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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 リンダとアンさんが店の方へ出向き、母さんに挨拶した。
 僕は……逃げた。裏で窯の温度をみることにしたのだ。

 ふたりは店番を手伝いながら母さんと一時間くらい話していた。

 何の話をしていたのか気になったが、怖くて顔を出せなかった。
 僕らは実家に泊まって、明日帰る。

 一泊二日という慌ただしい日程だ。
 本来馬車で片道五日もかかる道のりを考えれば、ずいぶんと簡単に行き来できるのだから、文句があろうはずもない。

「そうそう、明日エイナが来るって言ってたわよ」
「あっ、そうなの?」

 姉さんが来るのか。雑貨屋は大丈夫なんだろうか。
 義兄さんが王都に来ちゃって、大変そうだが。

「エイナさんは結婚したのでしょう? いまどこにいるのよ」
 リンダは当然、姉さんのことを知っている。

「ネイトの町の雑貨屋さんにいるんだ。ここから馬車で半日の距離だね」
 後半は、この辺の地理に疎いアンさんに説明した感じだ。

 ネイトの町はここから王城に向かうときに必ず通る町なので、発展度合いはソールの町と大差ない。

「レオンくんはこのあと、どうされるのですか?」
「久しぶりに実家のパン作りを手伝いたいかな」

「でしたら、わたくしはイノセさまと一緒に、お夕飯の準備をしたいと思いますわ」
 母さんとアンさんはいろいろ意気投合していた。

「だったら私は、ちょっと昔なじみの知り合いに声をかけてくるわね」
 この町で暮らしていたリンダは知り合いもいる。

「リンダは夕食までには戻ってこいよ」
「分かっているわ」

 ふと気がついたが、いま僕とリンダの関係は、昔の一緒に遊んだあの頃に近くなっていた。
 これが実家マジックか。

 リンダが出かけ、アンさんと母さんがおしゃべりしつつ店番をしているので、僕と父さんは裏でパン作りだ。

「最近この町はどうなの?」
 王都では不穏な話をよく聞いた。

 変化は工場の件だけではない。魔国の意向も絡んでいれば他にも何か変化があっても不思議ではない。
 商国だって本気になれば、意外といろんなことができる。

「ヴィラーインとバロドリストの町で、工場の建設が始まったな」
「早いね。何とかならないの?」

「領主が許可を出したから、しょうがない。正攻法で来ているものを排除するわけにはいかんな」

「それはそうだけど」

鼻薬はなぐすりを嗅がせたり、虚栄心をあおっていたが、正式な手続きを踏んでいる。あの工場建設は止められないな」

 商国から来た交渉人たちがかなりのやり手らしく、領主との直接交渉で、いろいろな便宜をはかる見返りに許可をもぎ取ったらしい。

 工場を建設するだけで多くの人とお金が動く。
 さらに労働者を魔国から連れてくることで、税収のアップになる。

 人の流入は経済の活性を促すし、魔国との交流も深くなる。
 これが成功すれば、領主の手腕として大々的に宣伝できるとなれば、許可くらい出すだろう。

 話を聞くだけでもいいこと尽くめのように思える。

「ソールの町にも工場を作る計画がある。まだ領主様が決断していないが」

「へえ、どんな工場になるの?」
 まえに簡単に説明を聞いたが、その時はよく分からなかった。

「複雑で手間のかかるものが簡単に作れるらしい。本来、職人を育て上げるには長い年月と、それを指導する熟練した者が必要だ。工場だとそれを分業でするようだな」

「その辺の意味が分かりにくいんだけど」

「一流のパン職人になるために、覚えることはたくさんあるだろ」
「そりゃもちろん」

 一通りのことをマスターするまでの道のりは長かった。

「工場のやり方をパン作りに例えるとだ、小麦粉を測って水と一緒に混ぜる係、混ぜたものをかき回す係、かき回したものに力を加える係、それを塊にする係……そんなふうに細かく分けていくわけだ」

「それぞれの係は、それだけを覚える感じ? かき回す係だったら、それしかやらないような」

「そういうことだ。竈に火を入れる係、温度を調節する係、薪を調達する係でもいい。とにかく分業して、それだけをマスターする。それなら何年も修行しなくていいだろ?」

「そうだね。でもパンをひとつ焼くのに何十人も必要になっちゃうよ」
「それでいんだよ。そのかわり一日に何百、何千というパンを焼けばいいんだ」

 あー、なんとなく分かった。
 その人員を魔国から調達するならな、工場は大きく、やってくる人は相当な数になるだろう。

「技国もすごい技術を持っていたんだね」

「開発だけして実用できなかったようだな。少量のものを作るだけなら、それだけの人数はいらない」

「そっか。その工場って同じ商品をたくさん作るわけだよね。売れるの?」

「それが売れるらしい。費用対効果の面で今まで折り合いがつかなかった品物が安価に作れるようになるんだとか」
「へえ……」

 その工場を使うと、職人がひとつずつ手作りするよりも早く商品が完成するらしい。

 まえは職人が作ったものを運んで売ろうとするとどうしても費用が高くなってしまったが、同じものを大量に作ることでそれが幾分抑えられ、今まで手が出なかった人たちが購買層に上がってくるらしかった。

「そういわけで、ソールの町の領主も、工場を作るかどうするか揺れている」
「それはまた……」

 たしかに悩ましいところだろう。
 商国の目的を知っているだけに、僕などは作らないでほしいのだけど。

「町の会議でも話題になっているが、領主は長期的な視野に立って有益かどうか判断するそうだ。……そういや、説得に当たっている交渉人のそばに呪国人がいたぞ」

 かつて呪国は、ソールの町から南西にいったところにあったと言われている。
 この町にもそれなりの数の呪国人が暮らしている。


「呪国人がいても、別におかしくないでしょ」
「それが黥人げいにんでもか?」

「……マジ?」
「ああ、見ただけで分かるくらいだ。相当やっているな」
「うわー、黥人かぁ」

 呪国人だからといって、竜国内部で忌み嫌われることはない。
 だが黥人となれば、話は別だ。

 それは一度、調べておいた方がいいんじゃないかな?


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