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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 王都に戻って、数日が過ぎた。
 あいかわらず学院の生活は慌ただしい。

 僕はシャラザードに乗って訓練の時間を増やした。
 他の竜が怯えるかもしれないとの理由で、僕は同級生たちと一緒には訓練できない。

 中型竜を得た同級生はマンツーマンで教官から指導を受けている。
 それでも同じフィールドにいられるだけマシではなかろうか。

『主よ、どうしたのだ?』
「ほとんど同級生と交流する時間がないと思ってね」

 僕だけ別の場所で訓練だ。
 いまは王都から離れた森の上空。
 中型の飛竜を持つ教官から急制動の指導を受けている。

「じゃ、シャラザード。ここから森の木に触れる直前まで急降下して水平飛行。しばらく行ったら上昇して旋回だ」
『心得た!』

 地面に対してやると、失敗した場合衝撃がすごいので、木の先端を大地に見立てて訓練する。

『うむ、完璧だ』
 シャラザードが自賛したが、それもそのはず。教官からオーケーのサインが出ている。

「これでもみんなと同じ場所で訓練できないんだけどね」
 寮の食堂などで共通の話題で盛り上がっている同級生を見ると、たまに寂しくなる。

『どうしてなのだ?』
「おまえが他の竜を制御するからな」

 訓練所で小型竜がウロチョロすると一喝してどかすし、編隊行動すれば他を従えさせる。
 あげくに自分の身体の世話・・までさせるので、教官たちが近づけさせないのだ。

 まあいい。僕の計画は順調に進んでいる。
 もうすぐシャラザードをぎゃふんと言わせられるだろうから。
 そうしたら少しは大人しくなるだろう……たぶん。


「しかし、困ったな」
 僕の指導をしてくれているジョラン操者が悩んでいる。
 というか、ここへ来て、困ったことがおきてしまった。

 今年25歳になるジョラン・オイヌールという竜操者は、飛竜の中型竜を駆るのだが、僕のシャラザードの方が倍は速く飛ぶ。

 しかもいろいろ確かめたところ、高度もシャラザードの方が断然高く飛ぶことが分かった。

 雲の上まで出て、そこから上昇しようとすると、ジョラン操者の竜は息が乱れ、ある一定以上より上には行けなかった。

『久々だな』
 上機嫌のシャラザードはそれを軽く凌駕する。

 つまりジョラン操者では、シャラザードの限界行動が掴めないのだ。
 本来、最高速度や移動距離、限界高度などを僕が理解する必要がある。

 その限界を調べるとき、もちろん危険がある。
 最初は他の竜操者がついていることが必要だが、ジョラン操者では追いつけないのだ。

「どうしたらいいですか?」
「きみ自身が確かめるしかないかな。私にはどうすることもできないな」

 この限界行動を調べるのは、本来もっと先で構わない。
 だが、すでに何度も月魔獣を狩りに出かけている僕の場合、できるだけ早いうちに知っておいた方がいいらしい。

「僕自身で確かめるんですか」

「私の竜じゃ付き合えないからね。過去の例でいうと、限界行動を知らずに急加速して振り落とされた竜操者や、急旋回で失神した竜操者がいるんだ。竜操者が望めば、竜はできるだけ要望を叶えようとする。そのため、乗っている竜操者が危険に陥ることがあるからね。どこまでが安全で、どこまでが危険なのか身体で覚えてもらいたいのだが……」

