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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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「竜国がいまより貧しかった時代、月魔獣との戦いの他に魔国と戦争してた時期があったんだ……」
 アークが当時を思い出すかのように語った。

「それって、いつ頃の話?」
「もう何百年も前だね」
 アークは生まれていなかった。紛らわしい目をしないでほしい。

「戦争は金がかかる。竜国の軍事費は膨大な額になって、国庫は破綻寸前。贅沢三昧していた王宮もさすがにヤバイと感じたんだね。竜操者の徴用を始めたんだ」

 なんでも、昔はいまより竜や竜操者の管理がいい加減だったらしく、竜の学院も存在しなかったらしい。
 竜操者も軍属になるのは半々といったところで、かなり野放しだったという。

「徴用って……もしかして、すべての竜操者を軍人にしたのか?」
「そう。蛮勇を振るったわけだ」

「竜操者は竜に選ばれただけのただの人間だよ。心優しい、虫も殺せないような少女だっているだろうに……」

「反発は当然おきた。当時だと、村や町全体で竜操者を保護していたケースも結構あってね。使い方としては、便利なメッセンジャーだね」
 竜は馬の何倍も速くて、疲れ知らずだ。そういう使い方は、たしかに理にかなっている。

 戦場に出さず、平和的な使い方を好む竜操者もいただろう。

「それで無理やり徴用された竜操者は、どうなったんだ?」

「逃げた……そりゃもう、当然だよね。訓練を受けてないのに、人と人との戦争に駆り出そうっていうんだ。ただ竜が力を持っているだけで、さあ殺し合いに行って来いは酷な命令だと思う」

「僕も同意見だ。はっきり言って、そんな命令を出す人物にお目にかかりたいくらいだよ」

「それだけ竜国は追いつめられていたわけさ。国庫はカラ、兵は足りない。魔国との戦争を継続するのに金も人もないんじゃ、負けるしかない。おお、ちょうどいいところに戦力が眠っているじゃないか。これを使わない手はない。そう思ったんだろうね」

 戦場に投入されるはずだった竜操者たちの多くが逃げたらしい。
 それを追うのは同じ竜操者しかいない。

 だが、前線から竜操者を離せば、たちまちのうちに攻めこまれてしまう。
 今はまだ踏ん張っているが、均衡が崩れれば一気になだれ込まれてしまう。

「その危機は乗り切ったんだろ?」
 竜国は存在し、僕らがここにいるのだから。

「そうだね。だけどそれは、暗黒時代の始まりに過ぎなかったのさ。そう始まりに……

 アークは意味深につぶやく。くどいようだが、その当時アークは生まれていない。

 徴用から逃げた竜操者たちは技国や呪国に向かった。
 戦争当事国の魔国に向かった者たちもいたという。この時、商国はまだうまれていない。

 ここで竜操者の保有バランスが大きく崩れることになる。

 戦場に出るのを嫌がっていた竜操者たちが逃げ出しただけなので、竜国の戦力が減ることはなかったし、他国の戦力が上がるわけでもなかった。

 だが、竜と竜操者が他国に渡った影響は、予想以上に大きかった。

 伝達や輸送の速度が大幅に上がり、さらに竜の生態が他国に知られることになる。
 限界の移動距離や、食糧をどれだけ必要とするのかなど、竜国が秘匿していた情報が明らかにされてしまった。

 戦局は徐々に魔国が有利な方向へと傾いていく。
 このままでは、軍民が一致団結して事にあたるしかない。

 竜国民全員が兵士となって戦おう。
 そんな話まで出ていたという。

「その当時を嘆く詩がいくつも残っているからね。相当厳しい時代だったんだと思う。……で、国民皆兵士の発布がなされようとしたその直前、竜国王宮内でクーデターがおきたんだ」


