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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 アンネラは驚いたようだが、僕だって驚いた。
 でも間違いないだろう。運悪く風邪と竜紋の出現が重なってしまったのだ。

「つまり、私が気づいてなかっただけだったんですか?」

「おそらくね。とにかくきみは、竜紋が現れたことを知らずに半年以上過ごしていたんだ。もう猶予はないからね。すぐに行動を起こしたほうがいい」

 入学者の名簿は出来上がっている頃だろう。

「あの……私、どうしたらいいんでしょう?」

「まずその竜紋が本物かどうか、竜導りゅうどう神官に確認してもらう。本物ならば神官が国に登録申請をしてくれる。そこではじめて国から学院へ入学許可の旨の連絡がいく」

 まさか自分がなるとは思わなかったのだろう。
 この辺の段取りを知っているはずがない。

 竜の学院に通う費用を国がすべて負担してくれるのだから、この辺の面倒な手続きは仕方ないと思う。

 ちなみに「お金がないので学院に通えません」というのは通用しない。全員必ず学院に通わされる。
 二年間、強制的にすべての予定をキャンセルして通わなければならない。

「分かりました。私は町の領主様のところへ行けばいいのですね」
「本来はそれでいいんだけど、間に合うかな」

 処理が終わるまでどんなに早くても一ヶ月はかかる。
 去年僕が辿った道筋だ。ちょっと流れを思い出してみる。
 ……うん、入学まで間に合わない。

「ではどうすればいいでしょう」
「知り合いの竜導神官に認定してもらって、直接王城で登録してしまおう。うまくすれば二十日もかからないはずだ」

「ええええ!?」
「きみさえ良ければ、このまま王都に連れて行くけど、どう?」

 行動を起こすならば、早いほうがいい。

「い、今からですか? 今から……本当に今からですか?」
 ものすごく動揺している。

「王都まで馬車だと何日もかかるからね。僕と飛べばすぐだ」
 アンネラはシャラザードを見た。

「……そうですね。商会の者と相談してみます」
「うん」

 アンネラはフラフラと歩いていった。覇気がない。竜紋を発見したときはあれだけはしゃいでいたのに。

『主よ、大丈夫なのか、あれは』
「環境の変化に戸惑っているんだろうね。僕もそうだったけど、目標にしていたものが、音を立てて崩れるときって、あんな感じなんだと思う」

 父の後継者として商会を切り盛りする。そのスタートを切ったばかりで二年間は何もできなくなる。
 仕方がないこととはいえ、人生設計を作り直す必要が出てきたわけだ。
 三年目からは竜込みで考えられるので、商人としてはプラスだろうけど。

 アンネラが遠巻きに見ていた人たちに説明している。
 いま気づいたけど、商会の人たち……シャラザードが怖くて近寄らなかったのか。

「シャラザード、あの娘を乗せて戻ることになるかもしれない」
『我は構わんよ』

 アンネラは僕のもとまできた。

「商会の人たちも賛成してくれました。竜操者の人が言うのだから従った方がいいと。ですから、私を王都まで連れて行ってください。お願いします」
 思ったより早い決断だった。揉めるかと思ったのだけど。

 いや逆か。もとは商国の人たちだから、判断材料がないのかもしれない。
 僕とシャラザードは新米竜操者だが、彼らからしてみたら、そんなことは関係ない。

 シャラザードを連れた僕が「今すぐ王都に向かった方がいい」と言えば、逆らえないかもしれない。シャラザードを見た後では……。

「向こうで落ち着いたら手紙を出せばいい。じゃ、行こうか」
「はいっ」

 こういう時は、有無を言わさず行動してしまった方がいい。
 僕とアンネラはシャラザードに乗り込んだ。

『出発か、主よ』
「出発だ。このまま竜導教会に行ってもらいたいんだ」

『場所は知らんぞ』
「空から僕が教えるよ」
『承知した』

 こうして僕は、偶然にも未来の竜操者と出会うことになった。

 シャラザードを恐れない、アンネラ・ディーバと名乗る少女と。

               ○

 王都の竜導教会は、竜が滞在できるよう広い場所が確保されている。

 僕は直接そこへシャラザードを降下させる。
 さすがに建物の中から神官が何人も出てきた。

 慌てて走ってきている。アポ無しだからか? いや、シャラザードの巨体だからかも。
 属性竜で乗り入れたので、何かが起きたのかと心配したのだろう。

「学院一回生のレオンといいます。ガイスン本部長をお願いします」

 神官たちがぎょっとした。
 彼らからすれば、本部長は雲の上の存在である。

「た、ただいま連絡してまいります……お、お待ち下さいませ」
 一礼して建物の中に駆け戻ってゆく。全速力だ。
 あまりそういう対応をされると、僕の悪評に繋がるので、止めてもらいたいのだけど。

 ほとんど待たされることなく、僕とアンネラはガイスン本部長と面会することができた。

 ちなみにアンネラは状況についていけず、途中から反応がなかった。

 ガイスン本部長は、忠義の軍団(ロイヤルレギオン)の一員で、僕に操竜会そうりゅうかい内部で出世してほしいと言ってきた人物だ。

 出世話は了解したが、ここ数年のことではないので放っておいている。
 そんなの十年、二十年のスパンで考えることだから問題ない……はず。

「これは、レオン殿。竜迎えの儀が無事に終わりましたこと、まことにおめでとうございます。それにしても素晴らしい黒竜ですな」

「ありがとうございます。ガイスン本部長」
 もちろんお互いに忠義の軍団(ロイヤルレギオン)のことはおくびにも出さない。

「さて、本日はいかがなご用件でしたでしょうか」
 ひとしきり空虚な話し合いのすえ、ガイスン本部長がそう切り出してきた。

「はい。本日同席させました、アンネラ・ディーバ嬢についてです。アンネラ、説明して」
 ここではじめて本部長はアンネラを見た。

「えあっ? はい」

 おどおどとしつつも、僕と出会って竜紋のことを告げられ、調べたら本当に竜紋があったことを話していた。

「なるほど、半年以上前からあった可能性が高いのですか。これはすぐに調べなければなりませんな」

 たまに注目されたくて、自分の肌に竜紋のような刺青を入れて現れる者がいる。
 本物と偽物を区別する術を竜導神官たちは持っているので、偽者はすぐにバレる。

 複数の女性神官が現れ、アンネラを別室に連れて行く。
「あ、あの……レオン様?」

「ゆっくり調べてもらってきなさい」
「は、はい」

 ちょっと顔が青くなっていた。でもこれ、竜操者の義務だから。

 ガイスンさんと二人っきりになったところで、やや空気がなごんだ。

「レオン殿、お久しぶりでございます。見事な竜を得られ、大変嬉しく思っております」
「しばらくぶりです、ガイスン本部長もおかわりなく」

 アンネラのことを考えたとき、ガイスン本部長の顔がすぐに浮かんだ。
 実は早いうちに、ガイスン本部長と面識を得ておきたかったのだ。公的に。

 なので、今回はいい機会になったと思っている。
 そしてもうひとつ。
 ガイスン本部長に話をしておきたいことがあった。

「それでですね、別件でご相談があるのです」
「伺いましょう」

「ありがとうございます。実は僕の黒竜シャラザードについてなのですが……」

 僕はシャラザードとの間に意思疎通ができることを、包み隠さず話した。

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