 その限界をはかる時は危険が伴うが、どの竜も付き合えないのならば、仕方がないと言われてしまった。
 身も蓋もないが、そう言われてしまえばしょうがない。

 まさか、自分の竜の限界行動を知ることができないとは。

               ○

 そんなマンツーマンの訓練を消化しているうちに二回生が卒業した。
 僕ら一回生は卒業式に参加しない。

 そんな暇があれば竜に乗っていろとばかりに、訓練が入っている。
 ただし、式が終わったあとのパーティは参加可能だ。

 卒業パーティは、学院生による教職員たちへの謝恩会も兼ねているようで、それなりに盛大なものとなっていた。

 パーティの会場はなんと王城である。
 その庭園の一角で行われ、費用はすべて国持ち。
 参加者は学院生全員とパトロンに決まった人たち、そして教職員などである。

 僕とアークは小遣いを出し合って、セイン先輩、マーティ先輩に贈り物をした。
 訓練の合間に買いに出かけたのだ。

 これから軍に入るセインさんには吊り下げできるコンパクトケース。
 無骨なデザインで飾りもないが、質朴しつぼくさがセインさんに合っていると、ふたりで決めた。

 マーティさんにはこれから商人の世界でがんばってほしいと、小さな鏡を選んだ。
 竜に乗ると、とかく髪型が乱れるのである。

「ありがとう、大事にするよ」
 ふたりともそう言って、もらってくれた。

 一年間僕らを鍛えてくれた両先輩は明日からいない。
 それを思うと寂しい気持ちになるが、すぐに下級生が入ってくる。

 今度は僕らが先輩となり、これから入学してくる、若き竜操者のたまごたちを導いていかなければならない。

 卒業式の翌朝、セインさんは軍属になるため寮を出て行った。
 またその次の日、マーティさんも荷物をまとめて寮を去った。

「じゃあね。明日からがんばってね」
 最後にマーティさんはそう言った。



 同室の両先輩方が去ってしまい、部屋が広く感じられる。
 荷物がなくなると、こうも寂しくなるのかと感慨深く思えてしまう。

「明日は王立学校の卒業式か」
 アークに言われて気がついた。

 パトロンの問題もあり、先のパーティの件もあって、王立学校の卒業式は、竜の学院の後にやる。

「知り合いが卒業するんで、夕方から僕は出るからね」
「許可は?」
「もう取ってある」

「そうか。なら、最後の別れかな。湿っぽくならずに楽しんでくるといい」
「そうだね」

 アークの言うとおり、明日はロザーナさんを笑って見送ってあげよう。

 ロザーナさんの卒業を祝うのは、僕とリンダとアンさんだ。
 レストランで広めの個室を予約してある。



「「「ご卒業おめでとうございます、ロザーナさん」」」
 待ち構えていたところにロザーナさんはやってきた。

「ありがとう、レオンくん、リンダさん、アンネロッタさま。こうして無事卒業できて嬉しいわ」
 本来ならば、結婚して商国に行っていたかもしれないのだ。

「これはささやかですけど」
 僕は大きな花束をロザーナさんに渡した。

「私はこれを」
 リンダは木工細工の宝石箱を渡す。
 職人に作らせたらしい。

「わたくしはこちらを」
 アンさんはブローチを手渡す。
 同じようなものをいまアンさんが付けているので、おそろいだろうか。

「みなさん……ありがとうございます」
 はやくも涙ぐんでいる。

 思い出話をして泣かそうとしていたリンダは「ちぃ」とか言っている。悪人か、おまえは。

 ロザーナさんの卒業式に、実家から両親はこなかったという。
 ほぼ勘当状態だったので仕方ないらしいが、王都に住む遠縁の人が代理で出席したらしい。
 それって、結構ひどい扱いじゃなかろうか。

「せいせいしたわ」
 簡単に話し合って、完全に実家とは縁を切ったらしい。

 ロザーナさんが一番参っていた時期にツラく当たったのだから、ロザーナさんもいい印象は持っていないらしい。

「領民のことは気になるけど、そこはリンダさんとうまくやっていくつもり。私は研究を通して、竜国全体のために尽くそうと思うの」

 かなりの天才らしいので、後世に名前が残るような研究者になるんじゃなかろうか。

「そういえば、ロザーナさんはどうして古代語の研究に興味を持ったんですか?」
 疑問だった。普通に生活していれば、一生縁のない学問なのだ。

「そうね。いい機会だから話してみようかしら。あれは私がまだ小さかった頃なんだけど」


 ロザーナさんはそう言って語りはじめた。

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