ!』

 大口を叩くことだけのことはあった。
 シャラザードは、次の集合までに十体を越える月魔獣を狩ってしまった。

「監視の目がないと思ったらこれだ」

 夜までに三回の別行動があったが、シャラザードはどんなにたくさんの月魔獣を狩っても、集合場所に遅れることはなかった。

 なかなか優秀なやつである。
 というか、遅れたらそれを理由にぎゃふんと言わせようと思ったので、アテが外れてしまった。

 そして今日も野営である。テントを張るのは二回目となる。

 翌日はそれほど移動せずにフォーメーションの訓練となる。
 今日は野営をしないで、ようやく宿泊施設に泊まれるのだ。

 この演習は三泊四日なので、あと一泊したら次の日は帰ることができる。
 最後の夜は、一回生たちの気も緩むというものだ。

 運命の夜がもうすぐ始まる。


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