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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 アークが入寮した翌日、演習に出ていた二回生たちが戻ってきた。

 結構ボロボロの人もいる。
 姿ではなく、顔がだ。

 いや、顔が悪いと言いたいわけではない。
 ひどい顔をしていたのだ。
 顔がひどいわけではない。念のため。

 寮内が一気に騒がしくなり、あちらこちらで話し声と、人の出歩く音が聞こえる。
 これでルームメイトは、全部揃った。

 新しく同室になったのは、セイン・モートンという、やや細身の青年と、マーティ・ギルという朗らかな顔をした二回生だ。

 演習の最終日は陰月の路近くにある宿泊施設に泊まったらしいが、それ以外はずっと野営だったとか。
 来年僕らも竜を得たら、それをこなさないといけないらしい。

「なるほど、竜を得てから最初の試練だね」
 分かった風に頷くアークはおいといて、比較的体力の残ってそうなセイン先輩からいろいろと説明を受けた。

 やはり寮の部屋割りは、一回生と二回生で一室を使うらしい。
 それと合同の授業でもこの組み合わせになるのだとか。

「合同授業ですか? そんなのもあるんですか」
「当たり前だ。年が明けたら否応なく竜を得る。まさか座学だけで竜を乗りこなすつもりか?」

「いえ……そう言えば、竜に乗る練習とかあるんでしょうか」

「馬と違って、竜は竜操者以外の者を軽々しく乗せたりしない。竜操者が許可した場合を除いて、勝手に乗ることは不可能だろうな」

「聞いたことがあります。悪意をもって近づくと攻撃されるとか」
「嘘か本当か、そんな風に言われているな。私も小さい頃は、怖くて父の竜に近づけなかったよ」

「セイン先輩のお父さんは竜操者なんですか」
「その通りだ。代々軍人を排出している家系でね、父の代からそれに竜操者が加わったわけだ」

 堅苦しい人だと思ったが、軍人の家系らしい。
 しかも親子二代で竜操者だという。

 親子で凄いですねと言ったら、意外と多いらしい。

 竜紋は十代の半ばで出現するため、結婚して子供ができるころには、本人は一人前の竜操者になっている。
 竜に慣れているせいなのか、竜操者の子や孫には、竜紋が出やすいらしい。

「竜との親和性が高いなどと世間では言われている」
「そういうもんですか」

 魔国でも、魔道を使う者の子孫は、やはり魔道を使えるようになる確率が高い。
 ゆえに、その血脈を絶やさないように多くの子を残そうとする。

 そういう意味では、竜国も魔国も同じなのかもしれない。

 一方のマーティ先輩は商家の出身で、卒業後は軍属に身を置かないらしい。
 ベッドにうつ伏せになっている。

 やや太めの身体だが、これでも学院に入って随分スリムになったらしい。

「僕はね、竜操者の義務さえ果たせば、窮屈きゅうくつな軍に入る必要はないと思っているんだ」
 なるほど、マーティ先輩はフリー派か。その考えに僕も賛成だ。

「窮屈というがな、バックアップの手厚さでいえば、軍に所属した方が何倍もいい。フリーはつらいぞ」
 セイン先輩がそう言ってきた。
 一年間も一緒に暮らしているからだろうか。ふたりの間に気安さがある。

「考え方の違いだから、そのへんは諦めているよ」
「まったく難儀な男だな、おまえは」
「まあね」

 セインさんとマーティ先輩では、考え方が真逆であるらしい。
 その割には、仲は良さそうだ。

「フリーだと、何が一番大変なんですか?」
 僕の先をゆく人ということで、興味があった。

「一番は、竜の餌の問題だね。年間を通すとそれなりの額になるから、しっかりしたパトロンを得ないと厳しくなる。ただし、軍属でないとパトロンの影響力が強くなる。なるべくパトロンに振り回されないようにしつつ、餌代を確保するのは難しいと思う」

 竜は大食いなのだ。
 小型竜でも十五日に一頭の成牛を食べる。
 この金額がばかにならない。

 成牛一頭の価格は、技能を持たない職種、たとえば店員給与の一年分に相当する。
 それを十五日ごとに食べる。

 他にも、竜を飼育するには、いろいろと物入りになる。

 新鮮な藁で寝床を調えてあげねばならない。
 運動させる場所も必要だし、良質な油で身体を拭いてやる必要もある。

 学院を卒業したら、日々の世話を任せる人を雇う必要もある。
 小型竜といえども、自分の稼ぎだけでなんとかできることはない。

 そのため、どうしても金銭的な支援者を得ておく必要がある。
 それがパトロンの存在だ。

「マーティ先輩は、パトロンをどうしたんですか?」

「実家が面倒みてくれることになったんだ」
「それは……立派なご実家ですね」

 パトロンをつければ、金銭的な負担はなくなる。
 代わりに、いくつかの個人的な用件を聞いてあげることになる。

 竜操者のパトロンになることは名誉である。
 名誉を欲して名乗りを上げる人も多くいる。
 商人などはそれだ。

 新規顧客を開拓するときに「実は私、竜操者のパトロンなんですよ」と言えば、相手は「さぞご立派な商売をされているのでしょうね」と判断してくれる。

 同じような取引相手とかち合った場合、「あの商人は竜操者のパトロンだったな。よし、そっちに頼もう」なんてこともある。
 国を守る竜操者たちを支援するパトロンの商人には、そういった無形の利益がついてまわるのだ。

 またパトロンは、それに加えて「ほんの少しのお願い」もできる。
 大事な取引先相手に会うために竜に乗せてもらうこともあれば、自らが主催するパーティに竜ごと参加させることもある。

 その程度のお願いは、パトロンになればお願いして構わないことになっている。
 国も、竜操者を支援してくれる者たちにたいして、常識を逸脱しない範囲で認めてくれている。

「マーティ先輩のご実家が商人だと、いろいろはかどりそうですよね。たとえば飛竜だと、馬車で数日かかる道のりもすぐだからね」

 軍属にならない竜操者の場合、国から一切のお金が支給されないため、商人の負担額は相当なものになる。
 それでも竜操者の義務さえ満たせば、あまり細かいことは言われないらしい。

「あの竜操者の暗黒時代があったからですかね」
 アークの言葉に僕は「ん?」と首をかしげた。


「なんだ、その竜操者の暗黒時代ってのは」
「国が竜操者を締め付けた時期があったんだよ。本当に昔らしいけど、聞きたい?」

 アークがニヤリと笑った。
 なんかここで聞きたいというのはシャクだな。

 そう思ってマーティ先輩の方を見ると。

「竜操者の暗黒時代というのはね……」
「わー、わー、わー、俺が話しますってば!」

 慌てて遮るアークにマーティ先輩も僕も苦笑した。
 自分で言いたいなら、素直に話せばいいのに。

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