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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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「そういえば、まだご報告すべきことがありました」

 これ以上、女王陛下の怖い話を聞きたくないので、僕は早めに終わらせることにした。

「あら、魔国以外でまだあるのかしら」

「はい。商国の五会頭のひとり、『華蜜はなみつ』のハリム会頭が僕に接触してきました」

 手早く、贈り物を渡そうとしたので断ったところまで話した。

「ハリム……西の都で七年前かしら、『魔探またん』のヤグトから引き継いだ者よね」
「すみません。そのへんはまったく存じておりません。大層な伊達男のように見えました」

「五会頭はほぼ世襲だけど、たまにこうして交代があるの。名誉職に近いわりに激務だし、人気がないと思うのだけど、ハリムは違ったタイプなのよね」

 私欲を捨てないと五会頭になれない。
 自分の能力を商国のために使うことが求められるからだ。

 しかも、五会頭のひとりになったとしても、報酬は微々たるもので、本人の持ち出しになることが多い。
 そういった意味でも代わりのなり手はいないのだとか。

「ハリムの意図は分かりませんでしたが、僕を手に入れたかったのかもしれません」
「そんな感じかしらね。あなたのパトロンは大丈夫? たしか商人だったわよね」

「本人および家族は大丈夫かと思いますが、商国と知らずに付き合っている可能性もありますので、確認しておきます」

「それがいいわね」

「その後ですが、東の五会頭のひとり『麦野ばくや』のフストラ会頭とも話をしました」
 パンの話で盛り上がった。
 あれは楽しかった。思わず、頬がほころんだ。

 だが、女王陛下の顔が優れない。

「東のフストラ・エイルーンね。どんな様子だった」
「とても気さくな、感じの良い商人という印象を受けました」

「……そう」
「なにか?」

「『麦野』のフストラは数年前に父親の代わりに五会頭になったやり手ね」
「それが……?」

「妾たちもその動きは察知できなかったわ」
「!?」

「五会頭は自分の商会だけでなく、下に多くの組織を抱えているわ。トップの交代が事前に察知できないはず、ないのよ」

 さきの『魔探』から『華蜜』のような場合なら仕方ないが、息子に権力を委譲するのに、竜国の〈影〉が察知できないのはよほどのことらしい。

「家族内で話あったのではないですか?」
「ちゃんと、組織内の任状にんじょうがないと無理ね。事前に過半数の承諾を得ていたはず」

「それは……」
 僕も同じ〈影〉だから分かる。

 不審な動きがあれば、どこかで無理が出る。
 まったく察知できなかったならば、〈影〉が懐柔されたのか。もしくは……。

「先代『麦野』も驚いたでしょうね。見事な手際を見せられたら、抗う気力も失せるでしょう」
 つまり正攻法で、だれにも気取られることなく味方を増やしたらしい。

 過半数を寝返らせた上で話を父親に持っていたのだろう。

「『麦野』のフストラ。世が乱れていたらすぐにでも頭角を現したでしょうね。将軍か軍師くらいにはなったでしょうに」
「それほどですか」

 僕の印象は正反対だった。
 本当に話の分かる、とても感じのいい人だった。

 そんな策略を巡らすようには見えなかった。

「誑かされないようにね」
「は、はい。肝に銘じます」

 僕の内心を知ってか、女王陛下は釘を刺すのを忘れなかった。

「そうね。商国でもうひとり気をつけた方がいいのがいるわ」
「他に……ですか?」

「『銀檻ぎんかん』と呼ばれているダイネン・フォボス。これも東の会頭よ。彼に会ったら気をつけなさい」
「はい……して、どう気をつければいいのでしょう」

「『銀檻』のダイネンは人を商っているわ。戦う人、つまり傭兵ね」
「傭兵ですか」

「傭兵だけでなく、屋敷や砦、人を護る人材も派遣しているわ。秘書や執事、メイドなど。五会頭についている護衛の半分はダイネンの息がかかっていると見ていいわね。食い詰めた呪国人を多数抱えているというけど、いまだどこに隠しているのか見つからないのよね」

 女王陛下が気をつけた方がいいと言うわけだ。
 戦力を隠しているのか。しかも、見つかっていない。

「そういう訳だから、『麦野』と『銀檻』には注意なさい」
「はい……そう致します」

 報告しただけなのに、聞きたくない情報が増えた。

「そうそう、商国で思い出したけど、技国の内乱のときにね、面白いものを見つけたの」

 ぎゃー。

 また出た。
 女王陛下の面白い話だ。大丈夫なのか?

 まるで今日の女王陛下はびっくり箱なんだけど。

「えっと、今度はどこと戦争するつもりなのでしょうか」

「失礼ね。そんなんじゃないわよ。大山猫の氏族を牽制するためにアラル山脈に飛竜を派遣したでしょ、その帰りに少し寄り道したの」
「……はあ。この前の内乱のときですね」

 どこへ寄り道したんだ? というか、竜の寄り道って、散歩か? 買い物か?
 相変わらず、女王陛下の行動が読めない。

「アラル山脈の商国側って、なかなか見たことがないのよね。だから、帰路は山脈に沿って帰ってもらうことにしたの。そうしたら、奇妙なものを見つけたのね」

 アラル山脈は、竜国と商国を隔てている高い山の連なりだ。

 女王陛下が言うには、見つけたのは山道から荷を運び出す人の列だったそうだ。
 アラル山脈は鉱脈も見つかっておらず、植物もそれほど自生していない。

 いったい何を運び出しているのかと、不思議に思ったそうな。

 そもそも標高の高い山が連なっており、人が踏み入れることも少ない。
 そんな場所に荷を運ぶ人の列など、まともとは思えない。

「後日、人をやって調べさせたのね。それがつい最近戻ってきて、いろいろ分かったわけよ」
 女王陛下は楽しそうだ。

 なんだと思う? と聞いてきたので、「想像もできません」と答えておいた。

 女王陛下のおもしろい話は怖くてしょうがない。


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