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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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「想像もできません」

 女王陛下の「なんだと思う?」という問いかけに僕は簡素に答えた。

「もう、つれないわね」
 女王陛下は扇で口元を叩く。

「本当に……はい」
「まあいいけど。正解はね、商国が密かに洞窟を掘っていたの」
 いつの間にかクイズになっていた。

「洞窟というと、貯蔵庫……ですか?」

 竜国の南では、天然の洞窟をそういう用途に使っている。北は地中を掘って作物を埋めるらしいが、南にはその風習がなかったと思う。

「その通り。人の荷の列は掘り出した岩や土砂ね。土砂を近くに捨てると、そこに洞窟があると分かってしまうからよね」

 徹底しているな。そうまでして隠したいわけか。

「きたる大転移に備えてでしょうか」

「大転移の情報を得た時期から逆算すると、そう考えるのが妥当ね。物資を溜めておくのは意味があるし、いろいろ先を見越しているわね。場所は西の都と東の都の中間くらい。人があまり入らない場所だったわ」

 大転移で月魔獣が跋扈するのは三年間とした場合、食糧難は最初の降下から半年遅れくらいでやってくるか。
 その年の収穫が終わるかどうかで変わってくるが、大転移中、のん気に作付けできるとも思えない。

 避難生活をはじめれば、作物は作られないのだ。
 人が安心して作物を栽培できるようになるまで、収穫高は激減するだろう。

 大転移が起こる時期が分かっているならば、事前に準備するのは分かる。
 隠して自分たちだけ生き延びようとするのは道義的にどうかと思うが、間違ってはいない。


 ――隣国を助ける国は滅びる


 どこの国にも似たようなことわざがある。
 月魔獣の脅威が日常的にあるからこそ、言える言葉である。

 国が民を守る。
 民を不幸にする為政者は失格である。
 国が率先して民を虐げるのは、愚者のやることである。

 竜国には、「蛮勇は愚者にも劣る」という言葉がある。
 最低位置にいる「愚者」にも劣る存在、それが蛮勇である。

 抱えきれない民を救おうとするのは、蛮勇であろう。

 だからこっそりと物資を貯蔵しようとする商国の選択は正しい。
 さて、女王陛下はどうするのだろうか。

「あなたはなんて目で妾を見ているのかしら。悪いことはしないわよ」
 女王陛下は小首を傾げた。

 だが、実際はどうだろう。なんとなく信用できないのだが。

「ちゃんと民のため、時期が来たら教えてあげるつもりよ」
「………………」

 必要になったら、情報を流すつもりだ。
 たぶん、タイミング的には一番効果が高いときを狙ってだろう。

 不安が最高潮に達したときに、『洞窟に大量の食糧が貯蔵してある』と。それはもう、ここぞとばかりに噂がばら撒かれるんだろう。怖い人だ。

「商国が魔国と手を組んだのは、自国に難民を入れないためと伺いましたが」

「そのとおりね。難民はまず食糧。そして生活できる環境を求めるわ。商国には、生産すべき耕作地がない。そして商人は世界中に散っている。難民は商国に向かっても意味がないと考えるでしょうね」

