挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

191/660

191

 僕にとっての日常が戻ってきた。
 授業が始まる前にパン屋でアルバイト、その後は夕方まで授業か竜に騎乗しての実習だ。

 実習はシャラザードに乗って王都の上空を飛んでいる。
 学院や操竜場も広いが、シャラザードがちょっと調子を出すと、すぐに飛び出してしまう。

 今日も朝から『ふわふわブロワール』でパン作り。
 僕が調子よくパンを成形していると。

「お前さんも変わらないな」
 ロブさんは苦笑していた。

「そんなすぐに変わったらおかしいですって」
「普通、二回生になったら、竜の世話で忙しくてよそ見するような暇もねえはずなんだが」
「そうですかね」

 一応まだ二回生ではない。といってもあと一ヶ月で二回生が卒業する。
 そうしたら今度は僕らが上級生だ。

 昨年の二回生を見ていると、結構な頻度で演習が入っていた。
 今朝はパン作りに来ることができたが、これから先、遠征が増えることも覚悟しなければならない。

 ここは僕に癒やしを与えてくれる場所だ。
 二回生なっても通えるだけ通おうと思っている。

 そういえば、僕が竜を得た頃からだろうか。
 ミラが仕込みに顔を出すようになった。

 あのお寝坊さんがだ。

 眠い目をこすりつつ、いまも僕の隣で生地を練っている。
 速度はいまいちだが、だんだんと様になってきたと思う。

 売り物のパンを作るとき気をつけるのは、パンの大きさをバラバラにしないことだ。
 そのためには均一な厚さの生地作りが重要になってくる。

「その伸ばし棒、いいだろ?」

「まあ……悪くはないわね」

 僕のお土産をミラは使ってくれている。
 あれは僕やロブさんは細くて使いづらいが、ミラにはピッタリだ。

 長い時間をかけて選んだ甲斐があった。

「それより、黒竜はどうなの?」
「シャラザード? 自由気ままにやっているよ」

 ミラが言うには、話題の移り変わりの激しい王都にあっても、いまだシャラザードの話題は尽きないらしい。
 女王陛下の白竜と違って、実習で頻繁に王都の上空を飛んでいるからだろうか。

 竜が自由気ままでいいのだろうかと思うこともある。
 それでも月魔獣を狩りに行けとうるさい以外は、問題なくやっている。

 竜舎にいると餌もうまいし、できるだけ毎日散歩にも出ている。
 夜は他の竜もいるから気が紛れるのだろう。
 シャラザードは結構陽気だ。

 ただし、あまりいつまでも放っておけないので、そのうち本当に月魔獣を狩りに行かせたい。
 シャラザードの実力を見たいのもある。中型竜を従えたことからも、実力はあると思うのだが……。

「……ねえ、何か最近、黙っているのが辛くなってきたわ」
「店に迷惑がかかるからね」

 ずっと黙っていて欲しいものだ。
 とにかく王都の住民の噂は早い。

 僕がここでアルバイトをしていることがバレたら、えらいことになりそうだ。

 ロブさんと話をして、僕が卒業するまでは絶対に内緒ということに決まった。
 店にパン以外の目的で来られては困ってしまう。

「宣伝になると思うのよね。竜操者が焼いたパンとか言って売りだせば」
「そっちか!」

 竜迎えの儀があったあの日。
 ロブさんとファイネさん、それにミラとクシーネの家族四人で見に来たらしい。
 会場のどこにいたのか、僕は分からなかったが。

「あの時、会場が大パニックになったでしょう。面白かったわね」
 豪胆にも、ミラは怯えも逃げもせず、冷静にみていたそうな。

 どうしてかと聞いたら、「だって、あなたが連れてきた竜でしょ。大丈夫と思ったの」と笑っていた。
 竜に慣れているはずの王都の民が、あれほど驚いたのにだ。
 案外ミラは肝が据わっている。

 竜操者が焼いたパンは冗談としても、これだけ世話になっているのだから、何らかの形で恩返しをしたい。
 いつになるか分からないけど、僕はそう決めていた。



 アルバイトが終わって、僕は寮に戻る。

 今日は騎乗訓練だ。
 もうすぐ卒業する二回生についてもらって、簡易編隊の訓練らしい。

 シャラザードの場合は必要ないので、曲乗きょくのりというのを習っている。
 これは有事の際の『避け方』を練習するためのものだ。

 編隊を組んで攻撃を受けた時、バラバラに散ってしまっては互いにぶつかって危ない。
 ちゃんとぶつからないように散開して、別の場所で再集結する必要が出てくる。
 それの練習だ。

 と言ってもシャラザードが中心となって編隊を組むのだが。

 シャラザードは覚えがいい。だが、編隊行動にすぐ捻り(・・)を加えたがる。
 隊を自分色に染めたがる。

 しばらくすると、シャラザードに従っている竜たちの群れだけがおかしな動きをはじめた。
 駄目だろ、それは。

『なに、すぐに慣れる』
「慣れたら、他の編隊に組み込めないじゃないか」

『我の専属として組み込めばよい』
「その理屈はおかしい」

 僕の小言もどこ吹く風だ。
 やっぱ、自由きままな竜は駄目かもしれない。



 授業を終えて寮に戻ると、リンダからまた手紙が届いていた。

「えっと……明日か」
 手紙には緊急とある。

「なにかあったかな? こっちも話したいことがあったので、その方がいいのだけど」

 明日は授業が休みなので問題ない。
 午後にいつものレストランとある。

「午後ということは、一旦寮に帰ってシャラザードの世話のあと、直前までパン屋でアルバイトできるな」

 レストランは商業区にあるので、ギリギリまで大丈夫そうだ。
 緊急というのは気になった。

 さて、リンダはどんな話を持って来るのやら。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