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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 呪国人は、他の国の人と外見的特徴に違いはない。
 ただし、たったひとつだけ他と大きく違うところがある。

 呪国人が相手を呪うとき、自らの身体に墨を入れる。
 呪う対象や効果の大きさによって、入れる墨の大きさも変わる。

 墨は同じ場所には入れられないので、呪を繰り返すうちにどうしても墨を入れる場所が広がっていく。
 人の身体は有限なのだ。

 はじめは背中や臀部など、目立たないところに入れたとしよう。
 それが徐々に増えてゆき、足や胸、はたまた腕や顔にまで入れるようになっていく。

 今はもう廃れた風習だ。
 なにしろ、人を呪うのである。推奨される行為ではない。

 それでも僕が小さい頃、道端で座り込んでいる老人の全身に墨が入っているのを見たことがある。

 最後はもう入れる場所もなくなり、額や舌の上、髪を剃りあげて頭皮にまで墨を入れるらしい。
 優秀なしゅを施す呪国人ほど、全身くまなく墨が入っている。

 外からでも容易に墨が判別できるようになった呪国人のことを黥人げいにんと呼ぶ。

 げいとは、最終的に顔にまで墨を入れた人を指す。
 そこまでいくと、何人かは確実に呪い殺しているはずである。

「今夜、その交渉人のところに忍び込んでみるよ」

 交渉人が黥人を連れている。
 その話を聞いて、ただ座視するわけにはいかなくなった。

 呪国にある呪には、人を呪い、意のままに動かすものも存在している。
 あまり万能ではないらしいが、領主が操られる可能性もある。

「交渉人が住む屋敷に結界はないんだ。どう思う?」
 父さんは何気ない調子で、そんなことを言った。

 僕は思わず聞き逃すところだった。
 そんな重要人物がいる屋敷に結界がない? どういうことだ?

「無防備……ってわけじゃないよね」
「まずあり得んな。誘っているんだと思うが、だとするとどんな罠があるのか」

 間違いなく罠だろう。
 すでに竜国を仮想敵国と定めたからこそ、この地域に工場を建てるのだ。

 その交渉人が、結界のない場所に重要書類を置いておくとは思えない。
 そして父さんの目をもってしても、結界の存在が分からないらしい。

 商国もまた、本気で竜国をつぶしにかかっている。
 僕にはそう思えてならなかった。

 ゴクリと生唾を飲み込む僕の背後から、アンさんの声が聞こえた。

 これから母さんと夕食の買い出しにでかけるので、店番を頼むという内容だった。

               ○

 僕は、母さんとアンさんが出かけたので、担当が店番に変わった。
 残りは父さんがやってくれる。

『ふっくらフェナード』には、朝と夕方に二回、お客様のピークがくる。

 この話をすると、朝は分かるがなぜ夕方? と不思議がられる。

 理由は、店の立地と商人たちの事情にある。
 ソールの町から王都に向かって進むには、必ずネイトの町を経由しなければならない。義兄さんが雑貨屋をやっている町だ。

 距離は馬車で半日。それほど離れていない。
 とはいっても、全員が馬車を使って移動するわけではない。

 少しでも費用を抑えようとすれば、ここからネイトの町までは徒歩でいくことになる。
 その場合、夕方に出発して明日の朝に到着すれば、一日分の宿泊費を抑えることができる。

 馬車の運賃だけでなく、宿泊費も抑えられるのだから使わない手はない。
 ということで、多くの商人が夕方に食糧を買い込んで町を出発するのだ。

「せめて、夜食だけでも美味しいパンを」

 町の出口付近に建っている我が家で、パンを購入していくお客さんが増える。
 実際、ネイトの町に着いて商売をして、日帰りで戻ってくる人もいる。

「……いい匂いが漂ってきたな」

 アンさんと母さんが料理をしている。談笑が聞こえてくる。
 父さんは片付けと明日の準備の最中だ。リンダはまだ戻ってない。

「……ただいま。あれ? あんたが店番?」

 と思ったら、リンダが帰ってきた。
 しかも口調が昔の頃に戻っている。古い友だちに会って、気が抜けたな。

「アンさんたちは料理中。父さんは片付けだね」
「そっか」

 リンダは僕の横で座った。そろそろ店じまいの時間だ。

「懐かしい顔ぶれに会ってきたわ。結婚しているのもいるし、別の町に移ったのもいた。一人前の職人になろうと頑張っているのも……」

 遠い目をして、リンダは語りだした。

「この町を離れるの、正直嫌だったの。パパには夢があるのは分かっていたけど、私を巻き込んでほしくなかったし、王都で生活なんてしたくなかった。だからあの日、馬車の中でずっと泣いていたの」

 あの日とは、僕とリンダが別れた日のことだろう。
 リンダの家族が出発する日、僕は見送りに行った。

 馬車の中でずっと泣いていたなんて、その頃の僕はちっとも想像できなかった。

「今日、会えてよかったわ」
 そう笑ったリンダは、何か吹っ切れた顔をしていた。

「今はどう? 後悔している?」
 リンダは将来を自分で選んだように見えて、そうでもない。
 父親の悲願、姉の代替、アンさんというライバルの出現。

 思い通りにいっていないと考える理由には、事欠かない。

「後悔はしていないわ。ただ、これから波乱万丈な人生になるだろうなとは思うかしら」

 リンダの夢は父親の商売を継いで、それを発展させること。
 そう聞いている。

 アンさんとのつながりで、技国にもコネができた。
 リンダの手腕によって、技国に新しい商売の風を吹かせるつもりだろう。

 たしかに波乱万丈な人生になりそうだ。

 竜操者レオンのパトロンではなくて、交易商人リンダという名が有名になるのも、そう遠いことではないのかもしれない。

「お夕食の準備ができましたわ。店を閉めてこちらにいらして下さいとのことです」

 アンさんが僕とリンダを呼びに来た。

「そんな時間か。じゃあ、閉めたらすぐいくね」
 久しぶりに家族との食事だ。

 僕は立ち上がった。

数日に渡る大きなイベントがありまして、いまそっちにかかりきりです。
感想への返信は時間のあるときに行います。


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