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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 状況を整理しよう。
 交渉人は、ソールの町に工場を作りたがっている。

 その許可を領主からもらうために何をしているかだ。
 領主は迷っていると父さんが言っていた。

 大規模な工場を作ることでソールの町がさらに発展することもあるが、問題も数多く持ち上がるだろう。

 治安の悪化、先住民との軋轢あつれき、なにより町の住民が工場を望むのかどうなのか。
 領主は、自分が治める町に関する多くの権限を持っているが、町議会だって黙ってはいない。
 さらに、住民の大規模な反発があれば、国が介入することにもつながる。

 ――町を治める力なし

 竜国議会でそう判断されれば領主の職を馘首かくしゅされる。
 過去にも散財をした領主や、いたずらに町の人を虐げた領主が解雇されている。

 それを決めるのは女王陛下ひとりではなく、議会の承認を得る必要があるが、住民からの訴えがあれば、領主は気が気ではないだろう。

 工場建設を悩んでいるところはその辺だろう。
 せっかく七大都市として発展しているのに、工場を建てたことで不利益をこうむっては困る。そんなところだろうか。

「さて、交渉人側の提示する材料はなんだろうね」

 賄賂の証拠でも出てくればいいが、商国もそこまで間抜けではないと思う。
 重要そうな場所に目をつけて探してみよう。

 影に潜ったまま、館の中を移動する。

 武に長けた者の気配が五名分確認できる。
 他に気配を押し殺している者が三名いる。

 人がいる部屋は避ける。
 さすがにそんな場所で家探しはできない。
 とすると、上階でも限られた部屋になる。

 一階は護衛や見張りの者が生活する場所らしく、雑然としていた。
 そこを飛ばして二階にあがる。

 不寝番が守っているのはこの二階がほとんどだ。
 人がいない部屋に入ったが、目につくものはなかった。

 書類ひとつない。
 ただの荷物置き場か、商国から持ち込んだ書物が並んでいるだけだった。

 館は三階建てで、一階と二階の中で、人がいない部屋はいくつかあった。だが、目ぼしいのもはなかった。
 僕は最上階に向かった。

「……ここは人が少ないけど犬が守っているのか」

 訓練された犬だ。じっと立って聞き耳をピンっと立てている。
 館を守る不寝番といえども、慣らされてない者は不用意に上に上がれないのかもしれない。

 僕が影から姿を現せば、気づかれてしまう。
 探しものをするなら、人も犬もいない部屋しか無理だ。

「……この部屋が怪しいな」

 三階の奥にある部屋。そこは人も犬もいなかった。
 中は書斎のようで、机と本棚。それに置物を並べた書棚がある。

「ここに何もなければ帰ろう……っと」

 違和感に気づいた。
 はじめは何だろうと思ったが、すぐにその正体に気づく。

「部屋が整い過ぎている……?」

 これまで石の床ばかりだった。
 不寝番が見回りに来ると、靴音が響くので遠くから分かるくらいだ。

 部屋の中はさすがに絨毯が敷いてあった。
 だが、この部屋はなにかおかしい。

 石畳ではなく、板が敷かれている。
 それはいい。そういうものだと思うだけだ。

 部屋の中は、机と椅子、本棚、書棚。これしかない。
 まるで劇のセットのように。書斎であることを観客の目にみせるためだけに置かれたように僕には思えた。

 そして床。
 今までの僕ならば、絶対に気づかなかった。
 気づけなかった。

 だが、技国での潜入の経験から、この床に違和感を抱いた。
 これは機械式の罠ではないかと。

「……少し柔らかい?」

 床の端を指で押してみた。少し沈む。
 なにかの感知結界だろうか。だとすると、僕が気づかないわけがない。
 とすれば、機械式の仕掛けだろう。

「――危なかったな」

 僕は影から完全に出ることはせず、そのままの姿勢で机と書棚を漁った。
 だが、さまざまな商取引の記録は見つかるものの、僕が求めていたような、工場建設に関する不正なものは何もでてこなかった。

 収穫がなかったので、僕は闇に溶けて家に戻った。

               ○

「ふむ、侵入者か?」

 商国の交渉人エイヴァドス・ゾリトリンは、書斎の床板を一枚はがし、そうつぶやいた。

「侵入者ですか?」
 護衛頭トクト・ゴーリンが訝しげな顔をする。

「見てみろ」
 エイヴァドスが指した場所に小さな点があった。
 子供が指を押し付けたくらいの大きさだ。

「これがなにか?」
「勘のいい侵入者だね。直前で気づいてうまく避けたらしい」

「まさか」
「そのまさかだよ。ここまでくる侵入者はいないと思ったが、一応仕掛けておいたんだ。竜国は恐ろしい国だな。これに気づいて去るか」

 エイヴァドスはそう言ったが、レオンは中に入って調べ物をしている。
 レオンが気づいた機械式の仕掛けは、その上を歩くと敷いた板の内側に跡が付くタイプのもので、外から見ても一切分からないようになっている。

「警備を強化しますか?」
「ここまで入り込める相手には無駄だね。重要書類は秘書に持たせることにするよ」

 エイヴァドスがそう言うと、護衛頭のトクトは瞬間嫌な顔をした。

 トクトは、黥人げいにんと呼ばれる全身いたる所に刺青を施した呪国人を毛嫌いしている。

 なぜあんな者を秘書として傍においているのか、トクトには理解できない。
 だが、トクトは護衛のプロであり、長期契約によって雇われているので、異論を差し挟むことはしなかった。

 たとえ心の中でどんな風に思っていたとしても。

「これが噂の〈影〉の実力かな。はてさて、出し抜けるのかちょっと分からなくなってきたぞ、これは」

 そう言うエイヴァドスの顔には笑みが浮かんでいた。

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