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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 竜操者の職務には、民を町に送り届けるものは入っていない。

 商人の護衛ではないのだし、気まぐれでもそういうことをしてしまえば、甘える者も出てくる。

 陰月の路付近を通る者は自己責任であり、町までの安全を竜操者に委ねてはいけない。

 竜操者は日々月魔獣を狩るのだが、それでもこの広い一帯すべてを網羅できるわけではない。
 だからディナードさんたちも行ってしまったのだ。

「あの……」
「なんでしょう」

 僕は話しかけてきた少女を見た。

 短く刈り揃えられた銀髪に赤い瞳、赤銅色の肌は南方の色が濃く出ている。
 歳は僕より、ひとつかふたつ下だろう。

 商人たちが馬車の周りに集まっている。
 何人かが逃げた馬を連れて戻ってくるところだった。

「あの……レオン・フェナード様ですよね」
「はい、そうですけど……?」

 どこかで会ったことがあるのだろうか。
 少女の顔がぱぁっと明るくなった。

「やっぱりそうですか。私、竜迎えの儀を見に行ったんです。ちょうど王都に荷を卸す予定があって。そしたら、レオン様の黒竜を見て、私感動しました」

「あ、ありがとう」
 感動……か。シャラザードが観客を怖がらせた印象しかないんだが、あれのどこに感動する要素があったんだ?

「これがあの時の黒竜ですね」
 キラキラした目でシャラザードを見上げる。

 あれ? この瞳、どこかで見たことあるぞ?
 あれだ。物騒なふたつなを持った人と同じ輝きだ。

『主よ、この小娘。契約しておるぞ』
 契約? シャラザードがいう契約って……まさか。

「竜紋があるのか!」
「へあっ!?」

『うむ。竜と契約しておるな。間違いない』

「ああ、驚かせてすまない。……きみに竜紋があるとシャラザードが言ってね。シャラザードとは、この竜のことだけど」

「私に竜紋ですか?」

 少女は目を見開いている。
 いきなりそんなことを言われれば面食らうだろう。

 だが、少女は「本当ですか?」とは言わなかった。
 かわりに、腕や足の露出しているところを探して……服をめくって腹、脇腹そして胸元までたくし上げて調べた。

「ちょ、ちょっと……」

 なにをしているんだ、この少女は。
 ……って、脱いでいる!?

 上着を脱ぎ去り、かろうじて下着が引っかかっているだけになった。
 後ろの方で商人たちもぎょっとしている。

「あっ、あった。ありました! 本当です。私に竜紋があったんですね!」

 少女が驚き、そして。

「な、涙?」
 少女がその場で涙ぐんだ……と思ったら、両手を開いて僕に抱きついてきた。

「えっ、ちょっ、待って!」

 ぎゅうううっと抱きしめられた。意外にボリュームがある。
 そして力が強い。柔らかい。いい匂い。というか、半裸だ。半裸すぎる。半裸族だよ。

 だから僕にも見えた。少女の脇の後ろ、そこに竜紋があった。

「ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます……」
「ま、まず服を着よう。話はそれからだ!!」

 僕は服を拾い上げて少女の投げつけた。




 少女はアンネラ・ディーバと名乗った。
 かつて商国で商売をしていたが、いろいろあって竜国に流れてきたらしい。

 今はこの近く、レジィの町を拠点にしているという。

 服を着て落ち着いたアンネラは、少しだけ重い身の上を語りはじめた。

「私が幼いときに父が商国を追放されたんです。それでもついてきてくれた人たちと細々と商いをしています。でも竜が得られれば、今よりももっと活動範囲が広がります!」

 すでにアンネラたちは竜国の民として登録されているらしい。
 商国を追放されたのだならば、そうだろう。

「そのお父さんは?」
「先年、病で……」

「そうか。すまない」

「いえ、もう吹っ切れました。それにレジィの町で本当に良くしてくれたので、父もとても喜んでいたんです。幸せだったと思います」

「そうか……それで大事なことなんだけど、よく聞いてほしい」
「はいっ!!」

「きみのその竜紋だけど、つい最近現れたものじゃないんだ」
「そうなんですか?」

「来年の竜迎えの儀には、きみも参加しなくてはならない。つまり、四月から竜の学院に通う必要がある」

「………………」

 まったく予想外のことだったのだろう。
 普通、竜紋が現れる時に激痛や身体の不調などが現れる。

 竜紋が発露はつろした場合、その町の領主に連絡する。
 専門の者、ほとんどが竜導神官だが、それが確認に出向き、間違いないと分かった時点で王都に連絡がいく。

 この間、およそ一ヶ月間。
 王都から連絡が届いて、もろもろの諸手続きが終了するまで二ヶ月はかかる。

 それでも学院入学まで充分間に合う。
 なぜならば、竜紋が現れた次の年に竜の学院に入学するため、半年以上は猶予があるからだ。

 その間に現役の竜操者から、さまざまな心得えを学んだり、自身の身辺整理をしたりする。
 僕も学んだ。

 人によっては、ある程度の読み書き計算を習得する場合もある。

 女性は剣や槍を握ったり、体力づくりをすることもある。
 それらはすべて、竜を迎え入れる準備のひとつに他ならない。

「今は二月で、入学は四月の頭。つまり来月中にはすべての準備を終えて、王都に向かわねばならないんだ。それで学院への入学は竜国民ならば絶対だ」
 逃げられるものなら、僕だって逃げている。

「……そう、なりますよね。二年間は外に出られないんですよね」
 アンネラは、ようやくその事実に気づいたようだ。

「ちゃんと休みもあるし、別に囚人じゃないんだから、行動も制限されないよ」
 自主的に学院内にこもる人はいるけど。

「それで聞きたいのだけど、半年以上前に身体に異変がおきなかったかな?」
 竜紋が現れるとき、普通はなんらかの変調があるのだ。

「半年以上前ですか? ……さあ」
 記憶にないようだ。

「身体に痛みや極端なだるさがあったと思うんだ」

「……んー、そう言えば、高熱を出して十日間ほど寝込んだことがあります。でも北のクロウフェルトの町で風邪を引いたからでした。竜紋とは関係ないと思います」

「竜紋が現れたのは、その高熱を出している間だったんじゃないかな? そのときどんな状態だった?」
「関節が痛くてトイレにも立てない状況で、すごく難儀しました。あの時は本当に大変でした」

「それだ!!」
「えええっ!?」

アンネラ・ディーバ ここ、試験に出ます
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