「クーデター?」
 初耳だぞ。なんだそれは。

「当時、いち将軍でしかなかったベルズン・ルクストラが王を殺害。政権を奪取した」
「……ルクストラってまさか」

「いまの王家だ。一応建国王の血は引いていると思うけど、王族の傍系にも引っ掛からないただの将軍という話だ。戦はめっぽう上手かったらしいけどね。王位簒奪も戦のひとつか」

 僕は女王陛下の顔を思い浮かべた。
 あの人の祖先が王位を簒奪? そんな歴史があったなんて。

「まあ、当時はそういう政権交代も珍しくなかったと思うよ。それで、ベルズン王は急速に国を立て直した。月魔獣と魔国との戦争で内需はガタガタ、食糧は底をつきかけて、あと半年も戦争を続ければ餓死者も出ると言われていたときにだね」

「じゃあ、そのベルズンという王が魔国との戦争を勝利に導いた?」

「いや、魔国もそれどころじゃない状態になっていたんだ。竜国と同じく月魔獣と戦争で国はボロボロ。でも竜国と違うところがひとつだけ存在していた。陰月いんげつみちは、当時魔国の南側を通っていて、竜国は国の中央付近を横断していたんだ。魔国より竜国の被害が大きいのは自明の理だろ?」

「そうか、大転移前か」
 今と違って、陰月の路がもっと南にあったらしい。

「本来ならば、どんなに国を立て直そうとも、先に瓦解するのは竜国だった。だが、天蓋てんがい山脈に暮らす少数民族、通称『きりの民』が反乱を起こしたんだ。驚いたのは魔国。まさか、子飼いの少数民族が反旗を翻すとは思わなかっただろうね」

「その『霧の民』というのは?」
「魔道使いになる薬ってあるだろ? あれを採取するのが『霧の民』だ。いまは魔国と同化してしまったので、民族としては残っていないけど」

「なるほど……その反乱で魔国は慌てたんだよね。もしかして停戦?」

「そうなるね。月魔獣の脅威がある状態で二面作戦は不可能だ。運良く竜国も王様が変わったし、ここらで手打ちにしようとなった。そして両国の思惑が一致して停戦協定が結ばれたんだけど、その時魔国はひとつの条件を竜国に突きつけた」

「条件? 何を要求したの?」

「竜操者の独立性さ。自国に逃げてきた竜操者が可哀想だ。彼ら彼女らにもちゃんと意志があるのだから、認めてあげないのはおかしい。強制的に軍属させず、意思を尊重すべしとね」

「そんなことがあったんだ。……あれ? そうすると魔国は竜操者のために停戦条件を出したってこと?」

「いや、そうじゃない。あくまで自国の利益のためさ。そのダシに魔国へ逃げてきた竜操者を引き合いに出しただけで、実際には竜操者がみな軍属になると、怖くてしょうがないからね」

「なるほど。そういうことか」

 考えれば、当たり前の話だ。自国に竜操者が逃げてきたからこそ分かることもある。
 あれがすべて軍に所属すれば、首都すら容易に落とされる。

「それが竜操者の暗黒時代というわけか」

「その戦いで人生を狂わされた竜操者は数知れない。他国へ亡命し、竜国に残してきた家族を想って涙した竜操者、慣れない軍属に強制的に加入させられ、初戦で散っていった竜操者もいるらしい。あの時代、ほとんどの竜操者たちが人生を狂わされたんだ。それが竜操者の暗黒時代その一ってわけさ」

「……その一?」
「ああ、今の制度になるにはもう一回、暗黒時代を経験しなければならなかったんだ」

「まさか」
「そのまさかだよ。竜の学院、パトロン……なにもないところからこんな制度が生まれると思うかい?」

「いや……やけに竜操者のことを考えてくれる制度だとは思ったけど」

「機会があればそのうち話してあげるよ。第二の暗黒時代のことを。数多の竜操者の屍によって何が築き上げられたのかを」

 そう言ってアークはウインクした。
 気がついた時には夜も遅い時間になっていた。

 セイン先輩とマーティ先輩はすでに寝息をたてていた。
 どうりで静かだと思った。というか、アークしゃべりすぎ。


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