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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 リンダからもらった書類を学院の事務所に提出した。
 事務の人はにっこりと微笑んでくれる。

「はい、結構です。書類を受け付けました。申請内容に不備はございませんが、国の審査がありますので、許可がおりるまで数日かかるかと思います」

「そうですか、よかった。では、よろしくお願いします」

「大丈夫ですよ、最優先でやりますので」
「ありがとうございます」

 これでシャラザードが空腹で暴れても、少しは融通をきかせられる。
 その分、シャラザードを働かせよう。

「そういえば……」
「なんですか?」

「今年はもうひとり、追加申請を出した人がいますね。中型竜を得た竜操者ですけど」
「そうなんですか。やっぱり、中型竜だと餌の面で難しいのでしょうか」

「どうでしょうか。先々のことを考えると不安がありますので、事前に申請を出した方がいいと考える方もいるでしょう」

 リンダが言ったように、この時期のパトロンは、決まった費用を国に納める。

 その中から様々な出費が計上される。パトロンが負担するものは、竜の餌代だけではない。
 継続してかかる分、餌代が一番大きいが、中型竜の場合、専門の使用人つまり竜務員を雇った方がいいとされている。

 竜のメンテナンス、たとえば身体の汚れを落とすだけでも竜操者ひとりでするのは大変だ。
 また中型竜は月魔獣との戦いによく駆り出されるので、竜操者の武器や防具の消耗も激しい。

 部下を持てば、その面倒も見る必要がある。
 軍部で出世したとしても、出費は増える一方だろう。

 一般に竜が大きくなれば、パトロンの負担が増えると言われている。
 竜迎えの儀が終わった早々に追加申請したとしてもしょうがない。

 僕もだけど。
 というわけで僕は、無事書類を出して学院の事務所をあとにした。

 今度はアンさんの保証人のところへいく。
 王立学校へ留学するときにアンさんの身元保証をしてくれた人だ。

 その人は王宮で働いている。
 女王陛下の侍女として仕えているらしいので、僕も会ったことがあると思う。
 本当の保証人は女王陛下だけど、書類上ってやつらしい。

 本当は学院の授業に出たいのだが、やることが多い。

 結婚式に参加したので、最近はさっぱり授業に出ていない。
 授業はかなり進んでいるらしいので、今後ついて行けるか不安だったりする。

 実習の方は、うまく竜を操ることを重点的に学んでいると聞いた。

 僕の場合、シャラザードと意思疎通できるので、出席しなくても大丈夫だろう……と思っている。今のところはだけど。

 今回の欠席した分はどうなるんだろうかと思ったら、教官から技国まで竜に乗って行ければ問題ないと言われた。

 それとまだ試してないが、シャラザードは属性竜なので何らかの属性技ぞくせいぎが使えるらしい。

 僕はそれを把握して、一般の民や他の竜に被害が出ないように充分練習を積む必要があるようだ。それは別途練習しなくてはならない。

 シャラザードに「何ができるの?」と聞いたところ、「知りたければ我を月魔獣の前まで連れて行け」と言われた。

 最近シャラザードは、ゾックとは言わず、月魔獣と呼ぶようになっている。僕に合わせてだ。
 もうすぐ一月が終わるが、僕はまだまだ忙しい。難儀なことだ。



 王城で正式な手続きを取って、アンさんの保証人と面会することができた。
 城内の一室、外部の人が訪ねてきたときの応接室のようだ。

「お噂はかねがね伺っております」
 おっとりとした人で、歳は30歳前後だろう。名前はアイナ・デシカさん。

「お初にお目にかかります」
 記憶を辿っても僕は会ったことがなかったようだ。
 つまり、〈左手〉関連の人ではないらしい。

「アンネロッタさまは、わたくしも妹のように思っております。……先日は助け出していただいて、本当にありがとうございます」

 と深々と頭を下げた。どうやらアイナさん、僕が〈影〉であることは知っているらしい。
 ちなみに娘のようにではないのですか、と失礼な事は言わない。
 年齢的に妹でも合っているはずだ、たぶん。

「知り合いが掴まったのです。助けない理由はありません。それで、このことはアンさんに」
「もちろん、お話しておりません。わたくしも女王陛下から固く口止めされておりますので」
「そうですか、良かった」

 アンさんの保証人を任されるだけあって、落ち着いた理性的な人だ。

「それで、レオンさまの保証人の件ですね。喜んで引き受けさせていただきます」
「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしないよう、心得ます」

 なぜ僕がアンさんの保証人と会う必要があったのか。
 それは僕自身もアイナさんに、保証人になってもらうためだったりする。

 リンダの場合、僕のパトロンだから自由に手紙を出せるようになった。
 だがアンさんは違う。

 もしアンさんの方から連絡を取ろうと思ったら、リンダを経由するか、女王陛下に願い出なけばならない。
 そこで考えたのが、王都の保証人制度である。

 遠く離れた地からやってきた学院生には、王都で保証人を付けることができる。
 家族と同じ扱いだ。もちろん家族だから手紙も届く。

 そういうわけで、アンさんから僕に連絡を取る場合は、アイナさんを通して行おうということになった。
 この保証人も国の審査があるが、それは問題ない。

 よって今日、こうしてアイナさんとの顔合わせをすることになったのだ。

 ちなみにこのアイナさん。
 ご両親のうち、母親が兎の氏族出身である。

 竜国が竜紋の情報を積極的に公開していないため、アイナさんの母親の両親が、一縷いちるの望みをかけて王都に移住してきたのがはじまりらしい。

 竜の聖門の近くだからといって、竜紋が現れる確率が上がるかといえば、そんなことはない。
 また、竜紋限界の内側に少なくとも十年は住まないと竜紋が現れることはない。

 こういった事実を知らない他国民は結構いるらしく、アイナさんの母親も、15歳ごろになって王都に移住してきたらしい。

 夢は敗れたけれども、そのまま竜国の民になり、結婚。そしてアイナさんが生まれたのだと話してくれた。

 そのため、女王陛下から兎の氏族領と縁深いアイナさんに話がいき、二つ返事で了承したという。

「レオンさま、これからは手紙の受け渡しだけでなく、なにか困ったことがあれば、わたくしにもご相談くださいませ。そのときはできるだけ力になりたいと思います」

「ありがとうございます。僕自身、まだ王都で知り合いも少ないので、とても助かります」

 シャラザードの主として、名前だけは独り歩きしているらしいけど、友人は少ないのだ。

「では、今日はこれにて。次はアンさんと一緒に参ります。……今後ともよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」

 アイナさんは終始笑顔を崩さず、そう言ってくれた。
 これで僕にも王都に保証人ができた。


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