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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第3章 商国陰謀編

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 毒の沼地に沈んだ王冠を引き上げるにはどうしたらいいか。
 少し前、ベアさんからそう問いかけられたらしい。

 王冠とは、鴎の氏族そのもの。
 氏族が護るべき民と心得よと。

 どのようにして王冠を拾い上げる、つまり民を救うのか考えてみろと。

「私とお兄様はどのように拾い上げるか知恵を絞り、答えを出しました。ですが、お祖母様は満足されましせんでした」

 言いがかりに近いような設問のような気がするけど、意味があることなのだろう。
「なんて答えたんですか?」

「私が沼に入って王冠を探すと。さすがに次期氏族長であるお兄様を沼に入れるわけにはいきませんから」

「なるほど」
 間違ってないように思えるけど、その答えではベアさんは満足しなかったと。

「いまの問いに、正解はあるのでしょうか。ベアさんが求めている正解という意味ですが」
「お祖母様が言うには、人を使って探させろと」
「あー」

 途中で毒にやられて倒れたら別の者を使って、別の場所を探させるらしい。
 そうすれば、いずれ見つかると。

 つまり、人の上に立つ者の心得えを伝えたかったのかな。

「毒にやられると分かっているところへ、私は次々と人を送り込めるでしょうか。お兄様も納得はしましたが、悩んでいるようでした。個を捨てて全体を取ること。その決断をするときが必ず来ると。お父様はそれができなかったと言われてしまえば……」

 なるほど。
 グエンさんは目の前の個を見捨てることができなかったわけか。

 それはトラッシュさんの造反を感づいていたけど、切ることができなかったとか、そういうことかもしれない。

 鴎の氏族と竜国との関係が悪化したのも、一部氏族の子弟たちの暴走だったはずだ。
 そこから引くに引けない事態に陥ったと聞いている。

 同盟を組んだ大山猫の氏族との交渉も、グエンさんではうまく行かなかったと聞いている。

 つまり鴎の氏族は、昔からそういう『決断』が苦手なのだろう。

「ベアさんの言うことも概ね正しいと思います。為政者は目先のことに囚われたり、感情に任せて決断するべきではないと考えますし」

 イーナさんが毒の沼地に入るのはたしかに失策だろう。
 替えの利かない人を使うべきでないのは分かる。だが、それでは他人に死ねと命令することになる。

「レオン様もそう考えますか。私が間違っていると」
「……というより、僕ならばその王冠は諦めますね」
「はい?」

「別の王冠を作ればいいじゃないですか。王冠が民と言っても、それは象徴的な意味だろうし、べつに他に方策があっていいと思うんですよね。民を救うなら、みんなで考えればいいじゃないですか。べつに自分で決断する必要もないと思うんですけど」

「でもそれでは氏族の務めが」

「逆に、氏族内だけで判断して失敗するほうが被害が大きいでしょうし、広く意見を求めるのは悪いことじゃないと思います。……というか、解決方法はひとつじゃないってことは大事じゃないかなと」

「なるほど。それは私にはない発想です」
 イーナさんが真面目だからかな。

「いまの話でお役に立てたか分かりませんが」
「いえ、目の前が広がったような気がします。ありがとうございます、レオン様」

「いえ、そんな大したことを言ったわけではありませんし」
「今夜はよく眠れそうです」

 イーナさんはスッキリした顔で戻っていった。


 翌朝僕は、氏族の人たちに見送られて旅だった。
 イーナさんは昨日同様、穏やかな顔をしている。

 シャラザードが景気よく咆哮をしかけたが、全力で殴りに行ったので、今回は大丈夫だった。危ない危ない。
 咆哮を覚えている人たちの腰が引けたけど、それくらいはハプニングにも入らないだろう。

『このまま狩りに行くぞ』
「行かないよ!」

 これから王都に帰るんだ。

 女王陛下に報告すべき事が多いし、学院にも顔を出さなきゃいけない。
 学院の方は公欠だったが、授業に出ていない事には変わりがない。

 これ以上寄り道できない。

 そのかわりシャラザードが気持ち良く飛びたいというので好きにさせた。
 少々の曲芸くらい許してやろうと思う。

 やはりというか、かなりの速度で飛翔しやがった。
 青竜や女王陛下の白竜も同じなのか、今度聞いてみたい。

 結局昼前には王都に到着してしまった。
 休憩なんか入れるはずもなく、一気に飛びきった。

 聞いたところ、王女たち一行はまだ着いていないという。
 昨日はソールの町で一泊したのだから、距離は王女たちの方がかなり近いのだが、シャラザードの飛ぶ速度を考えるとそうなのだろう。

