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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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切れなかったのでちょい長いです
「おう、今日は気合いが入っているな」
「午後までここにいられますからね。気合いも入ろうというものですよ」

「相変わらずだな、わっはっはっは……」
 ロブさんが豪快に笑う。

「――はぁ」
 上機嫌な僕の横でミラが息を吐いた。

「どうしたんだ、ミラ?」
「あのね、シャラザードだっけ? あのバカみたいに大っきな竜の噂が、日増しに高まっているって知ってる?」

「いや、竜迎えの儀のあとは技国に行っていたし、最近は訓練ばかりで町に出かけることもないからね」
 出歩かなければ、噂の入りようもない。

「噂か。そういや、俺も聞いたな。ソウラン躁者のときもすごかったが、今回もだな。シャラザードの絵姿が出回り始めたと思ったら、おまえさんの偽者まで複数出没したらしいぞ」
「はう!?」

 なんだその偽者って。というが、僕の?

「……やっぱり知らないのね。シャラザードの方はみんなが見ているから分かるけど、あなたの場合は遠目だったし、竜を連れてくるまでは、学院でもそれほど注目されていなかったでしょ。ちゃんと顔を覚えている人はいないみたい」

「それで偽者? なんでまた」
 意味のないことをするんだ?

「無銭飲食に寸借詐欺……くらいならかわいいものだが、町の若い女性をかどわかそうとした連中が捕まったらしいぞ」
「………………」

 ロブさんが言うには、レオンと名乗って寄付を募ったり、女性を連れて行こうとした偽者が出没したらしい。
 しかも複数だ。

「知らなかった」
「学院がそういう声から守っているんだろうな。王都の民は分かっているから騙されないが、最近やってきた商人とか、まだ年若い連中なんかが騙されるわけだ」

 それは大変だな。
「なんとかならないかな」
 騙された人がかわいそうだ。

「六年前のソウラン躁者のときもあったわね。あの時は若い女性がそろって熱を上げていたみたい。被害が大きかったって聞いたわ。あなたの場合、元から表に出ることもなかったし、本人は地味だから、そのうち沈静化すると思うけど」

「さいですか」
 地味って言われた。
 派手って言われるよりはいいけど、地味って言われた。

「大っぴらにやった連中は逮捕されているしな。もう少しの辛抱なんじゃないか」
「そうですか、そうですよね……地味」

 あとで義兄さんに話しておこう。地味のことじゃないよ。
 偽者の件は〈影〉に頼んでもいいかな。治安を裏から守るのも仕事だし。

「というわけで、世間の盛り上がりがすごいけど、その裏で悪さをしている人もいるから、軽々しく顔と名前を出したりしない方がいいわよ。偽者と思われるかもしれないから」

「分かったよ。出歩くときも制服は着ていないし、手袋も必ずするようにしているから」

「そう。だったらいいんだけど。それともし、ここで働いているのがバレて人が殺到したら追い出すからね」

「分かった! 絶対にバレないようにする! もしバレたら口をふさぐから安心して!」
 追い出されたら堪らない。
 僕の技術すべてをつぎ込んで対処しよう。

「さらっとそんな物騒なこと言わないでよ! 口をふさがなくてもいいから、バレないようにしなさい!」
「はい」

 ミラに言われたとおり、今まで以上に気をつかって顔と名前を隠すようにしよう。



 リンダと約束した時間にレストランに着いた。
 いつもの個室にリンダはいた。

「やあ、リンダ。いつも早いな。……で緊急の用件だって?」
「そうなのよ。まずはあなたの偽者が出没しているって聞いたことがあるかしら」

「ああ、ついさっきアルバイト先で聞いたよ。何人か捕まったんだって?」
「知っているならいいわ。こっちも商人仲間を通してそれとなく真実と噂を流しておくから」

「なにそれ」
 真実と噂って……。

「あなたはシャイだから町中で名乗ることはないって話と、偽者はどうやらあなたを手に入れたがっている商国の商人たちが関わっているって感じかしら」

「そうなの?」

「分からないわ。でも、可能性はあるとわたしは思っている。ウチとの切り崩しを狙っている可能性もあるし、竜国に居づらくさせる作戦かもしれないわ。仮想敵をつくって早めに払拭した方がいいから、生け贄の羊になってもらうわ」

 リンダは攻撃的だった。

「ほどほどにね」
「大丈夫。こっちはやられたほうなのよ。倍返しくらいさせなさい」
 リンダの中では商国にやられたことになっているらしい。

「それでね、今から本題」
「緊急の話ってやつだよね。何なの?」

「ソールの町に聞き込みが大量に入っているらしいの。あなたの周辺を探っているみたい。結構広範囲に声掛けしているようだから、こっちが掴んでいない情報もあるかもしれないわ」
「なんでまた」

