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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 我が家の夕食だが、主食はもちろんパンだ。

 来客があろうともそれは変わらない。
 売れ残ったパンを調理して食べることになる。

 他にスープかシチューなどの汁物、肉か魚が食卓に並ぶ。
 今回はアンさんが手伝ってくれたので、いつもの夕食と少し違っていた。

「サラダ類が豊富で色とりどりだけど、これはアンさんが作ったの?」
「はい。レオンくんのお口に合いますでしょうか」

 母さんのレパートリーとは若干違う料理が並んでいたので聞いてみたが、やはりアンさんが作ったものらしかった。

 自信なさそうに言うアンさんだったが、見た目は完璧だ。
 これで味がおかしかったら、逆にすごい。

「……おいしい」
 一口食べてみたが、かなりおいしい。

 技国の料理というと、やたらと手の込んだものが思い浮かぶが、これはどちらかといえば庶民が好んで食べそうだ。

 この日のために練習をしたのだろうか。
 そのことを聞いてみようと口を開きかけたとき、アンさんは慌てて言葉を継いだ。

「そ、それで、お母さまからレオンくんの幼少時のお話をいろいろと聞けました」
「………………げっ!」

 僕の口が固まった。
 その話題は危険なのだ。

「へえ、私もいくつか知っているけど、どういうお話でした?」
 リンダが食いついてきた。

 幼少時に僕がやらかしたことのほとんどは、リンダも同罪だ。
 というか、リンダには悪事をけしかけた疑いが持たれている。

「えっと……そうですわね。母乳で育てていたのですけど、レオンくんはよく飲むので、お乳が足らなくなった話とか」
「へえ」

 なんだそれは。僕は知らないぞ。

「しかたがないので、お湯を沸かして、少し冷ましてからコップに入れて飲ませたそうなんです。でも、少し飲んでいるうちに、急に目をクワッと開いて、『これは違う!』って顔をして睨んだんですって」

「あははは……レオンらしいわ」
「………………」

 知らんよ。そんなこと。というか母さん。そのネタ、ここぞという時に取っておいたな。僕も初耳なんだけど。

「ほかにもですね……歩き始める頃になったら、お姉さまの跡をついてまわったようなのです」
「ふんふん、それで?」

 そのくらいよくある話だよね? おかしくないよね?

「ご両親は忙しかったので、そのままお姉さまが見ててくれるだろうと思っていたら、いつの間にかレオンくんの姿が見えなくて」
「へえ?」

「お姉さまは知らないというので、いままでどこに行っていたかと聞いたのですけど、挙げた名前が……」

 アンさんは、あの頃近所にあった遊び場の名前をいくつか上げた。
 思い出した。この話は、アレだ。

「それでどうなったの?」
「ご両親が、お姉さまが通ったルートを逆に辿ってみると、途中の抜け道のところで網に絡まったレオンくんを発見したそうです」

「なにそれ」

「あー、鳥よけの網かな」
「そうです。覚えておいでですか?」

「いま思い出した。姉さんは後ろもみずにズンズン行っちゃうものだから、必死に付いていったんだけど、空き地から畑を抜けるときに、鳥よけの網が張ってあったんだよ。知らないで通ったら絡まって、空中でしばらくもがいていたんだ」

 あのときは酷かった。
 姉さんは気付かずに行っちゃうし、だれも通らないし。暗くなるし。
 両親が来てくれるまで、ひとりポツンと絡まったままで待っていたんだ。

「おもしろいわね」
 リンダが興味津々の顔で母さんを見た。
 これ、だめなやつだ。

「まだまだあるわよ」
 母さんのニンマリとした笑顔に、僕は頭を抱えた。

「どんなのがあるんですか?」
「子ども好きなお客様がいてねえ……」

 母さんが遠い目をした。
 なんだっけか。なんとなく覚えがある。

「そのお客様がパンを買いに来ると、いつも店先にいたレオンの頭を撫でてくれるのね。それで、レオンもそのお客様を気に入っちゃって……」

 思い出した。
 これも駄目なやつだ。母さん、やめよう。

「ある日、いつものようにお客様がパンを買って帰られたんだけど、レオンの姿が見えなくてね。どうしたのかしらと思っていると、夜になっても見つからないのよ」

 うん。もうその頃から放任されていたしな。完全放任主義というやつだ。

「どうしたんです?」
「それがね、お客様の跡をずっとつけていたみたいなの。結構遠いところから来られていたのに」

 技国式のパンを売っているのは、我が家くらいしかないからな。
 あの時かなり歩いた気がする。

「じゃあ、そのお宅に?」
「ええ。でも家の中に入るんじゃなくて、ずっと外で見ていたらしいの。それで近所の方が気になって、そのお宅に連絡してやっと気づいたみたい。夜中に連れて来てもらったのよ。本当にこの子は……」

「そのお客様って、もしかして、若い女性ですか?」
 アンさんも食いついてきた。

「そう。あれがレオンの好みなのかしらね」
「……さあ」
 もう顔も覚えてないわ。

 技国から来た人で、もうとっくに国に帰ってしまった。
 たぶん、竜紋を得るために一時的に住んでいたんじゃないかな。

 今なら分かる。
 あのひと、いつも悲しそうな目をしていたし。

「エイナが領主の館には悪い奴がいて、夜な夜な人の血を吸うから気をつけろなんて嘘を教えたこともあったな」

 ここで父さんも参戦してきた。たのむからもう止めてくれ。

「それでどうなったですか?」

「聞きたいか?」
「はい!」
「わたくしも興味ありますわ」

 リンダもアンさんも興味津々なのか。
 僕の気力と体力がそろそろ限界なんだけど……。


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