 なんにせよ、僕は王都に帰ってきたのだ。

 さて王城に着いたわけだが、ここで何をおいてもまず、女王陛下に帰還の報告……と思ったら、会議中だった。夕方まで終わらないらしい。

 忙しいのは分かっているので、一旦学院にシャラザードを置いてこようと思う。

 そこで僕はふと考えた。
「……夕方に報告だと重なっちゃうな」

 重なる……もちろんドラス隊長たちのだ。
 僕の報告は公的なものではないし、どのみち込み入った話もあるので、夜の方が良さそうだ。

 ドラス隊長も僕と一緒だとやりづらいだろうし。
「よし、そうしよう!」
 それはとても良い案のように思えた。

 ……のだが、夜にやってきたら、また王宮内の結界が一新されていた。

 感知結界や警報結界などは、新しく導入するのにかなり高価だと聞いたことがある。
 今回も新しい結界ばかりだけど、これ。結構金がかかっているんじゃなかろうか。

 しかもアンチ僕用の結界が増えているし、ターゲット間違っていないか?
 引っかかると再設置も面倒だろうし、細心の注意を払って侵入してあげた。

 最近の僕はそういう気配りができるのである。



「話は聞いたわ」
 報告の途中で、女王陛下はコロコロと笑った。
 なにをどれだけ聞いたんだろうか。

「恐縮です」
 よく分からないけど、そう答えておいた。
 最近の女王陛下はいつも楽しそうだ。
 頭を悩ませる問題ばかり舞い込んでいるはずなのに。

「煽ってわざと先に手を出させて反撃するなんて、レオンも策士ね」
 あれ? そう思われているのか?

 僕は喧嘩を売られたから買っただけなんだけど、いつの間に僕が仕掛けたことになっているんだ?

「えっと……恐縮です?」
 しかもそれって、褒められることなのか?
 いまいち女王陛下の褒めるラインが分からない。

 話の出処はサーラーヌ王女だろうし、曲解していろいろ吹き込んだんじゃなかろうか。
 今度お礼の手紙でも、枕元に置いてきてやろうか。

 まったくこれじゃ、僕が好戦的な人間みたいじゃんか。
 僕は田舎でパン屋をするのが夢な、とても温厚な人物なのに。

「それで魔国の外交官とどんな話をしたのかしら?」
 女王陛下はすべて分かっているだろうに、あえて聞いてくる。

「はい。僕の竜を見せろと高圧的に接して来たのが始まりでして……」

 先日の襲撃について知っていたこと、竜の前に連れて行くのを断ったら、襲撃をほのめかす言動があったことを話した。

「それで夜は技国の兵に守らせたわけね」

「はい。認識阻害の魔道を使っておりましたので、僕が少し手を貸しました。それとシャラザードに聞いたところ、竜舎にも近づいたようです」

 まえにシャラザードが言っていた連中は外交官たちだった。
 警備兵に追い返されたあと、護衛が認識阻害の魔道を使ってやってきたが、シャラザードのひと唸りで退散していったらしい。

 そもそも認識阻害の魔道は、人の認識を狂わせるもので、竜には効かない。
 こっそり近づいたところで見つかるに決まっているのだ。

「あの魔道は猟犬ですらごまかせないものだし。そんなところよね。ではこの事実も公表させてもらおうかしら」

 さきの竜国襲撃だけでさく、今回は結婚式に出席した他国での出来事だ。
 しかも技国の兵に見つかり取り押さえられている。
 竜国の妄言とすることもできない。

「現役の外交官というところが、言い逃れできない感じですね」
「魔国は人事を刷新をした弊害が出ているわね」

「仕事の優秀さと本人の品性が一致しないこともあるでしょう。今回はそれが悪い方に働いたのかと」

「なるほどね。……魔国といえば、面白い話があるの」
 女王陛下の笑みが深くなった。

「面白い話……ですか?」
 それが僕にとって面白いかどうかは分からない。
 とくにこの女王陛下からの言葉だと。

 僕はつばを飲み込んで、女王陛下の言葉を待った。


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