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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

プロローグ

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これはプロローグであり、本編の先取りになっていますので、本編が進むとこんな感じになるんだなという程度の理解でもまったく問題ありません。
 僕の名前はレオン・フェナード。つい最近、17歳になった。

 僕は昨年の四月、竜操者りゅうそうしゃになるすべを学ぶため、『竜の学院』に入学した。

 それだけではない。
 王立学校と合同で行われた五回の『顔合わせ会』も無事に済ませた。

 あの顔合わせ会、僕は頑張った。いや、半分くらい逃げたけど。

 すでに入学してから九ヶ月が経っている。
 今日は、年が明けた一月七日。

  ――竜迎りゅうむかえのの当日だ。




 竜迎えの儀がはじまり、お偉方の退屈な演説……ありがたいお話が続いた。
 場所は王都にあるコロッセオ。闘技場の会場を使わせてもらっている。

 主賓は僕ら学院の一回生で、王立学校の生徒たちは観客席にいる。
 他にも、竜迎えの儀をひと目みようと、多くの人が詰めかけている。

 さてその竜迎えの儀だが、退屈な時間も過ぎて、そろそろ後半に入った。
 今年の一回生たち、つまり僕の同級生らが次々と竜を得ている。

 竜を得るには、竜の聖門せいもんがある竜渓谷りゅうけいこくに行く必要がある。
 ただしこの時期の竜渓谷へは、竜紋を持った者や竜が複数入ることが許されない。

 なんでも、竜の聖門から出てくる竜が混乱するとか、他の竜が嫉妬するとか言われている。
 竜を得る者だけが順番に竜渓谷に入ることが決められている。

 次々と名前が呼ばれて竜を得て同級生たちが戻ってくる。
 そしてついに僕の番がきた。

 僕は竜の学院の二回生マーティ・ギル先輩が操る竜に乗って、竜渓谷へ向かった。



 竜の背に揺られながらの道中、僕は幼い頃……父さんと交わした会話を思い出した。

 あの頃は、パン屋になるのが夢だったなと。
 いや、その夢をまだ僕は諦めきれずにいるわけだが。

「レオンくん、なにか考え事かい?」
 マーティ先輩が問いかけてきた。

「分かるんですか?」
 驚いた。僕はマーティ先輩の後ろに乗っているのだから。

「後からそんな気配がしたからね。竜を得るのが不安なのかい?」
「いえ……たぶんそんなことはないと思います。でもどうしてそう思うんですか?」

「僕が去年、不安だったからね。レオンくんもそうなのかと思って」
「僕がいま思ったのは、思えば遠くに来てしまったなと……そんな感じでしょうか」

「なんだいそれは」
 マーティ先輩は笑った。

「僕の夢、話したことありますよね」
「町で小さなパン屋を開くんだっけ?」

「そうです。竜紋りゅうもんが僕の左手に現れてから、あれよあれよと……」
「竜迎えの儀の当日になってしまったと」

「そんな感じですね」
 こんなことになるなんて、本当にびっくりだ。

「でも会場にパトロンを残してきているし。今は竜渓谷に向かっている最中だ。ここで竜操者を辞めるわけにもいかないからね」

「分かってます。それに逃げたって……ですよね」

「まあそうだね」
 僕は左手の甲を見た。

 竜紋が赤くなっている。
 つい一ヶ月前まではただの竜紋だった。

 いまは待ちきれないというように、竜紋が主張し始めていた。

「そろそろ竜渓谷だ。速度を緩めるよ」
「はい、お願いします」

 マーティ先輩の走竜そうりゅうは速い。
 竜迎えの儀の会場から二十キロメートルも離れたこの竜渓谷まで、僕を乗せてゆっくり走っても二十分少々で着いてしまった。

「ここが竜渓谷の入り口。竜の聖門までは一本道だ。僕は竜紋持ちだからいまは入れない。ひとりでたどり着いてね」

「分かりました。ここまでありがとうございました」
「がんばってね」

 マーティ先輩は僕を下ろすと去っていった。会場に戻ったのだ。



 ここに来るまでに竜に乗った同級生と二回すれ違った。飛竜ひりゅうと走竜だった。
 今度は僕の番だ。

「えっと、竜導りゅうどう教会の神官が立っているんだったよな」

 神官が竜の聖門の前で待っていると授業では習った。

 峡谷の細い道を歩いて進む。
 一本道なので迷うこともない。

 十分も歩いたら、それらしき場所に出た。
 たしかにひとり立っている。

「レオン様ですね」
「はい、レオンです」

 法衣を着た人。まだ若い男性だ。この人が神官らしい。

「このたびは、竜迎えの儀を迎えられたこと、大変嬉しく思います。……おや、その竜紋は」
 神官が僕の左手の甲を見て、声をあげた。

 そりゃ驚くよな。色が変わっているわけだし。
「先月あたりからだんだん赤くなってしまったんです」

「竜紋が赤くなるのは、竜が聖門から早く出たがっていると言われています。では急ぎましょう」

 少し歩くと、垂直に切り立った崖があった。
 とても大きい。見上げると首が痛くなるほどだ。

「見えますか?」
「光っていますね」

 崖の一面が光っていた。眩しいくらいに発光している。

「そうですか。竜紋がないわたしには黒い壁にしか見えません。光って見えるならば問題ありませんよ。……では、そこに手をかざしてください。しばらくすると、竜が出てくると思います」

 神官がそんなことを言っている間にも、光の膜の内側から、ドンドンと叩くように何度も壁が盛り上がっている。

「内側から叩いているように見えますけど?」
「竜がしびれを切らしたようです。……ですがあの高さ」

 まるで赤子の胎動のように壁がうねっている。

「で、ではいきます」
「危険はありません。思い切ってやってください」

 僕は光る壁に手をかざした。
 すると壁だけでなく、竜紋までもが光り輝き始める。

「これは!?」
「同調しているのです。もう少しです。そのまま手を抜かないで」
「は、はい」

 少しだけ手が壁の中に入る。どうなっているんだ?
 竜紋が光の壁に触れた。

「き、来ます」
「分かるのですか?」

「分かります。壁の奥からこっちに向かってきます……速い!?」

 何かが近づいてくるのが感覚で分かった。
 しかも勢いを増してやってくる。

 これが……これが、竜なのか? 壁の中からすごいプレッシャーを感じる。
 これが竜の気配なのかと思っていると、光の壁が大きく膨らんだ。

 もうすぐ近くだ。壁の内側から何かが出てこようとしている。

「「……これはっ!?」」

 僕と神官の言葉が重なり、見上げた僕の頭上が陰った。

 竜が姿を現したのだ。


【大陸地図】
挿絵(By みてみん)


 次話より本編、第一章『魔国蠢動しゅんどう編』に入ります。

1日2回、6時と18時に予約投稿しますので、よろしくお願いします。
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