「そのような理由で竜国へ行けとけしかけるのですか」
「竜国と技国にね。……移民の方が多くなれば、力関係は逆転するわ。虐げられるのはもとからいた民たち」

 彼らは虐げられ、居場所を奪われ、別の難民となって他へ移り住む。すると、その先でやられたことと同じことをする。

 竜国内にその負の連鎖が徐々に広がっていく。

「そうならないようにしたいですね」
「そう。勝負は大転移が起こるまでの間に、どれだけ準備できるかにかかっているのよ」

 やっぱり女王陛下は楽しそうだった。

 なんかちょっと報告に来たつもりだったが、わりと重い話を延々聞かされた気分だ。
「それでは僕はそろそろ……」

「あらもう帰るの?」
 もうって、自分的には長居しすぎた気がするのだが。

「夜も更けてまりましたので」
「残念ね。……いま魔国と商国の情報を探らせているから、また動いてもらうかもしれないわ」

「そのときは誠心誠意、尽くさせていただきます」
 もう女王陛下は、僕がソールの町所属の〈影〉だと思ってないんだろうな。

 もう一度礼をすると、僕は闇に溶けた。
 今日は疲れた一日だった。



 翌朝、僕は久しぶりにアルバイトに出かけた。
『ふわふわブロワール』に向かうと、ロブさんが出迎えてくれた。

「結婚式に出席したんだろ? どうだったんだ?」
「大層豪勢な式でした。あっ、これお土産です」

 僕は背負っていた袋から、酒の瓶を取り出す。

「ん? こりゃまた立派な酒じゃねえか!」
 町まで出歩けなかった(王女護衛は除く)ので、氏族が利用する本拠地内の店で土産を見繕ってきたのだ。

「南の方は果実酒が主流らしいですね。式にも出されていて、評判が良かったので買ってみたんです。どうぞ飲んでください」

「ありがとうよ。しかし、こりゃ大事に飲まねえとな」

 ロブさんの顔がニヤけている。

「奥さんにはこれを」
「そうかい。ちょっと待ってな……おーい」

 ロブさんは、開店の準備をしているファイネさんを呼び寄せた。

 ファイネさんには海獣の骨で作った化粧道具一式を買ってきた。
 使い方は分からないけど、ファイネさんなら分かるだろうと思って買ってきたものだ。

「あら、なんかすごくいいものなんじゃないの? 箱も立派すぎて、めまいがしそうよ」
 氏族の人が買うものらしく、いろいろ凝っているのだ。

「喜んでもらえてなによりです」
「本当にいいの? レオンくん」

 僕は頷いた。

「母さん、どうしたの? そんなに騒いで」
 ミラとクシーノの姉妹がやってきた。今日は早起きだな。

「ホラ、レオンくんが技国のお土産を買ってきてくれたのよ」
「わぁ、みせてみせて……すごーい。きれーい」

 クシーノが目を大きく開いて箱を眺めている。
 それ、箱だから。本命は中身だから。

「お父さんは?」
「おう、俺か? 俺はこれだ」
 大事そうに酒瓶を抱えている。よほど嬉しいのか、先ほどからニヤニヤが止まってない。

「それは?」
 ミラが指差したのは、僕が持っているふたつの小箱だ。

「これはケールさんとミランダさんに、小物入れをね。開くと音が鳴るんだ」
「音が鳴る? どうして!?」
「技国式のカラクリだね。原理はよく分からない」

「す、すごいわね。さすが技国といったところかしら」
 ミラの顔が引きつっている。

「ねえ、わたしには?」
 クシーノがつぶらな瞳を向けてきた。

「もちろんあるよ。クシーノにはこれだ」
 袋の中から髪飾りを差し出す。
「これを……いいの?」

「ああ。クシーノは時々髪を邪魔そうにしていただろ? これで綺麗にまとめるといい」
「わぁい、ありがとう!」

 クシーノが抱きついてきた。

「………………ねえ、それで私には?」
 うずうずとした調子でミラが尋ねてくる。

「ミラのは悩んだんだ」
「そうなの?」
「ミラに似合うのはどれかなって、選ぶのに一番時間がかかったよ」

「へえ、それは楽しみね。化粧道具なの? 髪飾り? それとも装飾品かしら?」
「ほら、ミラへのお土産はこれだ」

「わぁ、ありがと……う? なに、これ? 木の棒?」

「パン生地の伸ばし棒だ。最近頑張っているミラに一番合うものを選んだんだ。いま使っているのはロブさんのだから、ミラには少し扱いづらいだろ? 少し細めのを見つけるのに苦労したんだ。けど、その甲斐があったよ。森の深層に生えている巨木から作ったものなんだ。僕は一瞬で目を奪われたね。この伸ばし棒はきっとミラに似合う。僕も欲しいくらいだ。これを使って仕込みを……って、おい、ミラ。それは振り上げるものじゃない」

「ちょっと! なんで私だけ棒なのよ!」

「棒じゃないって、伸ばし棒だ。最高級品だぞ。それを選ぶのにどれだけ時間がかかったか……だから振り上げるな! 振り下ろすな。僕は生地じゃない! うわ待て! 何をするんだ!」

「レオンの……バカァ――――!」

 なぜかミラは、伸ばし棒を振り回して、襲いかかってきた。

 解せん!



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