挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

209/656

209

 朝焼いたパンを店に並べると、すぐに売れてしまう。
 朝の忙しい時間帯などは、ゆっくりと朝食の準備をしている家は少ない。

 パッと買いに来て、すぐに帰るお客さんが多い。

 今から僕が作るのは、売り切れになったパンを補充する分と、作るのに時間がかかるため、後回しにした分だ。

 朝のピークを過ぎてから夕方まで、ゆるゆるとお客さんがやってくる。
 その流れを見ながら仕込みを調整するのだが、窯から二回目のパンを出し終えたときに、姉がフラフラしながらやってきた。

「あなた……あの子、あの子」
 姉がうわ言のようにつぶやく。

 あの子って……一緒に洗い物をしていたのはアンさんだったと思ったが、喧嘩でもしたのだろうか?

「どうしたの? アンさんとなにかあった?」

「あっ、あなたねえ!」
 姉さんがすごい勢いで僕の肩を掴んで揺すった。

「ちょ、姉さん、なに? どうしたの?」

「あの子……技国のラゴス家の子じゃないの! 本家筋だって聞いたわよ。どういうこと!?」
 あっ、そう言えば話してなかったかも。

「えっと、なりゆき?」
「なりゆきで氏族長の直系が嫁にこないわよっ!!」

 姉さんが取り乱した。
 意味的には、アンさんは他国の王族と同じだからな。驚くのも分かる。

「一応身分を隠して遊学していたからね。最初は僕も知らなかったんだ」
「だからって、ウチはパン屋なのよ? これ、本国の民に知られたら、焼き討ちされるんじゃないかしら?」

「それはないと思うけど」
 ないといいなぁ、焼き討ち。

 聞くところによると、姉さんはアンさんの出自が気になったらしい。
 リンダについてはよく知っている。

 アンさんはどこぞの商人か、領主に連なる家の出だと思い、出身を尋ねたようだ。

「兎の氏族です」
「ああ、あのラゴス家ね……え? えええっ!?」

 最初の挨拶で、アンさんは本名を名乗っている。
 その時は気づかなかったらしい。

 アンさんから兎の氏族だと聞いてから気がついたのだから、間が抜けている。
 驚いて確認をとったら、氏族長は自分の祖父だという。
 次期氏族長はアンさんの父親。

 そこまで聞いて、姉さんはパニックをおこしたそうな。
 ありえないことだが、僕がフラッと入った食堂で、料理をだしてくれたのがサーラーヌ王女だったらやっぱり驚くと思う。

「ど、どういうことなの?」
「氏族は認めてくれたらしいよ。僕がシャラザードを得たから、それで竜国との絆を深める意味もあって、嫁に出すことにしたんだって」

「へ、へえー。あなた実は重要人物?」
「そうなるのかな?」

「窯の中に頭を突っ込んで、髪の毛をチリチリにしたあなたが」
「それはいいから!」

 黒歴史を合間合間に差し挟むのは止めて欲しい。

「これからは私もレオン様と呼ばなくちゃいけないのかしら」
「それは止めて!」

「……冗談よ。でも、気をつけなさいよ。夫婦喧嘩したら国際問題になるから」
「そんな大げさな」

「泣いて実家に帰ってごらんなさい。戦争が始まるかもよ」
「大げさな……って本当に!?」

「冗談よ。でも、両国の関係が悪化するかもしれないから、気をつけなさいね」
「分かった。急にアンさんが偉く見えてきたよ」

「正真正銘、偉い人よ。本来、外交儀礼を尽くして迎えなきゃいけないのに……」
 姉さんは息を吐いて行ってしまった。

 普段からアンさんと接しているけど、そういう威圧的なオーラはだしていないので、あまりピンとこない。
 お兄さんの結婚式のときはさすが氏族と思われる気品に満ちていたし、周囲からもそのように扱われていた。

 あの時は逆にアンさんらしくないと思ったりもした。

 午後からは姉さんも連れて、四人で買い物に出かけた。
 技国に戻ればなんでもあるアンさんや、王都で暮らしていたリンダにとって、珍しいものはないだろう。

 そう思ったが、姉さんに連れられていくつかの店に行き、ワーワー、キャーキャー言いながら楽しんでいた。
 ふとした拍子に僕への黒歴史を披露する姉に疲労させられつつも、楽しい外出だった。

「楽しかったわ。ねえ、いまから帰るのでしょ?」
「そうだよ。父さんがおみやげ用にいっぱいパンも持たせてくれたし」

「だったら私も乗せていってね」
「いいけど、やけに長居すると思ったら、それが目当てだったのか」

「まあね。一度くらいは乗っておかないとね。……でもこれから王都に戻るんでしょ? もう夕方よ」
「そうだね」

「どうするの? 着くの明日になっちゃうんじゃない?」
「いや、大丈夫だと思うよ」
「……そうなの?」

 姉さんは首を傾げていた。

 その後、父さんに領主の館まで送ってもらい、僕らは竜に乗って帰ることにした。

「じゃあね、父さん。また」
「しっかりやれよ。こっちは任せておけ」
「分かった。そう伝えておくよ」

「こ、これが……」
 近くでシャラザードを見て、姉さんが絶句している。
 竜国の民が竜を見て絶句しちゃだめだろ。

 それに竜迎えの儀のとき、見に来たんじゃないのか? でも近くで見ると違うのかな。

「じゃあ、ネイトの町に寄ってから帰るよ」
 僕らはシャラザードの背中に乗り込んだ。

「これに一時間くらい乗るのね。大丈夫かしら」
「一時間? なにを言っているんだよ、姉さん。十数分で着くに決まってるでしょ」

「はっ? あなた何を……きゃっぁぁああああああああああ」
 シャラザードが飛翔した。

 急上昇。シャラザードが大好きなやつだ。

 僕は慣れたし、アンさんたちは覚悟していた。だが姉さんは……。

「なにこれ? ちょっとこれ……浮いてる! 飛んでる! ちょっとまってぇええええええ」
 姉さんは元気いっぱいだ。

 ネイトの町はすぐだった。
 十分少々で到着した。

 町中に降りるわけにはいかないが、竜が一時的に降りられる場所は、町にいくつかある。
 その中で姉さんの家に一番近い場所に降りた。

「……はぁ……はぁ。死ぬかと思ったわ」
 姉さんの顔は真っ青だ。

「大丈夫?」
「もう竜はいいわ。……たぶん、私には合わない」

 合う、合わないの問題だろうか。
 ソールの町からネイトの町まで十分くらいで移動したシャラザードがいけないんだと思うが。

「ドロドフおじさんとヨーランおばさんによろしくね」
「…………」

 姉さんは片手をあげて応えた。声が出ないらしい。
 刺激が強すぎただろうか。

 姉さんを下ろしたあと、シャラザードは王都を目指して飛翔した。

『このまま月魔獣を……』
「行かないからね!」

 シャラザードは相変わらずだ。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