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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 アルバイトを終えて寮に戻ると、リンダから手紙が来ていた。
 僕が竜国に戻ってきたのが昨日。

 リンダの行動が素早い。
 飛翔するシャラザード巨体を周辺住民が見逃すはずはないので、どこかで噂を聞いたかもしれない。

「……しかし、ミラはどうしてこう、凶暴なんだろう」
 先ほどのことを考える。

 まさか土産物で殴られるとは思わなかった。
 使い方を間違えている。今度会ったら、もう一度注意してみよう。

 それと、リンダの方から手紙が届く便利さ。
 いつもはしびれを切らして花を贈ってきたが、今はその必要もない。

 慌ててフォローしなくていいのはありがたい。
 リンダが笑顔で青筋立てた姿は、正直怖かったのだ。

「明日、喫茶店で会いたいって書いてあるな」

 リンダは学院の近くで待ち合わせるのを嫌う。
 王立学校の生徒がいない場所まで出向かねばならない。

 リンダは馬車で出かけて、ついでに買い物を済ませばいいだろうが、こっちはシャラザードの世話もあるのだ。
 できれば近場で簡単に済ませてもらいたい。



「ハイ、これ。パパからね」
 喫茶店で待っていると、リンダは複数枚の書類を持って現れた。

「シャラザードの餌の件だよね」
「そうよ。これでシャナ牛を追加するのに、いちいち許可はいらないわ。まあ、限度があるけれど」

 先日、シャラザードが牛の『おかわり』をした件で、竜務員と一悶着あった。
 属性竜の特殊性も加味して、パトロンにお伺いを立てずに餌を増量できる書類を書いてもらったのだ。

 めったにあることではないが、怪我をしたり、この前のように国を跨ぐような長距離移動したあとは、通常よりよく食べる。

 小型竜は餌を食べる日数を短縮すればいいが、シャラザードの場合、もともと大型竜なみの頻度で食べる。日数短縮といっても限度があったのだ。

 そこで竜務員から、火急に備えて先に書類を作っておいてほしいと言われた。

「学院の判断だけだと、餌を増量できないんだよね」
 ちょっと面倒だ。

「まあね。ウチが国に支払った餌代の額が決まっているもの。そもそも先払いだし。でもパパは今回のことは喜んでいるわ。それほどの竜ならかえって光栄だって」

「ヨシュアさんの考えることはよく分からないな」

「悲願だったんだし、いいんじゃない? わたしも学校を出たらパパとは違う販路を確保するし、シャラザードの餌代なんかはした金になるくらい稼いでみせるわよ」

 リンダならやりそうだ。
「うん、ほどほどにがんばってね」

「任せなさい。兎の氏族にパイプができたのが大きいわね。四月からわたしも部下を持つから、南方面に手を伸ばすわよ」

 ほほほほっと、リンダは手で歯を隠して笑った。
 学校に通いながら実業家を目指すらしい。

「それで、向こうの結婚式はどうだったの?」
「ああ、うん。壮大で盛大。とても豪華な結婚式だったよ」

「いま技国で一番の上り調子、飛ぶ鳥落とす勢いの氏族だものね。あやかりたい人々は多そうよね」

「そういえば他の氏族の人たちもかなり来ていたかな」
 とくに若者が。

「その人たちって大方、アン先輩狙いでしょ。そういう情報収集に疎いのは端からお呼びじゃないでしょうけど。……それで、どうだったの? アン先輩とは」

「えっ!? な、なにを?」
「技国の事情、向こうで聞いたわよね」

 リンダはズズッと顔を近づけてきた。ちょっと怖い。

「序列一位になりました。さあ、どうしましょうか。これからみなさんで考えましょうってやると思う? 普通、序列が発表されたらすぐに動ける準備くらいするわよね」
「そうだね」

「技国内のことはいいと思うの。首都がすべきノウハウはこれまでもあるのだろうし。問題は他国との関係よね。とくに兎の氏族は竜国と昔から親しいわけだし」

 間に商国を挟んだ関係だからか、兎の氏族と竜国は先代の王の時代から親密な関係であることが知られている。

「そ、それがアンさんとどういう関係が?」

「ここまで言ったのに、とぼけているわけね。へぇー」
 リンダが口をすぼめた。

「い、いやとぼけているんじゃなくてね。リンダがどこまで知っているか分からないというか、何というか」

「語るに落ちたわね。竜国と兎の氏族。互いに等価なものなら出し合うことは可能よね。どちらか一方が得や損をしなければいいわけだし」

 人はそれをバーター取り引きという。

「つまり僕とアンさん?」
「そういうこと。序列一位の直系孫娘に並ぶなら、竜国だと王族に近い地位を持つか、特別な竜を持つ者がふさわしいわよね」

 リンダはなんでもお見通しだった。

「……そうだね。僕はアンさんと将来に向けての約束をしたよ」
 隠せる話ではないし、リンダには隠せない話題だ。

「そう。良かったわ。これがわたしたちとまったく関係のない相手が出てきたら、それはそれで困ったもの。とくに商国の息がかかった相手だと大変なのよ」

 リンダは僕のパトロンだが、たとえば僕の婚姻相手が商国商人だった場合、リンダの商売もどうなるか分からない。
 なにより僕自身が商国寄りになる可能性があるらしい。

「リンダは反対するかと思っていたけど」

「そんなことないわよ。アン先輩は人柄もいいし、地位もある。あなたにはもったいないくらいよ。でも、本人がそれを望んでいるわけだし、わたしたち誓ったじゃない。あなたをバックアップするために力を合わせなきゃ」

 女性は強い。本当にそう思わせるリンダの発言だった。


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