「引き抜きのための下調べが一番可能性が高いわね。でもそれをしたら竜国が牙をむく」
「そうだね。馬鹿なことを考える人はいないと思うけど」

「それでも調べられていい気はしないでしょ。だから、そっちも対策を考えておきたいのよ。あと、あなたから両親にそれとなく伝えてもらえると助かるのだけど」

 不審人物が我が家の周りをうろつくわけか。父さん、張り切るだろうな。

「分かった。けど、なんでリンダがそんなのを知っているの?」
「パパが取り引きをしていた人たちがまだいるからね。教えてもらったのよ」

 ソールの町の職人とは長い間疎遠になっていたらしいが、このところリンダが間に入って関係を修復したらしい。

 リンダは父親とは違い、南へ進出を狙っている。
 商国への玄関口として、ソールの町を足がかりにする計画を立てているようだ。

 まだ王立学校の一年生なのに先を見通して動く目は父親譲りだ。

「しかしそうすると、僕の偽者も陰謀っぽく思えてくるから不思議だ」

 実家と王都で僕の周囲に不穏な動きがあると、どうしてもうがった見方を
したくなってくる。
 予断で判断するのは禁物だけど、陰謀説を心の隅にでも残しておきたい。

「そうそう、申請書類を出しておいたよ。これで追加の餌代がときどき発生するかも」

「分かったわ。しかし、よく食べるわよね」
「やっぱり餌代、大変?」

「それだけならなんとかなるわ。ただ、竜務員りゅうむいんはふたり必要だって話が来たみたい」

 竜務員とは、竜の世話を専属で行う人のことだ。
 竜舎に常駐し、その竜の管理一切が任される。

 小型竜には竜務員はいない。
 いるのは中型竜以上だ。

 シャラザードはでかい。ゆえに竜務員も複数は必要らしい。


「ふたりか……そうだよね」
 身体の汚れを落とすのだって、竜操者ひとりでできるものではない。

「頭をあげたら、学校の屋上よりも高いのよ。わたしも吃驚だわ」
 学校は四階建てだ。たしかにそれよりも高い。

「愛嬌のある顔をしているんだけどね」

「どうかしら。あまり竜の愛嬌は分からないのだけど」
 どちらかと言うと、強そうに見えるとリンダは言った。

 いま、学院の竜務員がシャラザードの面倒を見ているが、二回生になったら専用の人員をふたり付けて欲しいと言われたらしい。

 僕同様、新しい竜務員も一年間かけて竜との接し方を学ぶのだそうな。

「そういえばリンダは、シャラザードに乗りたいって言わないね」
 パトロンになった者は、みな最初に言うものだと思っていた。

「ちょっと凄すぎて、気後れしちゃうのよね」

 竜操者が竜に乗れなければ価値が無い。
 しかもただ乗るだけでなく、習熟している必要がある。

 決められた時間以外乗ってはいけないということもない。

 逆に、授業以外で乗ることも推奨されている。
 どんどん乗って経験を積んで欲しいのだ。

 ただしこの時期は、授業で相当厳しくやられるので体力が残ってない。

 普段は乗れるもんなら乗ってみろと言わんばかりに身体を酷使されるため、この時期の一回生は、休みの日くらい竜のことは忘れたいらしい。

 ちなみに竜に乗るのは手順が必要で、まず鞍の確認。竜の状態が確認できてようやく竜に鞍をつけられる。
 そして竜舎から引き出して騎乗。そんな流れになる。

 騎乗が終わった後はこれと逆の手順を辿ることになるが、最後に竜の世話が待っている。
 ついた汚れを落とし、竜舎の掃除、片付けまでやって開放される。

 その面倒さを考えると、中々乗る気にならないのもうなずける。

「そのうち一度乗って気絶してみるといいよ」
「ちょっと、気絶するのが前提なの!?」

「あー、どうだろ。シャラザードは他の飛竜よりかなり早いから。あと空中で旋回したり急上昇や急降下も大好きなんだよね」
「………………」

 なんかリンダが黙ってしまった。
 話題を変えた方がいいかな。

「そういえば、商国の商人がソールの町付近で工場を建てるらしいね」
「へえ? どんなの?」

「機械式の工場で、台が流れてくるらしい」
「……?」

「僕もよく分からないけど、いろんなものが作れる台みたいだ」
「でも流れてくるんでしょ?」

「流れてくるのは製品の一部みたい。それを取って少し組み立てて戻すんだ。するとその先でまた少し組み立てて戻す。それを繰り返すといつの間にか商品が完成しているとか」

「なんでそんな面倒なことをしなくちゃならないのよ」
「僕も分からないけど、画期的な工場なんだって。その技術を技国から買い取って大きな工場を建てるんだって」

「ソールの町も発展するのね」

「どうかな。周辺の町に作るらしいけど。なにしろ、大きな工場と広い敷地が必要で、働く人も大勢使うみたい。その代わり品物は短時間でいっぱいできるんだとか」

「……想像がつかないわ」
「まあ僕もだ。話だけ聞いてもね……そうそう、リンダの家は商国と関係はあるの?」

「ないわね。商国商会に入ったほうが守られていいのだけど、しがらみも多いから」
「そうなんだ」

「でもどうしてそんなことを聞くの?」
「いや……ちょっとね。いま商会に入っているのってどのくらいいるのかな」

「商国の? だったら、そうね……商人の七割いくかどうかかしら。結局、部品の調達だとか、仲介や売り先の紹介なんかで有利だから、入っている人は多いわ」

「結構多いんだね」

「そりゃそうよ。小さなところは軒並み入っているわよ。だって、同じものなら個人で十個買うより、商会でまとめて千個買った方が安上がりでしょ」

 輸送だけでもそうとうお金がかかるので、近所で商会に入ってないと競争で負けてしまうのだとか。

「その割にはリンダのところは入ってないんだよね」

「ウチは木材を自分で調達して輸送するでしょ。加工販売まで自分たちでやるもの。金具くらいかな、外から買うのは」

「なるほど。だったら影響はないか……」

「……で、何を知っているのかしら?」
「えっ!? な、なんのこと?」

「とぼけなくてもいいわよ、さあ。話してみなさい」

 リンダは繊手せんしゅを伸ばして、僕の襟を掴んだ。逃げられない。
 それと顔が近い。

「なんのことかなー?」
「話して」


「…………はい」

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